第321話 尾行の理由

 なるほどなるほど。

 まさか翔が追っていた相手が御剣さんだったとは。

 ……いや、他にまだ誰か降りて来る?


「俺様がKWNカウンの社長に言われて追ってたのは、あの野郎よ……!」


 翔が言いながらヘリコプターのドア付近を指差した。

 降りて来るのは高そうな革靴に、スーツ、髪型を整え、廃ビルの屋上ここからでもわかるような白い歯。

 小麦色に焼けた肌と、目鼻立ちの整った爽やかなイケメン。

 ……どこかで見た顔である。


「【天武会】メインスポンサー……七海建設社長【七海ななうみ総一郎そういちろう】」


 翔の言葉に俺はハッとした。


「七海建設……!」


【天武会】のメインスポンサーという事で川奈氏からは話に聞いていたが、社長が代替わりしてからあまり良い噂を聞かなくなった大企業である。

 七海ななうみ総一郎そういちろう……見覚えのあるはずだ。CM等の宣伝には社長自らが出演し、大きな反響を得ている。

 何しろ顔が良く、爽やかである。

 自信に満ち溢れた姿、長身、そして七海の社長。

 モテないはずがない。


「でも、何で翔が七海社長を?」

「七海社長の動きが怪しくてな。川奈社長が独自に追うにしても限界があるってんで、選ばれたのが俺様って訳だな! カカカカッ」


 親指で自身を指し、翔が快活に笑う。


「怪しい動きって……?」

アノ国、、、と接触してるんじゃないかってな」

「アノ国って……もしかして【パラティア共和国、、、、、、、、】……?」

「おうよ、あの天才主義のやべー国よ……!」


 鳴神翔をしても「やべー」と言わしめる国家――【パラティア共和国】。

 天才が現れ始めた時代、日本の東――太平洋の中心で突如大きな地震を観測。これにより、公海こうかいに新たな島【エデン】が誕生した。当時、第5段階に達した天才を複数人擁していた巨大クラン【パラティア】がこれを占拠。

 クランと密接な関係にあった無数の企業協力により、たった4年という短い期間で【パラティア共和国】が誕生した。

 クラン【パラティア】の代表だった【アルヴァーニャ・シックス】が国家元首に就任すると共に、世界から多くの天才が【エデン】へ移住した。

 このような経緯から、多くの国はその自由な振る舞いを不承不承ふしょうぶしょうに存在を認める事しか出来なかった。

 以来十数年――今では15万人近い人口を擁するも、その大半は天才で構成されているというとんでもない国家なのだ。

 これだけ聞くと、天才国家が出来たというだけの話なのだが、【パラティア共和国】には更にとんでもない話がある。


「あの選民主義せんみんしゅぎの国家に七海が近付いた理由……キナ臭いと思わねぇか、ヘッドぉ?」

「……あぁ、そうだな」


 そう、【パラティア共和国】には凝り固まった主義主張がある。

 それが、今、翔が述べた【選民主義、、、、】にある。

 天才国家の選民主義……当然、それは天才に向けられたもの。


 国家元首【アルヴァーニャ・シックス】いわく――天才こそ世界の中心であり、天から選ばれた存在。それ以外はただの脇役であり、我ら天才のかて。自らを糧と断じ、享受する事こそ、脇役の本懐であり、義務。


 当然、世界から猛反発があった。

 がしかし、その発言した個人は、ことごとく謎の死を遂げ、反発する団体はことごとく潰された。

 戦争も視野に入るものの、相手は天才国家。世界に恩恵をもたらす大きな存在。

 パラティア共和国に移住していない天才をも敵に回す事を考慮すれば、動けないのは必至。

 アルヴァーニャ・シックスの考えに同調した天才は多く、一般人も少なからずいた。【パラティア共和国】では、その共存がピックアップされてテレビに映った事もあるが、どう見ても戦略的宣伝プロパガンダだった。

 アノ国での一般人は過酷な日々を送っているという噂が絶えない。

 以降、パラティア共和国は独自の成長をし、世界のタブーとされるのが暗黙の了解となった。

 俺も、生きる内で自然と【アノ国】と発言するようになっていたし、翔も同じだろう。


「パラティア共和国に……七海建設社長が、接触?」


 ――だが、今は違う。


 俺の言葉に、翔がニヤリと笑う。


「カカカカッ、それでこそヘッドだぜ! ま、七海は建設やらせたら日本一だしな。パラティア共和国からしたら一番近い国とも言えるし、接点を持たない方がおかしい……が、まさかあのまびぃねーちゃんが現れたんなら、ヘッドに連絡した方がいいと思ってよ」


 そう言って、翔は廃ビルの屋上からヘリポートを見る。


「何で御剣さんが?」

「あの七海の顔、見てみろよ。つーか見たらわかれ」


 翔の言葉に、俺は腰を下ろし、七海社長の顔を見る。


「…………ニ、ニヤニヤしてる……?」

「獲物を狙う野郎の目だろうが」

「御剣さんを?」

「カ~~! どうしてヘッドは伊達で玖命なんだ!? どう見ても自分のスケにしようとしてる男の目だろうがっ!」


 伊達で玖命とはこれいかに……?

 まぁ、翔が言うのであればそういう事なのか?

 なるほど、あれが女性を狙っている男の目……勉強になる。


ヘッドの取材の後、七海建設の立川支社で、七海社長とあのねーちゃんが合流してな。ヘリを追って来てみりゃ……この品川だったって訳だ」

「で、でも……七海社長が御剣さんと会ってるだけだろ?」

「あぁ? あれを見てみろよ」


 そう言われ、俺は翔の指差す方……御剣さんの顔……表情を見る。


「あれは……嫌がってるな」


 立ち上がり、俺はそう言った。

 すると翔は、ポカンとした顔をした後、零すようによくわからない事を口走った。


「ぁんで、そこはわかんだよ……?」










 ◇◆◇ 割と重要な後書き ◆◇◆


【パラティア共和国】について、ここで明言しておきます。


『実在の人物や団体などとは一切関係ありません』


 何故、現代ファンタジー小説ながらこれを書くかというと…………まぁ、非常にデリケートな問題だからです。

 どこかの国がこうした、あぁした……という事を書くのは非常に簡単です。ですが、簡単だからこそ、慎重に書いてます。

 良い事ならまだしも、「どこそこの国が悪い事をしてるー」と書くのは、かなりリスクが高く、その国の国民にとって、良い気持ちにならない事が多いと思います。

 だからこそ、架空の国、公海上というリスクの少ない選択をとり、書いています。

 ここまでやって問題が起きるようなら……普通に泣いちゃいます;x;


 現代ファンタジーの難しさを知り、一つ大人になった作者でした。






 ◇◆◇ 割とどうでもいい後書き ◆◇◆


 そういえば、中学生、高校生の文化祭のノリで、

【命謳Tシャツ】を作ってみよう……と思い立ちました。

 ※あくまでイメージとして作るものであり、販売する意図は全くありません。というか、面倒なのでしません。


「ドヤ? こんなTシャツ作ってみたでっ!? 見てや!」


 みたいな感じで、作者X(旧Twitter)に載せるつもりです。


壱弐参アカウント=@hihumi_monokaki


 まぁ、まだデザインをお願いしている段階なので、もう少し時間がかかるかと思われます・x・

 完成したら、更新の際にお知らせしたいと思います。


 それだけ٩( ᐛ )( ᐖ )۶

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