第280話 ◆天恵展覧武闘会9

「おぉおおおおおおっ!!」

「カァアアアアアアッ!!」


 両者の気合いが会場を戦慄させる。

 その気迫は殺気を帯びた闘気となり、KWNドームを支配する。

 招待席にいるみことたちにも、それが届く。

 みこと、桐谷、山下は自身の肩を抱き、やがて震え始める。


「こ、これって……」


 みことが言うと、四条がそれに反応する。


「本能的に怖がってるんだよ、天才をね。まぁ、普通はならないけどな。山じーと番場が戦ったら仕方ないんじゃねーの? 私だってちょっと気を抜くと震えるし……あ、ほら、御剣も同じだ」


 指差した先には電光掲示版のワイプに映る、御剣麻衣。


『こ、この震えは……あ、荒神さん……!?』

『ん? あー、こりゃ仕方ないね。ちょっと待ってなさい』


 そう言って、荒神は会場に向かって魔力を放出した。

 それが会場を包み込むと、やがてみこと、桐谷、山下、御剣たち会場の震えが止まる。


『い、今のは一体……?』

『物凄い戦闘を見て、身体がビックリしちゃったんだよ』

『ど、どこか適当なような……』

『いいから、実況に専念しな』

『は、はい!』


 そう御剣に言い聞かせるも、荒神は胸中穏やかではなかった。


(これまで第4段階までの天才同士の戦闘はまだ良かったけど、番場……たっくんもありゃいってるねぇ。第5段階に達した天才同士の戦闘は、確かに一般人には良くない。殺気駄々洩れで、もし今の対処が遅かったら失神者も出かねなかった……後で宗頼に相談して、今後観客をどうするのか考える必要がありそうだね。にしても伊達……一体どんな魔法を使ったんだか。たっくんどころか、鳴神翔に川奈ららまで第5段階にいってるだろう? 越田以来、長らく第5段階の誕生がなかった日本が、【戦神】番場の登場で荒れたと思ったら、更に3人だって? 一瞬で天才先進国に名を連ねちゃうじゃないか。天才の育成? いや、天恵の育成と言うべきだね。そんな事が可能だとしたら、日本は……!)


 第5段階目に突入した天恵の持ち主――越田、番場、山井、鳴神、川奈。その内3人を育成したと言っても過言ではない伊達玖命という存在。それがどれだけ異常な事なのか、荒神は理解していた。しかも、川奈はまだCランク。

 ゾクリと感じた震えは玖命に対する畏怖いふか、またはこれからの期待を予期した武者震いか。

 番場と接戦を繰り広げる旧友の姿に、荒神は強く拳を握る。


「ほっほっほっほ! 圧が甘いのではないか、番場!?」

「ちっ、剣のキレも上がってやがる……一体何をした!?」

「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休み……血のにじむような……否、血をにじませながら、血反吐ちへどを吐きながら、わしが信じる友の希望ひかりの道しるべを歩み、駆け、転び、ったまで……!!」

「よく口の回る爺だ……!」

「なんとも愛嬌のない餓鬼がきだ……!」


 幾度も戦斧が、剣が……打ち、弾かれ、払い、流され、止められる。剣撃が風を呼び、風が風を巻き込む。

 異常な空間に会場も、司会者も、ネットも、全ての人類が驚きを見せる。


 ――俺の見間違いじゃなければ、番場と山井……浮かんでね?

 ――人力竜巻で草

 ――ナニコレ?神々の戦いかな?

 ――新たな神話爆誕じゃん

 ――てか、何で【命謳】の残りのメンバーは涼しい顔で観てる訳?

 ――翔は自分のくしで髪整えてるな。アレ、よく没収されなかったな

 ――キャスケット帽子おさえるららちゃんかわゆす

 ――さっきから国産牛って聞こえるのは何?伊達の声っぽいけど?

 ――「セルフ竜巻」、「国産牛」トレンド入りおめでとうございます。

 ――全体視聴率80%超えたwwww


「ちっ、手が付けられない爺だ!」

「ほっほっほっほ! 楽しいのう、番場ぁ!!」

「はぁっ!!!!」

「シャァッ!!!!」


 万にも達する撃ち合い。

 掻い潜り、避けていた4つ同時の衝撃。

 番場の戦斧、山井の双剣がぶつかった直後、竜巻が吹き飛ばされる。

 大地に降り立った、番場と山井。

 疲労が見てとれるのは――山井。

 傷と打ち身が多いのは――番場。

 互いに満身創痍まんしんそうい

 決着が近い、そう皆が思った時、山井が上下に剣を構える。

 対し、番場は腰を深く落とし、左右に戦斧を持ち、構えている。

 皆、沈黙を貫き、電光掲示板の電子音ですら耳障りな雑音となった時、番場が駆ける。

 大地がぜ、駆ける音すら轟音。全てをその一撃に賭けた証。

 山井は静かに歩み、緩やかに駆け、その速度を上げて行く。

 番場が斬りかかり、山井が最後の大地を踏み抜いた時、勝負は決した。


「なっ!?!?」


 最後の最後まで、真のトップスピードを隠していた山井の……粘り勝ち。

 吹き飛ぶ番場に、山井は背を向ける。

 勝ち名乗りを我慢し、その場をこころよく提供してくれた仲間の下へ歩く。そう、足早に。

 立ち上がった翔が左手を挙げる。

 喜び跳ねる川奈が右手を挙げる。

 山井は左、右とハイタッチを決める。

 正面に立つ玖命が、山井の胸の前に拳を置く。

 語る言葉は――、


「国産牛まで――」

「――後少し、じゃな」


 誰にも語れぬ身内話。

 山井の拳と玖命の拳がこつんと合わさった時、会場中から大きな歓声があがる。


『決ちゃぁああああああああああああああああくっ!!!! 【命謳】vs【インサニア】! 勝者は【命謳】っ! 【命謳】ですっ!!』


 その日、世界は震撼した。

 日本に新たな第5段階が誕生したからではない。

 第5段階をようする【固有天恵ユニーク】、【考究こうきゅう】の持ち主である【伊達だて玖命きゅうめい】に全世界が注目したのだった。








 ◇◆◇ 後書き ◆◇◆


 念のため。


 物語の中で公式発表してる玖命の天恵は、まだ【考究】のままなので、最後の文章は【考究】になってます。【討究】の書き間違えじゃないのでご安心を。


 それだけ٩( ᐛ )( ᐖ )۶

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