第325話 ◆覚醒連絡

 ◇◆◇ 11月13日 8:53 ◆◇◆


「はぁ~……」


 KWN堂に出社し、深い溜め息を吐く記者【御剣みつるぎ麻衣まい】。

 椅子に腰かけ、パソコンを起動する。

 映し出されたデスクトップ画面。そこにはクラン【命謳】が月刊Newbie10月号の表紙を飾った写真が、壁紙として設定されていた。

 御剣は、その壁紙に映る伊達玖命の顔をつんつんと指先で触れ、再び深い溜め息を吐く。


「昨日は楽しかったなぁー……」


 そう言った後、すぐに御剣の顔は曇ってしまう。


「途中までは……」


 肩を震わせる御剣。


(堀田くんと一緒に本社ココに帰ろうとしたら、いきなり連絡が入るんだから……なぁにが『会社には私から連絡しておく』よ。勝手に直帰扱いにしてくれちゃって……伊達くんの写真の選別があったっていうのに……!)


 そんな御剣に、1つのポップアップが目に入る。


「【ツイスタX】から? ……っ!」


 直後、御剣は目を見開いてその場に立ち上がる。

 届いていたのは、【ツイスタX】からの通知メール。

【ツイスタX】内でメールが届いたという知らせだった。

 その送信先が――伊達玖命。


「嘘っ!? 何っ!? 私、昨日何かしちゃったっ!?」


 周囲の視線など気にする事も出来ず、御剣は焦りを見せる。

 しかし、その疑念はすぐに晴れた。


(でも……昨日何かしでかしちゃったのなら……職場のメールアドレスに連絡がくるわよね……?)


【ツイスタX】経由で連絡がきた事に新たな疑念を抱き、御剣は自身のスマホを開き、【ツイスタX】を開く。

 メール欄には、確かに伊達玖命からの連絡が入っていた。

 メールを開くと、そこにはこう書かれていた。


 ――御剣様

 お世話になっております。伊達です。

 本日は月刊Newbieのお仕事、ありがとうございました。


 また、突然のご連絡、申し訳ございません。

 今回、御剣様にご連絡したのは他でもありません。

 用件としましては、今回のお仕事とは別件――私やKWN堂、KWN株式会社に関する件で、御剣様にご相談したい事がございまして、連絡致しました。

 近日中に再度、直接お会いしたいのですが、ご都合いかがでしょうか。


 伊達玖命


「……何か、妙に堅苦しいメールね?」


 決してプライベートなメールではないと断言出来るようなメール内容に、御剣は小首を傾げる。


「まぁいいわ。また伊達くんと会えるなら……ふふ、目の保養よね」


 そう呟くように言い、御剣はそのメールに返信するのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 天才特別収容所――通称【天獄】。

 午前の刑務作業を終えた受刑者たち。

 その健康、心身の安定のため設けられている昼食後の昼休み。

 日光浴をする者もいれば、本を読む者、天才という身なれど、そのほとんどは一般人と変わりない。

 その身を縛る手枷こそあるものの、ウォーキングに勤しむ者もいる。

 そんな中、ベンチに座る【将校】飯田いいだはじめに近付く者が一人。


はん

「あっれー? 阿木、、さんじゃないっすかー?」


【将軍】阿木あぎ龍己たつきが、飯田に声を掛けたのだ。


「どうしたんすか? 難しい顔しちゃってー」

「とぼけるな、【天獄ここ】から脱出する手筈はどうなってる?」

「はははは、そういう話は僕じゃなくて阿木さんのが詳しいでしょー? 僕より長いんだし」

「その連絡役のお前が捕まったのだ。繋ぎがいなくては連絡もかなわん」


 阿木がすんと鼻息荒く言うと、飯田はケタケタと笑いだす。


「あははは、確かにそっすよねー。でも残念、僕にも何の連絡もないっすよ」

「確かか?」

「だって、日本の主だった【はぐれ】、ほとんど捕まっちゃったでしょ?」


 そんな飯田の言葉に、阿木が口を結び、唸る。

 すると、その背後に1人の男が歩み寄る。


「何だ、2人仲良く脱走の相談か……」


 振り返ると、そこには【上忍】羽佐間はざまじんが立っていた。


「あ、羽佐間さん、ちーっす」

「ふん、盗み聞きとはな。手枷で縛られようとも、【上忍】の片鱗は残すか」


 飯田と阿木の言葉に、羽佐間がくすりと笑って言う。


「盗み聞きとは片腹痛いな? その背に焦りが見えていたぞ」

「ちぃ、雑魚がキャンキャン吼えるな」

「ははは、どうせ我らは負け犬。吼えたところで虚空に響くだけよ」


 羽佐間の言葉に、阿木はむすっとした表情で顔を背ける。

 ニヤニヤと笑って阿木を見る飯田に、羽佐間が聞く。


「今日は渡辺や堂本はいないのか」

「あの人たちは別の班だからね。今日は僕たちと……――」


 言いながら飯田が視線をずらす。

 その視線の先には、ニヤニヤとした表情をしながら太陽を見る【道化師】八神やがみ右京うきょうの姿があった。


「ヒヒヒヒ……」


 薄気味悪い八神の表情に、阿木が呆れた視線を向ける。


「アレはよくわからんな、本当に」

「あははは、わかるっすー。あれでいて精神鑑定結果がまともなんて世も末っすね」


 飯田の言葉に、羽佐間が言う。


「【固有天恵ユニーク】持ちの特性というやつか?」

「あー、そういえば、そんな噂もありましたね。ま、むかーっしの話っすけど。【固有天恵ユニーク】持ちはどこかぶっ飛んでるってアレ。まぁ、あながちハズレじゃなさそうですけど」


 飯田がそう言うと、その言葉に阿木が反応する。


「伊達……玖命……か、アレもまた特異な存在よな」

「特異も特異。尋常じゃないっすよ、アレは……」

「今や日本一の男……さて、今はどこで何をしているのやら……」


 阿木、飯田、羽佐間の言葉は、やはり虚空に消え、彼らの視界の端で太陽を見つめていた八神は、またニヤリと笑った。


「……もうすぐ、もうすぐだよ……また会えるね……玖命君……!」

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