第319話 独占インタビュー1

 結局、皆に押し切られ、御剣さんの取材を受ける事になった。

 最近、皆に俺が押しに弱いというのがバレてしまっているようだ。

 このままだと、【命謳】の代表として問題なんじゃ……とも思うが、それを考えたところで、やれる事は限られている。

 うん、頑張ろう。

 NOと言える男になるんだ。

 ところで、川奈さんと四条さんが、さっきからチラチラとこちらを見ているような気がする。


「……えっと……何か?」


 俺が言うと、四条さんはハッとした様子で言う。


「あ、いや! 何でもないぞ! うん、いいんじゃないか、スーツってのも。悪くない悪くないぞ」


 続き、川奈さんもうんうんと頷く。


「濃紺、とても良きです! はい! 前に言ってた柄ですね!」


 そうか、今日はスーツを選んだから、それが気になっていたのか。

 悪くない評価のようで安心した。


「命謳のネクタイとカフスが良い仕事してるな。らら?」


 四条さんが隣に座る川奈さんに言う。


「はい! でも、内側のベストも良いですねぇ。伊達さん、スタイルが良いから、シュッとして決まってますっ!」


 2人してうんうん頷く姿に、俺は困惑する。

 うーむ、そんなに似合っているのだろうか。

 ベストはみことのチョイスだが、間違いはなかったようで安心だが……もう一つ気になる事がある。


「どう、よしみ?」

「うん、私の目に狂いはなかった……! ありがとう、結莉ゆり。呼んでくれて。有給使った甲斐がある……!」


 水谷がいるのはわかるのだが……何故、応接スペース脇に相田さんがいるのか……?


「玖命クン、笑って笑って!」


 咄嗟の事で、俺は水谷の言葉に反応してしまった。


「え、こ、こうですかっ……?」


 ぎこちない笑みを浮かべると同時、水谷がスマホのシャッターを切る。

 がしかし、それは至る所で聴こえた。

 カシャカシャという連続音が水谷、相田、四条、川奈、たっくん、月見里……何か、たっくんと月見里さんの間に米原さんが見えるのは気のせいだろうか?


「あ、伊達さん、撮っていいですか?」

「あ、私もっ!」


 川奈さんと相田さんの事後撮影許可申請。


「い、いいですけど……」


 言うと、御剣さんが来る前だというのに、俺の目の前から凄まじいシャッター音が聞こえ始める。


「伊達、こっちに視線よこしなさい。【命謳】の【ツイスタX】公式に載せるから」


 月見里さんはクランが証拠保全用で購入している、目玉が飛び出そうな金額のカメラを構えている。


「玖命、こっちじゃ! 見下ろせ! 否、見下すんじゃ! そう、そうじゃ!」


 たっくんは這いながら、あおりの角度で写真を撮っている。

 何故だ……。


「ほっほっほ、特殊な趣向を持ったファンクラブ会員が垂涎すいぜんものの写真が撮れたぞ……!」

「山井殿、そのゴミムシを見るような伊達きゅんの写真……いくらでしょうか?」


 写真を眺めながら言うたっくんに、隣の米原さんがとんでもない事を口走ったような気がする。

 ファンクラブのプレゼント配布状況って今どうなってるんだろうか……恐ろしくて聞けない。

 いや、たとえ聞いたところで、四条さんが教えてくれないだろう。以前もそんなやり取りがあった。……何故だろう。

 昨晩みことが何か言ってたんだよな。


『お兄ちゃん、学校の女子に大人気だよ』


 人気だという事は嬉しいし、有難いのだが――、


『学校で【命謳研究会】って同好会も出来てた。まぁ、会長は明日香で、副会長は玲なんだけどね』


 八南高校に生徒の在り方というか、生態というか……そういうのを崩してしまっているような気がする。

 とはいえ、やはり天才が受け入れられないという風潮は未だ残っている。

 最近までは活動こそ大人しかったが、【天武会】の後から、少しずつ天才に対する圧力も変わってきたきがする。

 皆には言っていないが、やはり四条さんの下には多くの誹謗中傷ひぼうちゅうしょうが届いているようだ。

 好意的な意見だけではないというのは、今も昔も変わっていない。どこの世界でもそうなのだが、最近ではクランや天才と一般人が対立するようなニュースが増えている。

 皆も勝手知ったるといった様子だが、いつ【命謳】に危害が及ぶかわからない。俺も気を付けないといけないだろう。


「いいね! 玖命クンのその真剣に悩む表情! 【大いなる鐘ウチ】でポスターを作っちゃおう!」

「おいおい、きゅーめーを勝手に使われちゃ困るぞ? それは【命謳ウチ】で使う」


 そんな水谷と四条さんの言い合いを聞きつつ、俺は苦笑する。

 すると、俺の前に相田さんがもじもじとしながら歩み寄る。


「どうしました、相田さん……?」

「えっと……その……一緒に写真とか……どうかな?」


 そんなお誘いに、俺はくすりと笑った。


「勿論……あ、でも――」

「――え、何かまずかったっ!?」


 焦る相田さんに俺は苦笑しつつ言う。


「あぁいや……御剣さんが来ちゃったので、後ででよろしければ」


 そう言うと、相田さんはホッとした様子で「うんっ!」とだけ言って応接スペースの端へ寄って行った。

 さて…………御剣さんが来たのはいいが――、


「御剣さん、凄いアホ面っすよ。口、口閉じましょう」


 堀田さんに肘で小突かれながら、俺を凝視する御剣さんが零すように言った。


「……イイかも」

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