第301話 300円

 ――聞いたか、伊達の話。

 ――聞いたというより見たわ、ツイスタXで

 ――ニュースって程じゃないけど、まとめサイトでまとめられてたな。

 ――で、「お腹を抱えて泣く美女を置き去りにした伊達」ってのはガチなん?

 ――ガチ

 ――まじかよ、伊達最低だな

 ――まぁ、お腹を抱えてたのは笑ってたからで、泣いてたのは笑い泣きで、置き去りにされた美女ってのは、伊達と親交のある水谷の事なんだけどな

 ――草

 ――嘘は書いてなくて草

 ――で、水谷は何で笑い泣きまで追い込まれてたの?

 ――『玖命クンがバリバリ財布からブラックカード出したから大笑い』ってツイスタXに投稿してる

 ――大草原不可避wwww

 ――笑わない要素がなかった

 ――いや、俺はドン引きする

 ――100円均一からバリバリ財布消えたって

 ――100円均一の本社株価急上昇確定演出

 ――買ってみたけど、案外悪くないぞ。カードも4~5枚入るしお札もしっかり……あれ、これ本当に100円?

 ――残念、転売始まったぞ

 ――【クラン命謳代表、天武会個人戦覇者、伊達玖命愛用の財布! 2000円 SOLD】

 ――20倍で売れてるの草

 ――15歳の妹が買ってきた。お兄ちゃんは何て言えばいい?

 ――「こんなお兄ちゃんでごめんなぁ」だろ

 ――言ってきた。「キモ」って言われた

 ――登山用に似たようなの持ってるけど、100円均一のも馬鹿に出来ないよ

 ――何か、新在庫に300円の値札付き始めたんだけど?

 ――それは伊達のせい

 ――確実に伊達のせい

 ――みんな伊達が悪い。

 ――そういえば、何で伊達と水谷が一緒なん?

 ――命謳と大いなる鐘のHPホームページみてみ

 ――ほえー、補強メンバー制度なんてものがあるんだな

 ――水谷なら、大手クランのノウハウあるだろうし、たっくんと一緒に色んな貢献が出来るやろな

 ――命謳からは、なっちゃんが行ってるのか。事務員に何させる気なん?

 ――そういえば、代々木にある公園でメガホン持った四条見かけたんだけど、アレ何?

 ――俺も見た。ジャージ姿の茜真紀がいて、過去最高の布面積だったわ。

 ――ハチマキしてる立華桜花見たよ。いつもの燕尾服じゃなくてジャージだった。茜と一緒に汗だくになりながら公園の外周走ってた。

 ――死にそうな顔してたな

 ――なのに、茜のメイクは崩れてないし、立華からは麝香ムスクの良い香りがした。

 ――あの2人はそこら辺に命かけてるだろうしな。

 ――第2班の連中も一緒にいたぞ

 ――山十やまじゅうは?

 ――知り合いの天才からの情報だと、山王はずっとサハギン相手に戦ってるらしい

 ――その隣でロベルトが「にんにん」言いながら素振すぶりしてるとか?

 ――さっき、佐渡島さどしまに水谷いたわ。何で?

 ――何か、天武会前の鳴神思い出すんだけど、また命謳が何かやってんの?

 ――話題の中心には、いつも命謳がおりました

 ――その命謳のオフィス前なんだが、今、キツめの美人が鼻歌歌いながら入ってったぞ

 ――命謳の新人?

 ――わかんない。ただ、めっちゃ良い脚してた。

 ――速いって事?

 ――脚線美きゃくせんび

 ――そっちかよ

 ――脚力系なら斥候せっこうとか、攪乱かくらん要員だと思うけど、脚線美系なら、秘書とか事務員?

 ――四条の穴埋め?

 ――いや、今日はなっちゃんいるみたい。

 ――↑つーか、お前は命謳オフィスずっと見張ってんのかよ

 ――私はただ公道に立ち、公道から街並みを観察しているに過ぎない

 ――通報しました


 ◇◆◇ 10月23日 12:20 ◆◇◆


「来たわよ、伊達!」


 昼時、【命謳】の事務所オフィスにやって来たのは、本日約束していた月見里やまなしあずささん。

 俺は彼女を奥へ案内する。

 情報部部長の山井やまい意織いおりさんの口利きもあり、すんなりと【命謳】への加入が決まった。

 鼻歌を歌ってる月見里やまなしさんが、案内された1階奥の部屋を見ながら固まる。


「何よ四条、いたの?」

「そりゃいるだろ」


 棒付きキャンディロリポップを咥えながらパソコンをカタカタと操作する四条さんに、月見里やまなしさんは相変わらずな様子である。

 しかし、月見里やまなしさんはすぐに表情を変えた。

 ニコリと笑いながら四条さんに近付き、聞いたのだ。


「ちょっとちょっと~……鑑定課辞めて給料上がったんでしょ? 一体いくら上がったのよ?」

「ん~……4倍ってとこだな」


 四条さんが答えると、月見里やまなしさんは嬉しそうに俺を見た。


「さぁ! 私を煮るなり焼くなり好きにしてちょうだい!」

「きゅーめー、鍋と火」

「それはまだ買ってないですね。バーベキュー用のグリルセットは買ったんですけど」

「いやいや、本気にしないでくれる!? そういう意気込みって事だから! ね!?」


 まぁ、意気込みは本気のようだ。

 だが、四条さんの次の言葉が、月見里やまなしさんを現実に引き戻した。


「とりあえず月見里やまなし

「何よ?」

「しばらくは日給制な」

「それは私も助かるけど……いくら貰えるのかしら?」

「代表のきゅーめーに聞け」


 四条さんが親指で俺を指差す。

 その視線を追い、目を輝かせる月見里やまなしさん。


「まぁ、【命謳ウチ】は企業じゃなくてクランなので……まずはこちらへ」


 そう言って、俺は月見里やまなしさんをクラン代表執務室――通称【玖命の部屋】に通した。

 すると、応接用のテーブルに置かれたモノを見、月見里やまなしさんが硬直する。


「……これ……何?」

「派遣所に便宜を図ってもらいました。【KW-00AラプトルA】、【KW-00TレックスT】、【KW-00KコアトルK】……これから月見里やまなしさんが使う……仕事道具、、、、です」







 ◇◆◇ 後書き ◆◇◆


 最初、佐渡島さどがしまかと思ったんですが、正式名称?(標準地名?)は佐渡島さどしまなんですね。調べてみて驚きました・x・


 そういえば、「バリバリ財布」がわからない方がいるかと思い、作者愛用(100円均一購入)の茶ばんだバリバリ財布の写真を【ツイスタX】に、

 もとい……X(旧Twitter)⇒@hihumi_monokaki

 に載せておきました。

 興味ある方はご確認ください。


 それだけ٩( ᐛ )( ᐖ )۶

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