第313話 所長と元帥
◇◆◇ 20X0年11月3日 14:00 ◆◇◆
驚いた事に、【命謳】の事務所にあの
当初、何故2人が八王子までやって来るのかわからなかったが、2人の話を聞き、俺は驚愕した。
「――という訳で、伊達に【
微笑みを浮かべながら言う荒神さんが、少しだけ怖いと思ってしまった俺を、誰が責められるだろうか。
だって、この人の今の笑み……本当に怖い。
そんな事を考えていると、越田さんが俺に言った。
「どうだろうか、伊達殿。私としても、伊達殿に付き添って頂けると心強いのだが」
あの【元帥】越田高幸が完全に下手に出ている。
こんなの断れる雰囲気じゃないだろう。
とはいえ、俺に【
席にさえつかせてもらえないんじゃないだろうか?
行っただけで袋叩きに
「えーっと、今回は――」
「――あ、そうだった」
断ろうとした瞬間、荒神さんがわざとらしく手を叩いた。
「はい、これ」
何やら封書のようだ。
それが何なのか、俺には理解出来ないが……彼女の笑みが怖い。本当に。
彼女はあまり腹芸が得意じゃないはずだけど、あれはある意味百戦錬磨というべき笑みである。
「な、何ですかね……ははは」
俺は額に汗しながら、その封書を開封する。
そこ書かれていたのは、何か……よくわからない紙だった。
中央上部には……【小切手】と書かれている。
………………凄い、0が一杯だ。
俺の見間違いじゃなければ、100憶円って書いてある。
しかも……2枚。
「宗頼から渡すように頼まれてたんだよ。【天武会】の賞金」
……そういえば、表彰式にそんな事を言われたような気がする。
「1枚はクランに、1枚は伊達に」
「な、何で俺にっ!?」
俺は慌てて立ち上がるも、荒神さんと越田さんはポカンとした様子で俺を見る。
「何でって……」
「伊達殿は確か【天武会】個人戦の優勝者だったはずだが?」
「そんな当たり前みたいに言われても……」
俺が震える手で小切手を握っていると、何故か背後に立っていた四条さんがそれをさっと取って持って行った。
「きゅーめーには危ないから、私が預かっておいてやる」
「あ、どうも」
そう言ってから、俺は再び2人に目を向ける。
「あ、いや! ありがとうございます?」
「私は別に宗頼からお使いを頼まれただけだからね。気にしないで」
荒神さんにそう言われ、俺は気を取り直し、着席する。
「は、はい……」
「それで、どうかね?」
「いや……急に言われても……」
確かに皆から、「確実に俺が選ばれる」みたいな事を言われたが、まさか本当にそんな事が起こるとは。
ど、どうしたらいいんだ……。
俺が頭を抱える中、荒神さんは素早くスマホ操作を始めた。
何故か、それに倣うように越田さんも凄まじい勢いでスマホを操作している。
「えっと……何を?」
「助っ人の――」
「――手配をね」
何だ、この2人の絶妙なコンビネーションは……?
『玖命、入るぞぃ』
『伊達さーん! 入りまーす!』
何故か、呼んでもいないのにたっくんと川奈さんが応接室に入って来た。
「伊達さん、日本のためです。頑張りましょう!」
川奈さんは気合いを込めた瞳で俺を見つめ、ぎゅっと手を握る。
「玖命、何事も経験が重要だ。今やらねば、後から取り返しがつかなくなるんじゃないかのう?」
たっくんは、俺の肩にポンと手をのせ、ウィンクをする。
正直、たっくんのウィンクはいらなかったが、2人も背中を押してくれているという事がわかる。
だが……俺の正面に座る2人は、まだスマホを操作しているのだ。
「伊達さん、ガンバです!」
「玖命、精進せよ!」
そう言うと、2人はニコニコとしながら応接室から出て行った。
その2人と交代するように応接室に入って来たのは……翔と、水谷。
『おう
翔はそう言って、俺の胸元にトンと拳を置いた。
「玖命クン、珍しく高幸が困ってるじゃない? 助けてあげてよ」
「いや、こっちガン無視でスマホいじってますけど……?」
「大丈夫! いざとなったら海の上走って逃げちゃえばいいんだから。ねっ?」
水谷のウィンクは正直ちょっとだけドキっとするが、たっくんの方が破壊力があった。
だけど……この2人、まだスマホいじってるぞ?
「
「玖命クン、ファイトだよ!」
そんな2人と入れ替わりに入って来るのは四条さんと、月見里さん。
四条さんを呼び戻したのは……越田さん?
そして、月見里さんを呼んだのは荒神さんか。
何でスカウト班だった月見里さんの連絡先を知ってるんだか……。いや、派遣所の長だしな。これくらいの準備はしてるか。
「伊達、行ってら~。あ、お土産よろしく」
「きゅーめー、気を付けてな~。こっちは適当にやっておくよ」
2人は手を振り、そのまま応接室の外へと出て行った。
何て淡泊な2人なんだろうか。
…………遂に荒神さんと越田さんのスマホ操作が止まった。
この場で呼べるだけ呼んだみたいだ。
俺が大きな溜め息を吐くと――、
「おぉ! 行ってくれるか、伊達殿!」
「うん! 助かるよ、伊達!」
いや、まだ何も言ってないのだが……?
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