第278話 ◆天恵展覧武闘会7

『つ、強い強い強いっ! クラン【命謳】! 2人という絶望的な人数差をものともせず、4対4に持ち込んだ! 更に伊達選手の猛攻は続きますっ!』

「ボルトルート……」

『伊達選手! 地面に網状の雷撃を放ち、【サジタリウス】神田選手と【大聖者】堂本選手の逃げ道を奪いました!』


 御剣は興奮しながら実況する。

【命謳】の活躍という熱は、【姫天】にまで及んでいた。


 ――知らなかったのか?

 ――魔王からは

 ――逃げられない☆


『ふぉおおおっ!! 明日の個人戦だけじゃなく団体戦も観に行けば良かったぁああああ!! 誰だよ、配信しようって言ったやつっ!?』


 ――樹子姫ご乱心

 ――たれぞある!

 ――はっ、ここに!

 ――あの姫を討て!

 ――まずは屏風びょうぶから出して頂かないと…


 余りの衝撃に【ツイスタX】では「魔王」、「伊達」、「川奈関押し出し」、「強化ガラスの脆弱性」などがトレンド入りを果たす。

 逃げ場のない神田と堂本。

 神田の武器ゆみは弦が切れ、攻撃が出来ず、可能な行動は受けと回避のみ。

 堂本もまた、皆に守られながらクランに利を成す【大聖者】という天恵。たとえ杖で受けられたとしても、その耐久力は、高くない。


「くっ! 飯田っ!」

「何とかしろ飯田!」


 神田、堂本が【将校】飯田いいだはじめに援護を求めるのは当然と言えた。

 翔、山井によって【戦神せんじん番場ばんばあつしは止められ、【将軍】武田、【天騎士】渡辺は失神KO。

 飯田が玖命を狙えば、魔法が解除され、反撃の余地はある。

 しかし――、


「おい、飯田!?」

「くそくそくそっ……!」


 飯田は神田、堂本の言葉には反応せず、ただ事の成り行きを見守っていた。

 何も出来ないのではない。何もしない。それが飯田の決断だった。


「「あ……」」


 完全に逃げ道を失った2人は玖命の魔法攻撃によって壁際にまで追い詰められ、そして――、


「「ガガガガガガッ!?!?」」


 ボルトガトリング、ボルトルートの合わせ技によって、感電しながら意識を失ったのだった。


「残り2人……」


 そう言いながら玖命は飯田を見据える。


『神田選手、堂本選手KOです! 【インサニア】の残るメンバーは【戦神】番場選手と【将校】飯田選手のみ! 一体、誰がこんな試合を想像したでしょう!? 【命謳】、圧倒的です!』


 飯田に向かって跳躍し、その前に着地する玖命。

 木剣と盾を構える飯田を見、玖命は確信に至る。


「【せんはん】さん……ですね」

「っ!?」


 疑問ではない確信。それが飯田の表情を引きらせる。

 飯田は何も言わず、言えず、ただ武具を構え、敵意を見せる事でしか玖命に抗う事は出来なかった。

 何故ならそこには――、


「くっ……!? ど、どんだけ強くなるんすか……! あ、あれから1ヶ月半しか経ってないってのに……!?」


 二刀を構え、どんな相手をも踏み倒す力を持った、伊達玖命の姿があるからだ。


「北海道の武具工場の痕跡から、必ず今のあなたと一致する情報が出て来ます。次に会うのは……天才特別収容所――【天獄てんごく】ですね」

「俺がそう簡単に捕まると思うんすか……?」

「大丈夫ですよ、しばらく起きられませんから」


 直後、飯田の殺気が溢れ出す。


「そ、それは困るっすねっ!!」


 這うように攻める飯田の一撃。

 対し、玖命は左右から交叉するように木刀で飯田を挟む。


「くっ!?」


 右の一撃を何とか防ぐも――、


「ぐぉ!?」


 その膂力凄まじく、飯田が受け切れるものではなかった。

 骨盤に当たった攻撃が身体を吹き飛ばそうとするも、反対に迫っていた左の木刀が、飯田の首に強烈な一撃を刻む。

 右の威が左の威を受け、行き場のないエネルギーは宙を舞う。


『い、飯田選手! ま、回る!? 回る回る回るっ!? 一体どれだけ回るんでしょう!?』

『あ、そろそろ止まるね』


 荒神の言葉通り、飯田の回転は徐々に勢いを失い、やがて大地に叩きつけられる。会場の床を破壊するだけの威力を残しながらも、飯田の身体はようやく止まった。

 これにより、番場との戦闘に集中していた翔、山井が飯田の脱落を知る。

 番場の力の低下をその身で理解したからである。


「へっ……!」


 翔はそう言って後方に下がり、川奈もまたそこへ合流する。

 玖命がゆっくりと歩き、翔、川奈の下まで行くと、ようやく番場が気付く。


『こ、これはもしや……!?』


 御剣の言葉の疑問を荒神が解消する。


『驚いたね。団体戦の中で個人戦をするつもりだよ、彼ら』


 番場が攻撃を止めると同時、山井も番場と距離を取る。

 それが何を意味するのか、会場の観客たちも、ようやく理解が追いついた。

 木刀を腰に納刀し、腕を組む伊達玖命。

 大盾を背負い、「山じーさん! ガンバですっ!」と声援を投げかける川奈らら。

 蹲踞そんきょスタイルで番場を睨み、ただその行く末を見守る鳴神翔。

 実況の御剣が興奮し、立ち上がりながら叫ぶ。


『一騎討ち! 1対1の一騎討ちですっ!!』


 瞬間、会場が沸き立つ。


『何という事でしょう!? 【インサニア】代表の番場選手と、元【インサニア】序列2位兼参謀の山井選手の一騎討ち!! 【命謳】メンバーは、予めこれを予期していたかのような動き!』


 御剣の隣にいる荒神も拳を強く握り、目を見開く。

 招待席にいるみことが四条に聞く。


「棗ちゃん、どっちが勝つと思う……?」


 そんな質問に、四条の【天眼】が動く。

 捉える先は、自称、造詣ぞうけいの深いネット住民。


 ――山井やまい拓人たくと

 ――生年月日:西暦19XX年2月22日

 ――身長:157cm・体重:50kg

 ――天恵:【阿修羅あしゅら


 それを見、宙を見た後、四条はみことに答える。


「ちーーーっと……わかんないなー……」

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