第312話 ◆荒神と越田
【大いなる鐘】の
黒塗りのVIP仕様【
後部座席を広めにとったその車が、【
運転手がドアを開け、越田が【
「やぁ越田、久しぶりだね」
「荒神殿、お久しぶりです」
そう、乗っていたのは天才派遣所統括所長――【
車が走り出すと、越田が荒神に言った。
「まさか道中まで同席出来るとは思いませんでしたよ」
越田の言葉に荒神が微笑む。
「事前打ち合わせは必要でしょう?」
荒神が言うと、越田は肩を
「伊達殿を前に、小細工は通じないとは思いますが」
「そうだね、あの子なら正面からぶつかった方が気持ちよく受けてくれるだろうね」
「では……別件でしょうか?」
「ふふふ、よくわかったねぇ」
荒神の意図を察した越田は、膝に肘を置き、荒神を見た。
「相手は……米原殿、ですか」
「流石だね。実はあの子からあまり良い返事を貰えてないんだよ」
「おや、てっきり承諾を得られているものかと」
「正確には【保留】だね。伊達の返答待ちってやつだ」
「なるほど、彼女はあまり表に出たがりませんからね。日本から出るとなると、大きな決断が必要なのでしょう」
越田の推測に荒神が頷く。
「【天武会】にも出ないくらいだからね。あの子の【
すると、越田は思い出したように言った。
「そういえば、【天武会】では色々ご活躍されていたようで」
「あはは、活躍ね。司会席の隣に座ってブツブツ言ってただけだよ」
「司会席といえば……あの御剣殿の司会抜擢には驚かされました。ネット上でも色んな議論がありましたが、どのような動きが?」
越田の質問に荒神が渋い表情を浮かべる。
この反応に越田は目を丸くし、首を傾げた。
「【天武会】のメインスポンサー……覚えてるかい?」
「それは勿論。【KWN株式会社】、【
「その【
「というと、あの若手社長の?」
「そう、御剣と同じ大学、同級生ってやつだね。あの子、顔立ちがいいからね、大学でも有名人だったらしくてね。社長はその頃から御剣の追っかけみたいなものでさ。かなりホレてるみたいだね」
「しかし、ホレてる女性を矢面に立たせるとは、変わった趣向の持ち主ですね」
「いや……」
荒神の否定の言葉に、越田が反応する。
「ほぉ、何か別の意図が?」
「ありそうだよね、あの社長の場合。あの司会のおかげで、御剣は今、相当な人気で本業もままならない。海老名で伊達に助けられた女だってバレちゃったしねぇ」
「……なるほど、そういう事ですか」
越田が得心を得たように言うと、荒神が驚きを見せる。
「何? わかるのかい?」
「七海社長は御剣殿を狙っている。これは間違いないでしょう」
「そりゃそうだろうね」
荒神が頷きながらそう言うと、越田が更なる疑問を述べる。
「しかし、日本……いや、世界でも有数の企業である七海建設の社長が、一介の記者を相手に動くというのは……どうでしょう」
「確かにね。七海の信用に傷が付く。株価にだって影響が出るかもしれない。なるほどね、越田の言いたい事がわかった気がするよ」
荒神は越田の意図に気付き、眉間をおさえる。
「えぇ、七海社長の狙いは【
越田がそこまで言うと、荒神が大きく溜め息を吐き、なんとも言えない表情をする。
そして吐き捨てるように言ったのだ。
「気持ち悪い……」
荒神のストレートな悪態に、越田が笑う。
「ククク……確かに、御剣殿の意思をも無視する行為。豪胆と言えば聞こえはいいですが、その実、ストーカーのようなものですね」
言いながら越田が肩を
「川奈殿もよく
越田が続けて言うと、荒神が困った様子で返す。
「それには【
「驚きこそしませんが……意外ですね。両者の接点というと……やはり【天武会】ですか」
「その通り。【命謳】は元々【天武会】の【クラン部門】に出場出来る立場になかった」
そこまで言われ、越田は理解する。
「なるほど、【新設クラン部門】……ですか」
「そう、クラン部門……団体本戦に【命謳】を組み込むには
荒神の説明に、越田が得心した様子で言う。
「そういう事でしたか。KWN堂に所属する御剣殿が抜擢されたのにはそういった背景が……」
「御剣も伊達に恩も借りもあるしね。
「その話……是非、伊達殿にも聞かせてあげたいところですが……――」
「――うん、言えないよねぇ……」
荒神の溜め息と共に出た同意は、越田も苦笑する他なかった。
そして越田は眼鏡をクイと上げ、零すように先の荒神を真似るように言ったのだ。
「……気持ち悪い」
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