第318話 ◆御剣の現状

「……はぁ」


 自身の机を前に、大きく溜め息を吐くKWNカウン堂の記者――【御剣みつるぎ麻衣まい】。

 その表情に疲労が色濃く、遠目にそれを見かけ、気付いたKWNカウン堂のカメラマン――【堀田ほった】が御剣に近付く。


「どうしたんすか、御剣さん? 顔、すっごいっすよ」

「……あら、堀田くん。もう打ち合わせの時間だっけ……?」

「うわぁ~……」

「……何よ、その『うわぁ~……』っての」

「いや、だっていつもの御剣さんなら、『相変わらずデリカシーないわね、堀田くん』とか言いながらジロォ~~~って睨むじゃないですか?」


 堀田が御剣の口調を真似ながら言う。

 すると、御剣は鋭い視線を堀田に向ける。


「わかっててやってるなら性質たち悪いわよね?」

「ははは、すんません。でも、本当に大丈夫っすか? 最近、テレビにも引っ張りだこっすよね?」

「ほら、知ってて言ってるじゃない」


 御剣が恨めしそうに言うと、堀田が苦笑する。


「でも、何でそんなに大変なんすか? 御剣さん、記者なのに……」

「七海よ七海」

「え、あの噂ってホントだったんですかっ?」


 堀田の驚いた表情に、御剣は続ける。


「【七海ななうみ総一郎そういちろう】……大学時代の私の同級生なんだけど、最近やけにつっかかってくるのよね……」


 ひたいを抱える御剣に、堀田は質問する。


「それってやっぱり御剣さんにホの字なんですかね?」

「ホの字って……もうそれ死語じゃない?」

「ははは、いいじゃないですか。使ったって」

「……まぁ、ホの字……ね。そうなのかもね~」

「でも、相手が七海の若社長ならもっと強引にきてもおかしくないんじゃ?」

「それがね、これ見てよ」


 そう言って、御剣は堀田にスマホの画面を見せる。

 そこには、天才派遣所統括所長――荒神薫からのメッセージが書かれていた。


 荒ぶる神――どうやら七海社長は、アンタの価値を上げて、自分に釣り合うように動いてる節があるようだね。

 三右衛門――え、それホントですか?

 荒ぶる神――越田の推測だから、本当かどうかはわからない。でも、それは頭の片隅にでも入れときな。

 三右衛門――うわぁ……嫌だなぁ……。

 荒ぶる神――世間では爽やかイケメンで顔が知られてるんだし、たま輿こしなんじゃない。

 三右衛門――七海くんに会った事あります?

 荒ぶる神――あるね。いけすかないやつだった。

 三右衛門――じゃあもう答え出てるじゃないですか。まぁ、せめて、あの上から目線がなければいいんですけどね……。

 荒ぶる神――宗頼も動いてるみたいだけど、限界があるみたい。

 三右衛門――凄いですよ。キャップとかデスクとかホクホク顔で、私に顔出し出演させてきます。

 荒ぶる神――ギャラ弾まれてるね。

 三右衛門――確かに、実入りは良くなりましたけど、自由がなくて最悪です。

 荒ぶる神――結構溜まってそうね、ストレス。

 三右衛門――その通りです……。せめて好きな記事が書ければ発散出来るんですけど……。

 荒ぶる神――月刊Newbieは?

 三右衛門――書いてますけど、流石に10月号には敵わないかなーと。命謳の事はもう書いちゃいましたし。

 荒ぶる神――伊達個人に依頼するのは?

 三右衛門――キャップの許可貰ってきました。

 荒ぶる神――早い。ビックリした。

 三右衛門――素敵なアイディアをありがとうございます!


 そのメッセージを読んだ堀田は、渋い顔をしながら御剣に言った。


「【あらぶるかみ】と【三右衛門みつえもん】の会話がシュール過ぎて、あんまり内容が入って来なかったっす……」

「まぁ、それはいいじゃない。中学時代のあだ名なんだし」

「使うって事は気に入ってたんですか……三右衛門」

「カッコイイじゃない?」

「まぁ、その感性は理解出来ないですが、御剣さんのブランディングに関しては理解出来ました。確かに、あの若社長ならやりそうっすね」

「キャップやデスクも、『七海の案件断るなら、月刊Newbieの仕事は別の者に担当させる』とかとんでもない事言ってくるのよ……」


 そう言われ、堀田は遠目にキャップとデスクがいる方へ視線を向ける。

 そして、ようやく御剣が抱えるストレスを全て理解したのだ。


「そりゃ…………大変すね。ホント」


 堀田の言葉に、御剣は肩をすくめ、大きく息を吐いた。


「だから、私にはコレしかないの」


 言いながら、御剣は【月刊Newbie10月号】を小さく掲げる。


「なるほど、道理で僕が呼ばれたって訳ですね」

「そっ、普段の撮影なら佐伯さえきくんなんだけど、伊達くん相手なら、顔見知りである堀田くんのが話が早いでしょ?」

「勿論っす! 最近【命謳】に加入した月見里って女の人も気になるんで、是非ご同行させてくださいっす!」

「……本音が丸見えなのが、堀田くんの良いところよね……」

「ひょっとして、バカにしてます?」

「褒めてるのよ、素直に」

「そっすか。あ、【命謳】と【大いなる鐘】の補強メンバーについても聞きたいところっすね!」

水谷みずたに結莉ゆりの事と、四条しじょうなつめの事でしょ? とーぜん聞くわよ」

「それにしても伊達さん、忙しいだろうによく時間作ってくれましたね?」


 そんな堀田の素朴な疑問に、御剣が嬉しそうに答える。


「命謳が味方についてくれてね」

「……え?」


 一瞬、その言葉の意味が理解出来なかった堀田に、御剣が続ける。


「『伊達くんを売り出せるなら』って事で、伊達くん以外の【命謳】メンバーが協力してくれたの」

「何で、そんな内部情報知ってるんですか……」


 呆れながら堀田が聞く。


「伊達くんからのメールにそう書いてあったのよ。『前回から間隔が短いんですが、本当によろしいんですか? クランメンバーは受けて欲しいみたいなんですけど……本当に私でいいんですか?』ってね」


 そんな御剣の言葉に、堀田は苦笑する。


「伊達さんって、ホント苦労人っすね~……」


 堀田の言葉は御剣に届く事はなく、御剣の鼻歌は堀田をまた苦笑させるのだった。













 ◇◆◇ 割とどうでもいい後書き ◆◇◆


 今日11月18日(土)、明日11月19日(日)は八王子で【いちょう祭り】が開催されます!

 玖命やみことやららちゃんはいないかもですが、作者ふしんしゃはいるかもしれません!

 そう、独りで・x・b

 お時間のある方は是非!


 それだけ٩( ᐛ )( ᐖ )۶

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