第299話 ◆天才特別収容所【天獄】4

「お久しぶりです、八神さん」


 玖命がそう言うや否や、八神は一気に強化アクリル板へ近寄った。


「あ、おい!」


 警備の天才を玖命が手で制し、八神の接近を許す。

 八神は、アクリル板と一体化した机に乗り、じーっと玖命を見るのだ。


 ――【討究こうきゅう】を開始します。対象の天恵を得ます。


 玖命の天恵【討究】が発動し、【道化師】である八神を捉える。


「強くなったね、玖命君。強くなった、うん。ヒヒヒヒ……」

「八神さんも相変わらずなようで」

「ヒヒヒ、ちゃんと生きてて良かったよ。どこかで野垂れ死んでたらつまらないからね~……」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度12%。


「どうぞ、座ってください」

「そう? 悪いねー……」


 言いながら、八神は玖命の正面に胡坐あぐらをかく。

 当然、そこは椅子などではなく、今しがた八神が立っていた机である。


「玖命君、【固有天恵ユニーク】なんだって? 【考究こうきゅう】ってやつ! どんな天恵なんだい? 教えてよ」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度26%。


「俺の天恵の事は詳しく知ってるでしょう? この【天獄】にも多くの【はぐれ】が入ってるはず。彼らに俺が公開している天恵を聞いてるんじゃないですか?」


 玖命が言うと、八神はニヤリと笑った。


「ヒヒヒヒ、何言ってるんだい? 公開されてる情報を聞いてない事はわかるでしょ?」

「【道化師】の天恵は、『他の天恵持ちの天才を殺害する事で、対象の天恵を使用可能になる』でしたっけ?」

「そうそう! 代表! あ、越田君ね! 彼にバレちゃってさ。ヒヒヒヒ、やっぱりアイツは抜け目ないよね。それで、玖命君はっ?」


 少年のように瞳を輝かせ、玖命に聞く八神。

 しかし、玖命がそれを八神に教える事はなかった。


「そうだ、質問があったんです。何故、羽佐間さんに【腕力C】入りのアーティファクトを?」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度41%。


「羽佐間ぁ? 誰だよ、それ?」

「【上忍】の――」


 そう言いかけたところで、八神が思い出したように言う。


「――あー、あの雑魚ね」


 羽佐間に対し、まるで興味を見せない八神。

 これに対し、玖命はじっと八神を見る。


(自分が有していない天恵持ちの天才にしか興味を示していないのか。それだけではないのか。とはいえ、知らない訳ではなさそうだ)


 そう判断し、玖命は八神に聞く。


「羽佐間さんにアーティファクトを渡しましたよね。【JCAF】から流れたあのアーティファクト……誰からの指示ですか?」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度59%。


「何だよ、そんな事か。課長の指示、、、、、だよ」

「……は? カ、カチョー……?」

「あれ? 課長知らないの? 玖命君の事だから、もうそれくらいは知ってるのかと思ったよ。じゃ、これ新情報だねー。よかったね、玖命君」


 そう言って、八神はニコリと笑う。


「か、課長って何だ? 【はぐれ】組織の序列の名称か?」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度74%。


「やー、それはよくわからないや。僕、しただし。ヒヒヒ」

「何でもいい、知ってる事を教えろ……!」

「ヒヒヒヒ、余裕がなくなってるよ、玖命君?」


 八神に指摘され、玖命がハッとする。

 唐突な情報に慌てた玖命だったが、すぐにかぶりを振って大きく深呼吸する。

 すると、八神が玖命……否、その奥を指差し、


「そうそう、キミはそっち」


 強化アクリル板の中を指差し、


「僕はコッチ。それが事実なんだから。今はね」

「……失礼しました。今の話は真実ですか?」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度87%。



「僕の言葉を疑うのかい?」

「勿論」

「ヒヒヒ、それでこそ玖命君だよ……!」

「では、今後は八神さんが課長と呼ぶ存在を追うという事になるんでしょうね」


 玖命が言うと、八神が少し驚いたような表情をした。


「追うのかい? 僕がいた組織を?」

「天才としての活動をするのであれば、少なからず近付く事にはなるかと」

「ま、日本一のクランじゃそうなるかもねぇ~。ごくろーさまー……ヒヒヒ」


 煽るような笑みも、冷静を取り戻した玖命には響かない。

 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度95%。


「ところで、八神さん」

「何だい? 玖命君の天恵を教えてくれる気になったのかい?」

「先程の『今はね』というのは、どういう事でしょうか?」

「あれ? 僕そんな事言ったっけー? 最近、記憶があやふやでねー、ヒヒヒヒ」

「そうですか、ありがとうございました」


 玖命が立ち上がると同時、八神がわざとらしく困った表情を浮かべた。


「えー、もう行っちゃうのかい? もう少し僕とお話しよーよ、玖命君っ! ね? ね!? ヒヒヒッ!」


 立ち去る玖命を呼び止める八神だったが、


「大丈夫です。聞きたい事はある程度聞けたので」


 玖命にぴしゃりと断られてしまう。


「それに……」

「……それに?」


 ――【討究】の進捗状況。天恵【道化師】の解析度100%。

 ――成功。最低条件につき対象の天恵を取得。

 ――八神右京の天恵【道化師】を取得しました。


「全ての用は済みましたから」


 そう笑って言い、ポカンとする八神を背に、玖命は天才特別収容所――【天獄】を後にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る