第282話 ◆天恵展覧武闘会11

 ――【別府の猪共】に勝った【ポチズリー商店】がこの後【大いなる鐘】とやる事になった訳だ。

 ――【ポチズリー商店】ってどこのクラン?

 ――御前崎

 ――ごぜんさき

 ――おまえざき な

 ――で、御前崎ってどこですかね

 ――静岡と浜松の中間地点あたりの先っちょ

 ――クラン名は何でそうなったん?

 ――代表が好きなラノベに出てくる人買い組織の名前

 ――ほーん、じゃあ代表は人買いなんか

 ――農家らしい

 ――天才ってそういう仕事就けないんじゃなかったっけ?

 ――天才の仕事しつつ、農家は趣味という扱いで自給自足みたいな事してるとか

 ――【命謳】が強過ぎて強豪が強豪に見えねぇw

 ――知り合いの天才に聞いたら、やっぱ番場倒した山井は第5段階に入ってるんじゃないかって話

 ――確かたっくんの天恵って【二天一流】だよな?第5段階目って何?

 ――データベースにない。

 ――は?まじで?

 ――そもそも【二天一流】自体レア天恵だから、第5段階まで行ったやつがおらんのよ

 ――鳴神とららちゃんはどうなっとんの?

 ――鳴神は第5段階だとしたら【拳神】、川奈は【神聖騎士】だな

 ――やっぱ皆神々なんやな。じゃあ山井も神なんじゃね?

 ――【闘神】とかどうよ?

 ――ありえるな。番場の【戦神】とちょっと被るけど

 ――【阿修羅】でーす^^

 ――はい解散


 試合の合間の小休憩時間。

 スマホをいじる山井に近付く川奈。

 山井のスマホをちらっと見、川奈が聞く。


「山じーさん、またコメ荒らしですか?」

「ぬ? ららちん、コメ荒らしとは心外な?」

「あー、もうバラしちゃってるー!?」

「ちゃ、ちゃんと玖命に許可もらったぞぃ!?」

「伊達さん、ホントですかー?」


 川奈が玖命を見やるも、当の玖命はスマホを見ながら困り顔を浮かべている。


「ど、どどどどうしよう……!?」


 焦る玖命に、川奈が心配そうに聞く。


「ど、どうしたんですか、伊達さん!?」

「な、何か、『国産牛』がトレンドになったせいで、色んなスーパーで牛肉が品切れ続出だって……!?」

「あー……うん……それは大変ですねー」


 呆れる川奈だったが、玖命の次の一言で目の色を変える。


「ど、どうしよう川奈さん! 【天武会】が終わったら一緒にスーパー巡りしてくれますっ!?」

「はい、喜んでっ! やっぱりお肉は国産ですよね!」


 川奈は顔を綻ばせ、スーパーでデートという幻想を思い浮かべる。しかし、玖命の考えるスーパー巡りとは、二人で行動するという意味を持たない事を、川奈はまだ知らない。

 そんな中、モニターを見つめる鳴神翔。

 また一つのクランが勝ち星を刻み、一つのクランが散っていく。


「【大いなる鐘】の勝ち……か。ま、【ポチズリー商店】と【大いなる鐘】じゃ戦力差があり過ぎっか。おし、次はまた俺様たちだな!」


 自身の拳同士を突き合わせ、気合いを入れる翔。

 その音に反応し、玖命がモニターを見る。


「ベスト4が揃いましたね……」


 玖命の言葉に、川奈がトーナメント表を指差しながら確認する。


「【命謳めいおう】、【ミナジリ】、【業炎ごうえん】、【おおいなるかね】……ですね!」


 川奈の言葉に、山井が聞く。


「【ミナジリ】? 聞かんクラン名だのう?」

「何か、私たちと似て4人構成のクランみたいですよ。それぞれの名字――三橋みつはし長沼ながぬま上崎じょうさき龍堂りゅうどうの頭文字からとって【ミナジリ】だとか」

「強いのかのう?」

「最近、三橋みつはしさんが【拳聖】になったそうです。吸血鬼の衣装着てる人がそうですね」

「ほう、若者の成長は嬉しいものだのう」


 山井が言うと、翔が呆れながら肩をすくめて言う。


「何言ってやがるんだよセンパイ……後続こうぞくに道譲る気、一切ねーだろーが」


 山井の性格を完璧に理解しているかのような翔の言い方に、川奈が苦笑する。

 そして山井が言うのだ。


「やはりわかるかのう?」


 言いながら、ニヤリと笑う。

 その表情は、いつもの山井の好々爺こうこうやぜんとしたものではなかった。

 玖命が息を呑む程の気迫。山井にはひたすら歩む覚悟が見て取れた。それを見た翔が「へっ」と小さく笑う。


「番場に勝ってから一皮むけたんじゃねーか、おい?」

「ほっほっほ、身体の全細胞が過去一番で踊ってる気分じゃ……!」


 すると、控室に【天武会】の係員がノックをする。


「どうぞ」


 玖命が言うと、係員が顔を覗かせ言った。


「クラン【命謳】様、間もなく準決勝の時間です。西の入場門、ゲート前でお待ちください」


 そう言われ、【命謳】の4人が見合い、頷く。


「ありがとうございます、すぐ向かいます」


 玖命が言うと、翔、山井が拳を突き合わせ、廊下へと向かう。


「後1つ勝てば決勝ですよ、伊達さんっ!」


 意気込む川奈に、玖命もニコリと微笑む。


「はい、行きましょう!」


 前の2人にならい、川奈もまたちょこんと拳を出す。

 玖命はこれに応え、川奈の拳を静かに突き返す。

 嬉しそうな川奈が小走りで廊下に向かう。

 玖命が川奈の後に続き廊下へ出ると、大きく息を吸う。

 目を瞑り、すんと鼻息を吐き、ゆっくりとまぶたを開ける。


「後……2つ」


 誰よりも先を見据え、歩き続けて来た伊達玖命。

 武器もなく、手段もなく、ようやく手に入れた天恵ちから

 未だ眠るその力、解放させるその時、その瞬間を心待ちするように、玖命は期待に満ちた表情を見せ、準決勝に臨むのだった。

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