第286話 ◆天恵展覧武闘会15
「じゃあ……行くね、玖命クン……」
「いつでも」
腰を深く落とし、ゆっくり、しっかりと足を踏みしめるように一歩、また一歩と速度を上げる。
それが最高速に達するまで……
玖命の瞬きを狙った
【
玖命の眼前に木剣が迫り――貫く。
「獲った!」
が、玖命は水谷の突きをかわし、後方へ進む水谷の剣を見送り、再び水谷の驚く表情を見る。
最初に水谷の胴に対し、玖命の左の木刀が当たる。
水谷が苦悶の表情を浮かべる間もなく、玖命は更に右の木刀の柄で
表情を歪めながらも身体を捻ってこれをかわす水谷。
(あ……危なかった……右の柄が当たってたら気を失ってた……っ!?)
水谷が九死に一生を得たのも束の間、玖命の後ろ回し蹴りが水谷の顔を狙う。
「ぅ……!?」
零れ落ちる間一髪の悲鳴のような声。
頬を掠めた玖命の蹴りは大地に向かうものの、再び玖命の左の木刀が頭上から降ってくる。
「くっ!?」
両手を使い、自身の木剣で何とかそれを防ぐも、余りの威力に水谷は膝近くまで大地に足を埋めてしまう。
それと同時に、大地が爆ぜる。
「――ったいなぁ!」
痛みを玖命に訴えるも、
「すみません」
玖命からは謝罪と共に追撃の右木刀が降ってくる。
(ま、まずっ!?)
これ以上の負担は不可能。
咄嗟にそう判断した水谷は、後方に跳ぶも――、
「はは……うっそ……」
玖命の右の木刀から、振り下ろしたと同時に正面に飛び出す【ファイアランス】。
「読んでたのっ!?」
切り払ってファイアランスを掻き消すも、
「念のための保険ですよ……!」
玖命の攻撃が止まる事はない。
「くっ……!」
玖命から湯水の如く溢れ出る炎の槍を、水谷が恨めしそうに睨む。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!?」
何とか全てを消すも、眼前に玖命の姿はない。
【闇駆け】によって足音が消えている玖命を音で探知するのは困難。
だから水谷は――、
「はぁ!」
死角に潜んだ真横から迫る玖命を、
「よく防ぎましたね……!」
「勘よ勘っ!」
ここ一番の勘で防いだ。
玖命は自身に【将校】の天恵の底上げがなくとも、保有する天恵の数は他の追随を許さない。
「う、うそっ!?」
とりわけ、【腕力S】の天恵、そして、力を向上させる【剣士】や【拳士】系の天恵は、
「っ! はっ!」
玖命が気合いを込めた瞬間、水谷は吹き飛ばされてしまう。
(……いや、吹き飛ばされる瞬間、水谷は後方に跳んだ)
威力を半減させたであろうダメージ。
しかし、それでも玖命の一撃は水谷に深いダメージを残した。
しかも、水谷が跳んで行った先は――、
「おう、【剣皇】? 俺様とタイマンかぁ!?」
【
「させるか!」
越田が追撃の一撃を翔に加えようとした直後、その受けを買って出たのは――、
「くっ!? 接近に気付かなかったよ……伊達殿……!」
吹き飛んだ水谷を追い越す勢いで迫っていた玖命だった。
「翔、水谷さんは任せた」
「カカカカッ! チームプレーも悪くねーもんだな! んま、【剣皇】もそろそろ満身創痍ってところか」
翔に背中を預けた玖命が言う。
「油断するなよ、一手しくじれば戦局は一瞬でひっくり返るからな」
「任せろ
拳をボキボキと鳴らし、水谷を見据える翔。
そして玖命は――、
(やはり最強……越田高幸……! 戦闘が上手い。彼の一挙手一投足が俺に教えてくれる。若年ながらも、越田さんがどれだけ自分を追い込み、どれだけ鍛錬を繰り返し、血反吐を吐き、【元帥】へ至ったかを。これまで戦った誰より……強い!)
「強いな……伊達殿!」
「それはこっちの台詞です……っ! ハァアアアアッ!」
「っ! カァアアアアッ!」
越田の大盾は的確に玖命の木刀を防ぎ、その攻撃の合間に繰り出される越田の攻撃は、玖命の身体を
「っ!? くっ……!」
受け切った攻撃が、すり抜けるように頬を掠める。
捌いた攻撃が、布石となって次の一手に迷いを生じさせる。
叩き落とした攻撃が、叩き落とされる事を前提に動き、変幻な軌道を通って玖命の腹部を突く。
「
玖命の身体に傷、焦げ跡、打ち身が増える。
いくら越田とはいえ体力に限りがある。
玖命のダメージに勝機を見た直後、その表情は絶望へと色を変える。
「な……っ!?」
玖命の身体に付いた傷、焦げ跡、打ち身が……消える。
「馬鹿なっ!?」
余りの衝撃に驚きを隠せない越田。
攻撃しては傷が出来、攻撃しては傷が消える。
「くっ……ゾンビの天恵でも得たか、伊達殿……!」
越田の表情についに疲れが見え始める。
額に汗し、肩で息をし始める。
眼前に立つ男の底知れぬ実力に顔を引き
だが――、
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【魔力S】を取得しました。
――天恵【体力S】を取得しました。
――天恵【再生力A】を取得しました。
何故か正面に立つ男の回復力が上がっている不可解。
(こ、これは……なるほど…………確かに魔王陛下であらせられる……!!)
遂に、最強のクランの代表が、玖命を魔王と認めた瞬間だった。
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