第292話 補強メンバー【水谷結莉】

 ◇◆◇ 10月21日 12:30 ◆◇◆


 応接スペースに越田さんを案内し、ソファに座ってもらう。

 越田さんの隣には水谷。俺の隣には四条、、さんが腰掛ける。


「いや、伊達殿、申し訳ない」

「え? 早く着いたくらい別に気にされる事でも……」

結莉ゆりが『早く行こう! 早く行こう!』とうるさくてね」


 笑いながらそう言う越田さんは、どことなく嬉しそうだった。


「そ、そういうのはいいんだよ、高幸……」


 水谷も越田さんの前だと結構殊勝な態度だよな。

 俺の前だといつも破天荒なイメージしかないのだが。


「しかし、今回の交換メンバー補強の件、本当によかったのかい?」

「えぇ、四条さんたっての希望ですから」

「だが、四条殿は今や命謳に無くてはならない存在なのでは?」


 俺が四条さんに目を向けると、彼女はこう言った。


「週3日までだからな」


 3本の指を立てて、それを強調するように。


「後は【命謳】に時間を使わせてもらう。それでいいな?」


 四条さんの強い意思が見られる再確認。

 越田さんは目を丸くさせながらも、契約書を差し出しながら言った。


「問題ない。契約書にはその旨、明記させてもらっているからね」

「……うん……確かに」


 四条さんが確認する横で、俺が水谷の分を確認する。


「それで……水谷さんは……え? 週6日!?」


 俺が水谷に目を向けると、彼女はニシシと笑いながら言った。


「じゃんじゃんこき使ってくれて構わないからね、玖命クン!」


 何故、こき使われるのがそんなに嬉しそうなのか。

 まぁ、彼女の事だ、基本的な立ち回りは心得ているようだし、大丈夫だとは思う。

 問題は四条さんの方だ。

 俺は越田さんに聞く。


「【命謳ウチ】の四条を何卒、よろしくお願いします」

「ふ、彼女はゲスト。丁重に対応させて頂くつもりだよ」

「いや、これからの事を考えると……」


 俺はその先を続けられたなかったが、四条さんが代わりにそれを言ってくれた。


「ま、第1班、第2班を鍛えるんだったら、私は嫌われかねないからな。いや、絶対嫌われる」


 断言する四条さん。

 それを聞き、越田さんがくすりと笑う。


「ククク……おそらく大丈夫だよ。【大いなる鐘】の一同……皆今年の10月10日以降は挑戦者チャレンジャーとなった。たぎる闘志は誰にも負けないつもりだよ」

「まぁ、自力で第5段階になった越田さんが言うなら大丈夫なんだろうな」

「何が起ころうとも四条殿だけはお守りしよう。大事なゲストだからね」


 そう言って越田さんと四条さんは握手をかわす。


「それでは我が事務所オフィスまで送ろう。まずはメンバーに顔見せだね」

「ん、わかった。きゅーめー、行って来る」

「はい、よろしくお願いします」


 彼女の帰る家は【命謳ウチ】……というより伊達家だしな。俺の渡した資料を基に、【大いなる鐘】もまた成長してくれるだろう。


「それでは伊達殿、結莉ゆりをよろしくお願いします」

「はい、わかりました」


 越田さんは俺と握手をした後、四条さんを連れて事務所オフィスを出て行った。

 彼らを見送った後、水谷が俺に肉薄してきた。


「さぁ玖命クン! 何をすればいいっ!?」

「そうですね……おっと」


 ――水谷みずたに結莉ゆり

 ――生年月日:西暦20XX年10月17日

 ――身長:162cm・体重:??kg

 ――天恵:【剣皇】の解析度32%、、、、、、


 おや?

 この前誕生日だったのか。

 水谷には何かとお世話になってるし、何か贈った方がいいかもしれない。

 後で、みことたちに相談してみよう。


「……っす」


 そんな事を考えてると、俺の前を翔が通った。

 翔の顔を見た水谷がポカンと口を開けている。

 まぁ、そりゃ驚くよな。


「ね、ねぇ鳴神くん……何であんなに顔ボコボコなの……?」


 当然、水谷は俺に聞いて来る。

 翔の顔は40%増しくらいにボコボコである。


「【天武会】の個人戦、俺と戦ったじゃないですか」

「えぇ、あの拳でのタイマンね?」

「あの傷、回復魔法を拒否したんですよ、アイツ」

「何で?」

「漢の勲章だからって気合いで治すって」

「な、なるほど……?」

「結構腫れは引いたんですけど、まだまだ残ってるみたいで、ちょっと心配ですが…………まぁ、大丈夫かと」

「ふーん……」

「あ、翔」

「ぁあ? どうしたヘッド?」


 翔が振り返り俺に聞く。


「今日から【大いなる鐘】の水谷さんが補強メンバーとして入ってくれる事になりました」

「おー、この前ToKWトゥーカウで言ってたアレか。夜露死苦ぅ……」


 そう言って、翔はゴツゴツの拳を水谷の前に差し出す。

 水谷もこつんと自身の拳を翔の拳に当て、挨拶を交わす。

 すると、翔は思い出したかのように俺に言った。


「そーいやヘッドぉ?」

「ん?」

「外で派遣所のねーちゃんが事務所オフィスのガラス覗いてたゾ?」

「派遣所の……?」

「ねーちゃん?」


 水谷と俺の疑問はすぐに解消された。

 何故なら、自動ドアを潜って来た……派遣所のねーちゃんが、水谷に肉薄したのだから。


「結莉、どういうつもり?」

「よ、よしみじゃない……ははは、元気?」

「何でアナタが命謳の事務所ココにいるのよ?」

「いやぁ、ちょっと補強メンバー扱いで……ね?」


 相田あいだよしみさん……天才派遣所八王子支部の職員が……何故か俺を見……あれ、睨んでない?


「伊達くん、そうなの?」

「え、えぇ……越田さんとの話し合いでそうなりまして……はい」


 それだけ言うと、相田さんは何故か頬を膨らませ、事務所オフィスを出て行ってしまった。

 何か悪い事をしてしまったのだろうか。

 そんな事を考えてると、俺の背後では水谷と翔が何やら話をしていた。


「おう、新人、ちっと那覇まで焼きそばパン買ってこいや」

「は?」


 流石に補強メンバーだし、そんなに遠くまでお使いはさせられない。


「ダメだよ、翔。水谷さんはゲストなんだから」

「あぁ? そーなのかよ?」

「那覇は遠すぎるよ」

「ふーん」

「せめて広島くらいじゃないかな」


 そう言うと、水谷は何故か未確認動物UMAでも見るかのように俺を見ていた。

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