第281話 ◆天恵展覧武闘会10
【天恵展覧武闘会】天才たちの控室、大部屋では【大いなる鐘】の面々がモニターを通して第1回戦を観ていた。
その壮絶な戦いぶりに絶句する面々に、代表、【
「何とも、恐ろしいクランもあったものだね……」
越田の言葉に、【
「見るからに、全員が第5段階でござるなぁ……」
ロベルトが困ったようにそう言うと、【
魔法系の天恵は耐久性を考えれば非常に脆いと言わざるを得ない。両者が攻撃を受けないとは限らないのだ。【命謳】の攻撃
「十郎……山井殿、鳴神君の攻撃を防ぐ事は可能かな?」
越田に言われ、【
「
「大盾は?」
「あれは渡辺がへたくそなんだよ。攻撃に対し、的確な場所で受けりゃ問題ない。
「では、両者に対しては、私と十郎で対処しよう。ロベルト、
ロベルトと水谷が越田に目を向ける。
「川奈君のガード、抜けるかな?」
「抜くだけならば可能でござるが……」
ロベルトが言いごもると、代わりに水谷がその先を言った。
「抜いたところで、
肩を
そして水谷に言うのだ。
「では逆に……水谷が伊達殿だったとしたら、我々をどう攻める?」
「そりゃやっぱり、高幸狙いじゃない? さっきの飯田って【将校】と同じように、高幸が負けた段階で【
「だが、私の周囲には真紀、桜花、そして十郎がいる」
「となると………………あれ? 一番危ないの、私とロベルト?」
「正確には、移動砲台とも言える伊達殿が魔法で我々を狙いながら、結莉とロベルトを相手取るだろうね」
そう言われ、ロベルトは目を瞑ってゾクリと肩を震わせてから言う。
「想像したくないでござる。おうち帰りたいでござる」
「おかしいなー。ちょっと前まで玖命クンとあんまり差はなかったんだけど……」
そんな水谷の言葉に、越田が言う。
「我々には何が足りないのか、それがわかる一戦になるかもしれないな」
「伊達氏は【
立華が聞くも、越田は首を横に振った。
「それを
そう言われ、立華は宙を見つめ、口を結んだ。
「彼は手助けをしたに過ぎない。その全ての過程は、彼ら3人に委ねられているはずだ。我々が歩むべきだった道を、彼らは走り、抜き去った……それを忘れてはいけないんじゃないかな?」
言うと、皆立華と同じように口を結ぶのだった。
水谷はそれを重く受け止めたのか、それからは口を開く事はなかった。
しばらくし、【命謳】が第2回戦を難なく勝利すると、【大いなる鐘】が係員に呼ばれる。
「【大いなる鐘】の皆様、試合前控室への移動をお願いします」
試合が近付くと共に案内される個別の控室。
水谷はそこへ案内されるなり、スマホを手に取って廊下へ出た。
連絡する相手は、水谷の友人であり、玖命を語らせれば止まる事を知らない伊達玖命ファンクラブ会員番号3番。
「……あ、
『そろそろ出番でしょ? 電話して大丈夫なの?』
「うん、だから手短になんだけど……」
『どうしたの? いつになく真面目じゃない?』
「私になくて玖命クンにあるものって……何かな?」
『……ほーほーほー』
相田のからかうような言葉に、水谷は仏頂面になる。
「何よ、人が真剣に悩んでるのに」
『いやぁ、
「むぅ……」
『伊達くんにあって、結莉にないもの……か。やっぱりひたむきさじゃない?』
「なーに? 私が真面目じゃないって事?」
『こと戦闘においては、結莉は真面目だと思うよ』
「戦闘以外は……まぁ、不真面目なのは認めるけど……」
『でも、伊達くんは突き詰めるタイプだからね。多分、結莉が考える真面目のずーっと先に、伊達くんの背中があると思うよ』
「ずーっと先……」
『これはあくまで噂なんだけどね』
相田の前置きに、水谷が小首を傾げる。
「噂……?」
『9月中、鳴神さんの目撃情報が色んなところであがっててね』
「鳴神クンの?」
『ずーっと八王子を走ってたんだって。朝も、夜も、夜中も』
「それってもしかして……一日中……?」
『9月中、山井さんが同じ場所で何回も目撃されててね』
「…………」
『朝から夜中までずーっと剣を振り続けてたって。
「………………そう」
呟くようにそう言い、水谷は壁に背を預ける。
『あのクラスの人たちが夜中までひたむきに何かをしていたら、それはもう尋常じゃない常軌を逸したレベルの鍛錬に他ならないと思う。でも、他の天才の人たちから、そんな鍛錬をしていたって話は聞いた事がないのよ。
相田の言葉に、水谷はハッと身近な人物を思い浮かべる。
「……高幸」
『そう、わかってるじゃない。私ね、思うの』
「何?」
『多分、天恵は天才たちを見ていると思う』
「天恵を……人間みたいに言うのね」
『歩みを止めた人には、それ以上の景色を見せる事はない。だから歩みを止めない人だけが、その先の景色を見られる。そうは思わない?』
「……そうね」
『どこの世界でも同じだと思うんだけどね。多分、天才の世界は、そういった世界よりも……もっともっと努力をしないと前に進めないし、進ませてもらえないと思うの』
「うん……」
『なーんて、一般人の私が言う事じゃなかったかもね。ごめんごめん』
「いや、中々良いアドバイスだったと思う……うん」
『そ、そう? なら良かった……お、やっぱり【
「うん……ありがとう。それじゃ、またね」
『うん、また』
電話を切り、スマホの待ち受け画面を見る水谷。
そこには相田と水谷が笑い合う写真があった。
水谷は、スマホに映る相田の顔をつんつんと叩き。
「私は良い友人を持ったなー」
そう言ってから、自身の頬に気合いの張り手を入れ、「うし!」と意気込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます