第324話 ◆伊達玖命の上申2

 みことが頭を抱える中、玖命は状況を説明する。


「実は俺、御剣さんのホットラインを知らなくて……あ、一応名刺は持ってるんだけど、それはやっぱり会社用なんだよね。だから、どうしたらいいか悩んでるんだけど……何か良い手はないかな?」


 そんな悩みを一瞬で解決したのが父、一心いっしんだった。


「なら、【ツイスタX】のメール機能を使ったらどうだ? 確か、相互フォローしてただろう? 玖命と御剣さん」


 そう言われ、玖命がハッとした様子で立ち上がる。


「そ、そうか、その手があったかっ! ナイス親父!」


 言うと、玖命は早速スマホを操作し始めた。

 その異様な光景に、四条が溜め息を吐く。


(何で、家族に見守られながら女に連絡するんだよ……ったく。まぁ、みことはまだ納得出来てないみたいだけどな)


 四条がちらりと見ると、みことは難しい顔をしながら玖命の動向を見守っていた。


「あ、送れるみたい! ありがとう、親父!」

「ふふふ、これが親父の威厳」


 ニカリと笑う一心いっしんだが、やはりみことの表情はいつも以上に暗い。


(……だってお兄ちゃんだよ? 流石にわかると思うけど……この真剣な表情……何か別に理由があるの?)


 みことがそんな事を考えていると、玖命の指先が止まった。スマホから目を離し、その視線をみことへとスライドさせていく。


「み、みこと……」

「な、何……?」

「じょ、女性に会う時ってどんな連絡がいいんだっけ?」


 素っ頓狂な玖命の言葉に、みことが呆れながら溜め息を吐く。


「何が『いいんだっけ?』よ。まるで過去に私が教えたみたいじゃない」

「お、教わんなかったっけ……?」

「教えてないわよ」

「じゃ、じゃあどうやって連絡すればいいかな……?」


 そんな玖命を見、一心いっしんは失笑し、四条は苦笑し、みことへの字、、、に口を結んだ。

 何も言わないみことに対し、困った玖命は、その視線をもう一人に向ける。


「四条さん」

「はぇ!?」

「四条さんならわかります? どういう連絡がいいか?」

「わ、わわわわかるも何も、どんな用で連絡するんだよっ!?」


 四条が咄嗟に言い放った質問に、玖命が思い出したように言う。


「あ、そ、そうでしたね。えっと実は――――」


 それから語られた、玖命の説明。

 話を聞く内に一心いっしんは大きな溜め息を零し、みことは「なーんだ」と呆れ、四条は「心配して損したわ!」と怒るように言った。


「え……何か変だった……?」

「つまり、よくはわからないけど、御剣さんが大変な目に遭ってないか確認するために連絡をとりたいって事よね?」


 みことの簡潔な説明に、うんうんと頷く玖命。


「なら、話は簡単よ。変な情報を入れずに、普通に聞けばいいの」

「変な情報って……何?」

「どうでもいいの、そういう事は。脚色せず、普通に聞くの! わかった!?」


 みことが凄みながらそう言うと、今度はコクコクと頷く玖命。


「わ、わかった!」


 素早くスマホを操作し、必要事項だけを事務的に入力する玖命。

 みこと一心いっしんと目を合わせ、苦笑しつつも、いつもの玖命に安心を見せる。


「で、出来た! こ、これでどうかなっ!?」


 スマホを3人に見せながら聞く玖命。

 3人が覗くと、そこには御剣宛のメッセージが書かれていた。


 ――御剣さん、お世話になっております。よろしければ、近い内にどこかで会えませんか?


「これは……」


 一心いっしんが唸るように言い、


「勘違いしちゃうわね」

「あぁ、するな」


 みことの言葉に、四条が同意を見せる。

 そんな2人の反応に、玖命が首を傾げる。


「勘違い……?」


 そんな玖命の疑問も、3人には届かない。

 一心、みこと、四条は肩を寄せ合い、玖命そっちのけで会議を始める。


「『御剣さんに伺いたい事があるので~』とか付ければいいんじゃないか?」

「なら、場所も限定しちゃうのはどう?」

「そうだな。【命謳】の事務所オフィスとか、KWN堂の会議室とか」


 四条の言葉に、一心が頷き同意を見せる。


「いいね。だけど問題なのは、会社を巻き込んでしまう事だ。プライベートで会うのに会社で、となると、御剣さんに迷惑になりかねない」

「そっか……なら【命謳ウチ】の事務所オフィスかな?」


 四条の言葉に、今度はみことが反応する。

 地図アプリを開いたスマホをかざしながらみことが言う。


「でも、KWN堂って渋谷にあるみたいよ? お兄ちゃんが呼び出すのに、渋谷に出社してる御剣さんを八王子に呼ぶのはちょっと酷いよね」

「確かにそうだな。ここはやっぱり玖命が行かないと失礼になる」


 一心の言葉を受け、四条がハッとした様子で言う。


「あ、ならKWNの本社はどうだ? 【命謳ウチ】ならゲストルームも開放してくれてるし、流石にそこは使えなくても、会議室くらい貸してくれるだろ?」


 そのアイディアに、みことが頷く。

 四条、みこと一心いっしんに顔を向ける。


「うーむ、悪くないかもしれない。事情を話せば川奈社長もわかってくれるだろうし、そもそも川奈社長からも話を聞いてる訳だし、子会社の社員と、警備依頼してるクランの代表……なら、筋も通る、か」


 一心の判断に2人は頷き、そして3人は立ち上がる。

 そして、スマホを持った玖命に、みこと、四条が手を差し出す。


「「スマホソレ貸して!」」


 決して玖命には文章を作らせない2人の強い意思が、そこにはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る