第279話 ◆天恵展覧武闘会8

 ――誰だよ、6:4でインサニアって言ったの?【命謳】圧倒的だろ

 ――いや、ちょっと待て。川奈も翔も山井も、あの海老名の一件から明らかに強くなってね?

 ――武者修行行ってたらしいから当然だろ。

 ――たった数日の武者修行でポンポン強くなってたら、日本はSSS大国になっとるわ

 ――じゃあ何やったん?

 ――それがわかったら苦労はしないんだよなぁ…

 ――つーか、番場と山井の一騎討ちになるとか誰が想像したよ

 ――魔王とそのしもべたちは高みの見物でおじゃる

 ――魔王、結局ほとんど何もしてなくね?

 ――試合見てたか?あっという間に3人倒したぞ

 ――あれはおつまみ程度だろ

 ――おつまみwwww

 ――試合動かないな

 ――何か話してる


「爺……お前も上がって、、、、たか……」

「ほっほっほ、待たせてしまったかのう?」

「飯田を落として俺と並んだつもりか?」

「飯田に頼らなければ、儂と後輩に負けてたのはお主じゃろうに?」


 そんな山井の言葉に、番場は舌打ちを見せる。


「ちっ……やっぱありゃ別格だなぁ、おい?」


 ちらりと玖命を見る番場に、山井がニヤリと答える。


「玖命が本気だったのならば、儂と番場の接敵時点でケリがついとるよ」

「ほぉ……【大聖者】の【パワーアップ】、【頭目】の【闇駆やみがけ】、【賢者】の【ボルトガトリング】……よもやと思ったが、やはり飯田と同じ【将校】の能力も使えるって事か」

「使わなかったがの」

「……なるほどな」

「玖命は、【将校いいだ】の能力、【大聖者どうもと】の【パワーアップ】による【戦神ばんば】の強化、対し、儂と後輩への【パワーアップ】と【闇駆け】で拮抗すると睨んだ……」


 番場の視線が翔に向く。


「という事は鳴神もまた――」

「――辿り着いた、、、、、という事じゃ」

「【拳神けんじん】……となるとあの女は【神聖騎士しんせいきし】か。道理で武田が釣られる訳だ」

「凄いじゃろ? 10代で第5段階に達した天才なんぞ、世界初だのう?」

「どうせ、あの男のせいだろう」


 番場が玖命に視線を戻す。


「あの、伊達玖命の……」


 番場の視線を受ける玖命が……ペコリと会釈する。

 対し、目を丸くする番場。


「…………いつもあぁなのか?」


 番場が玖命を指差し山井に言う。


「殊勝な態度だろうに?」

「何とも毒気を抜かれる野郎だ……」

「何、本気になった玖命は誰にも負けぬ目をせてくれるからのう。心配するだけ損じゃ」

「……む?」


 番場が自身の手を見る。【大聖者】堂本による【パワーアップ】の効果が切れたのだ。


「案ずるな。こちらももうすぐよ……」


 それは、玖命による【パワーアップ】と【闇駆け】が間もなく切れるという意味に他ならない。


「それが儂らの戦闘開始の合図。よかろう?」

「あぁ、今日は爺の我儘にも付き合ってやる」

「…………何故、【インサニア】に毒を入れた?」


 山井は、ここでようやく番場に聞いた。

【はぐれ】という存在を、【インサニア】に入れた意味。

【インサニア】を脱退し、いつまでも問えぬ疑問を、ここでようやく口にしたのだ。


「爺に何を言ってもわからねぇだろうよ」

「金か? いや、魔石?」

「そんなものは目的じゃねぇ。手段だ」

「なるほど、【インサニア】は武闘集団。目的は飽くなき力……番場、お主が求めた力を提示されたか」

「クランの力……俺が求めるのはそんなものじゃない。その先にある誰も近付けない強さ。最強こそが我が望み。この力を、個の力を最大限に上げ、誰にも負けぬ、誰も抗えぬ力を持つ。それこそが我が望み……! 爺如きが止められると思うなっ!」


 直後、山井の強化が解除される。

 これにより、互いに何の強化もない、何のハンディもない状態となった。

 番場の血走る目を見、山井がボソりと呟く。


「あほくさ」


 瞬間、番場と山井が駆ける。

 番場の2ちょう戦斧ハンドアクスと、山井の双剣。一瞬にして無数の鈍い音が響き、会場に伝える。


『ば、番場選手と山井選手の個人戦! 団体戦の場で始まってしまいましたっ! 遠目から見ても、両者の攻撃は見えません! 荒神さん、解説を――』

『――ちょっと今いいところだから黙ってて』

『あ、はい』


 両者の戦闘を間近で見つめる視線が3つ。


(番場は【戦士】系。って事は力と体力を主軸に身体能力が向上するはず。対してセンパイは【双剣士】系。【剣士】系と同じで力と速度を主軸に身体能力が向上する。つまりアレだ……手数は爺のが多いが、それを捌く体力が番場にはあるって事だな。……よくわかんねーな?)


(山じーさんファイトですっ! そこ! 右です左! あー、上が下で、何でそこで後ろなんですか!? え、そういうのアリなんですか!? 何でそんな動き出来るんですか!? やっぱり私もあぁいうシュパってやつやりたいですぅっ!! おっと、いけません! むぅう、山じーさんガンバですっ!)


(皆が強くなってくれたおかげで、今回あんまり出番なかったけど、また【ツイスタX】とかで色々言われてないかな? 『怠慢な代表だ』って言われたら嫌だなぁ……2回戦からはもっと前に出るべきだろうか? でも、翔とたっくんがどんどん前に出るからなぁ。やっぱり、当初の予定通り、決勝までは出来るだけ魔力を温存しておいた方がいいかも……優勝したらみことが夕飯を国産牛にしてくれるって言ってたし……)


「センパイ、とりあえずぶっ潰しちまいなぁっ!」

「ガンバでーす!」

「優勝したら国産牛ですよー!」


 そんな3人の応援に、山井がボヤく。


「まったく、雑な応援だのう……」

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