第300話 バリバリ財布
八王子に戻り、頃合いと思った俺はある人に電話をかけていた。
「はい、そうなんです。どうも先程の八神の言葉が気になります。【はぐれ】が【天獄】を強襲するような事はないと思いたいですが、警戒はしておいた方がいいかと思いまして」
『ありがとう、よく知らせてくれたね。こちらも注意しておくよ』
「よろしくお願いします、
そう言って、俺は電話を切る。
電話の相手はあの天才派遣所統括所長の
一応、注意喚起はしておいたから、【天獄】が襲われたとしても大丈夫……だと思いたい。
「あれ、玖命クンじゃん」
「ん?」
俺が振り向くと、水谷が汗だくになりながら、スロージョグをしていた。俺の歩行速度に合わせ、ゆっくり走る水谷に、俺は言った。
「あれ、水谷さん? もう
「そっ、私のお帰りだよ!」
「驚きました、意外に早かったですね」
俺が言うと、何故か水谷は北の空を見つめながら言った。
「早朝から出たからね……冷麺食べようと財布持って出かけたんだけど、見てよこれ」
見ると、水谷が持つ革の財布が汗に濡れている。
何て無残な姿だったんだ。
「いつものノリで出かけたらコレだよ。ホントやんなっちゃうわ」
「あ、それなら良い財布がありますよ」
「へ?」
目を丸くする水谷を連れ、俺はとある場所へと向かう、
目的地に着き、看板を見上げると、そこには大きく「100円」の文字。
「玖命クン、ここって……?」
「はい! 100円均一です!」
「いや、それは見ればわかるけど、何でそれが良い財布になるの?」
「これですよこれ」
「うーわ、これバリバリ財布じゃん」
「天才も肉体労働者ですからね。汗の事を考えるとこれがベストです。軽くて、意外にしっかり作られてるんです。カードも入るし、お札だって入っちゃうんですから。うん!」
「まぁ、それはそうなんだろうけどね。一応、私、女の子っていうか女子っていうか……私がそれ会計時に出す事を想像すると…………【大いなる鐘】の皆に悪いっていうか、皆の株が下がるっていうか……?」
「そうですか? お揃いで良いと思ったんですけどね……」
俺がそう言うと、水谷はピクリと反応し、止まった。
「…………お揃い」
「え? でも、買わないんですよね?」
「いや、確かに玖命クンとの交流を深めるのも必要だね! いいね、お揃い! それなら私も買っちゃおうっ!」
そう言って、水谷は俺のバリバリ財布と同タイプの財布を買ってきた。
そして、意気込むように言ったのだ。
「
「え、相田さんに?」
「うんうん、こうでもして
鼻息荒いが、水谷は一体何に燃えているのか。
しかし、こうも目立たれては困る……。
「あれ、水谷様と伊達じゃない?」
「ほんとだ、水谷様と伊達だ」
「水谷様が掲げてる財布……何あれ?」
「小学生とかがたまに持ってるやつだよね」
そんな会話が耳に入ると、水谷が俺に言った。
「玖命クン、玖命クン! さっきの財布見せてよ!」
「え、これ……ですか?」
俺がポケットから財布を取り出すと、周囲の反応が更に変わる。
「マジかよ、水谷とお揃いかよ」
「一周回ってオシャレかもしれないんじゃ?」
「いや、それはないだろ」
「伊達の財布の使い込みがヤバい。あれ、黄ばんでるというより、茶ばんでるよな?」
「この100円均一で買ったみたいだぞ」
そんな会話もある中、水谷は俺に言った。
「玖命クン、クレジットカード出来たとかこの前言ってたよね」
「あ、そうなんですよ! 落ち着いた黒のカードです」
「その財布からブラックカードが出て来るとか。最高に面白いんだけど……」
言いながら、水谷は腹を抱え、小刻みに震え出した。
え、これがブラックカード? 本当に?
「でも、ブラックカードってある程度の信用とか、契約年数が長いとかの実績がないと貰えないとか聞くんですけど……?」
「
そういえば、いつぞや
しかし、クレジットカードなんていつ使うんだろう。
目の端に涙さえ見せた水谷に、俺は言った。
「えーっと、とりあえず……
「くくく……ふふ……ふふふ……はは……あー面白い!」
今なら、この人を小突いても許されるのだろうか。
だが、人通りの激しいこんな場所でそんな事をしては、あらぬ疑いをかけられてしまう。
そう思い、俺は水谷に言った。
「じゃあ俺は先に
「うんうんわかったわかった! あ、ダメ、また笑っちゃう……はははは」
そんな笑い泣きする水谷を背に、俺は呆れながら
そう、その後の事など、考える事もせずに……。
◇◆◇ 後書き ◆◇◆
まさか300話達成なのに、こんなサブタイトルになるとは思わないでしょう?
というわけで300話達成です!(プロローグや天恵紹介、キャラクター紹介除く)
それだけ٩( ᐛ )( ᐖ )۶
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