第298話 ◆天才特別収容所【天獄】3

「……久しぶりっすね」


将軍しょうぐん阿木あぎ龍己たつきとの面会を終えた玖命。

 面会室に現れた3人目の男は――【将校しょうこう飯田いいだはじめ


せんはんさんですね。お久しぶりです」

「いやー、【天武会】の1回戦……あれは痛かったっすねー。あんなに強くしなくても良かったんじゃないですかね?」


【天武会】でのとどめについて皮肉を言う飯田。


「大丈夫です、死なないようにやりましたし。ここからは現在の戸籍である飯田さんという事で話しますね」


 しかし、玖命から返ってきたのは、飯田の言葉など意に介さぬもの。


「……つれないっすねー。まぁ、あれだけの実力を持ってればその余裕も当然って事っすかね」

「どう言われようが結構ですよ。じゃあまず……座ります?」

「そう言ってくれるのを待ってたっす」


 ニカリと笑う飯田を前に、玖命が呆れる。

 飯田が座ると、玖命はこれまで疑問に思っていた事を聞いた。


「まず、何故【インサニア】に介入を?」

「別に【インサニア】じゃなくてもよかったんすよ」

「……は?」


 玖命の疑問に、飯田はくすりと笑いながら言う。



「だって【インサニア】っすよ? 【はぐれ】だって敬遠するのに、普通入りたくないっすよね?」


 そう言われ、腕を組み考え込む玖命。


(そりゃ、実力重視の武闘派集団って触れ込みだし、血の気が強い人ばかりだろうから、近付きたくはない……かも?)


 そんな結論に至った玖命を見透かすように飯田が言う。


「でしょ? だから僕は命令に従っただけっす」

「誰から」

「上から、とだけ」


 飯田の言葉に、玖命が言葉に詰まる。


(上手いな。情報を吐き出すようで、肝心かんじんかなめの部分は話さない。先の2人とは明らかに違う……)


「じゃあ別の質問を。どんな命令だったんですか?」

「別に? 『くみしやすいクランに入って、【天武会】で暴れろ』ってだけっす」

「…………暴れましたっけ?」

「ははは、僕の目の前にいる人に止められちゃいましたからねー。本当なら、【大いなる鐘】に勝てなくとも、そこそこ有名になるはずだったんすけど?」

「有名に? 何故有名になる必要が?」

「それは結果っすよ。重要なのは過程っす」

「過程……?」

「はははは、それ以上は内緒っす」


 飯田がはぐらかすように言うと、玖命はまた黙ってしまった。

 そして、飯田のからかうような目を見ながら思考を巡らせた。


(過程? 飯田が言った過程とは、あくまで【インサニア】と【大いなる鐘】がぶつかる事を想定しての事。ならば、俺たち【命謳】がいた事で起きなかった現実があったのであれば……何が見える……? っ!)


 少しの間の後、玖命は飯田に言った。


「【はぐれ】の実力を、世間に……いや、誰か、、に見せるため……?」

「っ!」


 玖命の言葉に、飯田が目を見開く。


「おー、良い読みっすね……」

「重要なのは過程……ですか。番場さん以外の出場者は飯田さんがDランク。それ以外の方々はEランク以下でした。【天武会】は世界にも中継される大イベント。【はぐれ】の実力をプレゼンするには良い機会……そういう事ですね」

「ノーコメントという事で」


 飯田が言うと、玖命は確信めいた表情をしながら返す。


「そうですか、ありがとうございます。では、【命謳】はそちら側にかなり恨まれていそうですね」

「はははは、そうかもしれませんねー……とはいえ、今の【命謳】に喧嘩を売るような馬鹿はいないと思いますけど?」

「不安要素は潰しておきたいんですよ。出来るだけ早く、確実に……」

「……っ! すっごい圧力っすね。周りの受刑者がそわそわしてましたよ」

「威嚇するつもりはなかったんですが、漏れ出てしまったようですね」

「はははは、面白いっすね、伊達ちゃん」

「ちゃん……」

「ま、これ以上ここにいると何でも喋っちゃいそうだし、そろそろサヨナラって事で」


 言いながら飯田が立ち上がる。

 ポカンとする玖命を前に、飯田は背を向ける。

 そして最後にこう言ったのだ。


「あ、番場の育成に関してっすけど……」

「そうでした。それ聞きたかったんです」

「僕は何の関与もしてないっすから」

「関与してないって?」

「上から預かった手紙を彼に渡しただけっすから」

「……手紙、ですか」

「中身に関しては番場のみぞ知るってね」


 そう言って、飯田は警備に連れられ面会室を出て行った。


(【はぐれ】の戦闘力をプレゼンする場――【天武会】で、俺たち【命謳】が【はぐれ】擁する【インサニア】を倒した。1回戦で。向こう側の面子は丸つぶれだろう。ならば、俺たち【命謳】に対して逆恨みをしている可能性もある。親父やみことの事が気がかりだが、飯田の言葉を信用するなら……いや、念には念を入れておくべきだろう)


 そう思い、玖命は一息吐く。


(さて……次が、最後か……まさか奴が最後になるとは思わなかった。俺の考えが正しければ、今日、この天才特別収容所――【天獄】に来た事に意味がある)


 強化アクリル板越しの扉が開く。

 入って来たのは、かつて玖命と死闘を演じた【固有天恵ユニーク】の持ち主――【道化師】八神やがみ右京うきょう


「クヒヒヒ……久しぶりだねぇ、玖命君」

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