第316話 やって来た訪問者3

 ココって……伊達家の事だよな。

 そもそも、まだ別件だって聞いてないのに、まさかこんな申し出をされるとは思っていなかった。

 流石のみことも驚いている。


「い、いや……ウチはクランの仲間が守ってくれるので……」

「んじゃ、それに+1だ。より堅牢になっていいじゃねぇか」

「そうなると山井さんにも確認をとらないといけないような……」

「なるほど、そういや爺がいたな」


 元とはいえ、【インサニア】の序列2位を忘れてたか。

 いや、番場さんはたっくんと【天武会】で戦い、敗北している。

 記憶から消し去りたいと考えた方が妥当かもしれない。


「んじゃ、それはそっちに任せる。必要になったらここに連絡しろ」


 そう言って、番場さんは名刺をテーブルに置いた。


「はぁ、それはどうもありがとうございます」


 俺が名刺を受け取ると、親父がアイコンタクトを送ってきた。

 ……え、俺もか?

 いや、親父が言うんだ。それを信じないのは違うか。


「……では、こちらを」


 俺は慣れない手つきで、番場さんの前に俺の名刺を置いた。


「伊達玖命のホットラインか。今や世界各国の要人が欲する連絡先を、俺なんかに渡していいのか? あ?」

「一応、犯罪歴はないようなので」


 俺は、先程の親父の言葉を借り、番場さんに言った。

 すると、番場さんはニヤリと笑い、俺を……いや、俺たちを指差した。


「面白れぇな、この家はよ」

「……それはどうも。それで……今回ここへいらっしゃった本題を聞かせてくれますか?」


 そうなのだ。

 最初、番場さんはこう言ったのだ。

 ――茶の礼だって言ったろ? 俺がここへ来たのは別件だ。

 大分遠回りしてしまったが、一体何故、番場さんは伊達家を訪ねて来たのか。

 すると、番場さんは奥にいる親父とみことをチラリと見た。

 なるほど、そういう事か。


「親父、みこと……悪い、2人にしてくれ」


 そう言うと、親父はコクリと頷いてからリビングから出て行った。みことは、お茶菓子を回収してから自室へと向かった。

 …………流石は我が妹である。正直尊敬する程だ。

 2人がリビングからいなくなると、俺は番場さんを見据え、再度聞いた。


「それで、今日のご用件は?」

「伊達玖命……お前、天恵を効率良く成長させる手段を持っているだろう?」


 ……なるほど、番場さんがここへ来たのはそういう理由があったのか。

 確かに、【命謳】のクランメンバーは短期間で凄まじい成長をした。特に川奈さんの成長速度を調べれば、この疑問に辿り着くのは必然。

 しかし、多くの人が気付いても尚、俺にソレを聞いてこなかったのは……やはり、俺が周りの人間に恵まれた事が1番なのだろう。

 だが、番場さんはそういう事を気にするタイプではない。

 ……まさか、こんなに直球でくるとは想定外だったけどな。


「それを、俺が番場さんに答えると?」

「別に答えなくても構わねぇ」

「では何を?」


 そう聞くと、番場さんは俺の目をじっと見ながら聞いたのだ。


「天恵成長の限界――第5段階より上……第6段階目は存在するのか?」


 それは、余りにも素直、率直な質問と言えた。

 とても日本で有数のクランの代表とは思えないような質問。

 子供が大人に尋ねるような質問。

 そうか、番場さんは最初から確信していたのだ。

 だから、「別に答えなくても構わねぇ」なんて言ったのだ。

 本題はこっち。

 他者の成長を補助出来る俺だからこそ、番場さんは選び、聞いた。知っているという可能性を信じて。

 だが、俺は今それに答えられる立場にもいないし、知識もない。だから、番場さんの真剣な眼差しに、俺は首を振る事で応えた。


「申し訳ありませんが、俺も第5段階より先の天恵については、知りません」


 番場さんは、俺の返答を聞いた後も、じっと俺の目を見ていた。

 おそらく、俺の言葉に嘘がないかを判断しているのだろう。

 とはいえ、本当に知らないのだから仕方がない。


「………………そうか」


 どうやら……納得してくれようだ。


「じゃあ質問を変えよう」

「へ?」

「存在すると思うか?」


 なるほど、確かにこれなら答えざるを得ない。

 とても良い質問だとは思うが……俺の返答が彼の役に立つとも思えない。


「ある……とは思います」

「あると思う根拠は?」


 流石にこの追撃は予想していなかった。

 しかし、「根拠」……か。

 何故俺はそう言ったのだろう。

 そう自問すると……ある一つの答えに辿り着いた。


「……そうですね、先程の話――」

「――あ?」

それを知ってる者、、、、、、、、として言わせてもらうと……ぬるい、、、からでしょうか」


 天恵成長の効率化……それを肯定した上で、俺は、番場さんにそう伝えた。

 しかし、後半の部分については伝わっていなかったようで、番場さんは眉間みけんしわを寄せながら俺に聞いた。


「…………ぬるい? 何がぬるいってんだ?」

「たったあれだけの鍛錬で、【拳神けんじん】や、【阿修羅あしゅら】や、【神聖騎士しんせいきし】になれるなんて……ぬるいと言わざるを得ないかと。番場さんも【戦神せんじん】になったんですから、知ってますよね?」


 そう苦笑しながら言うと、何故か番場さんは固まり、言葉を発しなくなってしまった。

 しばらくした後、番場さんは、いつかの水谷のように未確認生物UMAを見たかような視線で、俺にこう言った。


「あれが……ぬるい……?」

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