第263話 反省会

 ◇◆◇ 20X0年10月3日 19:30 ◆◇◆


「すまんのう、今日の警備を任せてしまって」

「いえ、山井さんの懸念も大事な事ですから」


 俺たちはKWN重工、株式会社TLEの警備を終え、八王子支部のレンタルスペースまで戻っていた。

 そこにたっくんが合流し、今日の話をまとめるため、四条さんが資料を作ってくれた。

 各席の前にあるテーブル。

 眼前に配布された資料に目を通すたっくん。


「…………ほぉ、【KW-00AラプトルA】、【KW-00TレックスT】、【KW-00KコアトルK】か。KWNはまたとんでもないもんを造ったようだのう」

「あくまで情報共有のために作った資料なので、今回の【反省会、、、】が終われば、資料は回収して燃やします」

「ふむ、確かにそれがいいかもしれんな」


 そう言った後、たっくんは今の俺の言葉を思い出したのか、少しだけ首をひねってから聞いて来た。


「……反省会?」

「えぇ、ちょっと」


 俺が言うと、四条さんがわざとらしく言った。


「鳴神がTLEの社長に対して『ボケ』って言っちゃったんだよ」

「ほぉ? それは確かに反省会が必要だのう」

「だぁー! 悪かったってちゃんと謝っただろうがっ!」


 そんな翔の弁解にも、四条さんは一歩も引かない。


「謝罪を要する事自体が問題だって言ってるんだよ! 穂積社長が鳴神の人となりを知ってたし、きゅーめーの親父さんの会社って事もあるから、大きな問題にならなかっただけなんだからな!」

「ぐぅっ!?」


 四条さんの正論パンチにぐうの音しか出ない。

 流石の鳴神翔も、これ以上は何も言えないだろう。


「翔さん」


 今度は川奈さんからの糾弾だろうか?


「な、何だよ嬢ちゃん……?」

「ご自分が伊達さんの舎弟しゃていだって事、忘れてませんか?」


 物凄い一撃がきたな。

 これには、四条さんもたっくんもポカンと口を開けている。


「そ、そんくらい、覚えてらぁ!」

「では、舎弟がヘッドに……翔さん風に言うと、お尻を拭かせた事についてはどうお考えですか?」

「っ!?」


 翔なら「お尻」と言わず「ケツ」と言いそうだが、これは黙っているべきなのだろう。


「…………す、すまねぇヘッド。すまねぇ皆」


 まぁ、川奈さんと四条さんが不機嫌な理由は、謝った後の翔の態度にあるだろうしな。「反省している態度ではない」と2人に見られてしまったのは、翔が悪いと言える。

 すると、たっくんが顎髭あごひげを揉みながら言う。


「『ボケ』の一言とはいえ、【命謳】の名に傷を付けかねん発言。何かしらの罰則は必要かと思うが……どう思う、玖命?」

「罰則ですか……」


 それは考えてなかったな。


「あ」


 川奈さんが閃いたような声を出した。

 きっととんでもない事を言うに違いない。


「翔さんの特攻服をピンク色に染めて、花柄のレースを付けるというのはどうでしょうっ? 1ヶ月」


 瞬間、翔の顔が絶望に染まった。

 直後、たっくんが立ち上がり、川奈さんに言った。


「な、何と恐ろしい事を考えつくんじゃ、ららちんは!?」

「らら、いくらなんでもそれは可哀想じゃないか?」


 このレベルは想像していなかったのか、四条さんもフォローに回る。

 俺は、翔が「ピンク……」、「花柄……」、「レース……」と言いながら落ち込む姿をずーっと見ていた。ちょっと面白い。


「むぅ~……いい考えだと思うんですけどねぇ……」


 翔を反省させる上ではこの上なくいい考えだと思うが、それでも、1ヶ月は可哀想だ。1日ならともかくな。

 何かないか、と思い……俺は【命謳】のノートパソコンで検索を始める。

「反省 罰」のワードで検索していると、俺はとある画像に目が留まった。


「お、これなんかいいんじゃないですかね?」


 そう言って、皆にノートパソコンに表示された写真を見せた。


「だ、伊達さん……これって……!」

「玖命、これは余りにも後輩が……!」

「ギリギリ……ギリギリ……可哀想かな……うん」


 川奈さんも、たっくんも、四条さんも……反対まではしないようだ。

 翔は、といえば……?


「俺様を犬猫、、と同じ扱いたぁ…………流石ヘッドだぜ…………」


 と、ガックリ肩を落としている。


「それじゃあ罰は後程、翔を写真に収めて、【命謳】の公式アカウントに載せる感じで」

「う、うむ……儂も肝に銘じよう」

「あ、それなら私、写真撮りまーす!」

「じゃあ、その写真は後で私に送って。公式に載せるから」


 そんなこんなで終わった反省会。

 今日、俺や川奈さん、そして翔が不安を覚えたのも無理はない。

 工場長の話では、ハンドガンである【KW-00AラプトルA】は、警察関係へ、アサルトライフルである【KW-00TレックスT】は軍関係へ、そして、あのスナイパーライフル【KW-00KコアトルK】は、特殊部隊を対象に販売するそうだが、天才とは違う一般人が、モンスターを倒せる力を持つという事実。その事実は、当然天才に向けられる可能性もあるという事。

 翔は、Aランクモンスターの眉間に決まれば絶命たらしめる性能を秘めた【KW-00KコアトルK】に、微かながらもその未来を見た。

 それが午後の不機嫌の理由であり、罰を受けてしまった要因でもある。まったく、真っ直ぐ過ぎて困ったおとこである。


「あ、そうだ。きゅーめー」

「ん?」

「ほい、充電終わってるぞ」


 そう言って、四条さんは俺にスマホを手渡してくれた。

 そういえば、通知が沢山きてて充電切れてたんだっけか。

 俺はスマホの電源を入れ、着信や通知がないか確認する。

 すると――、


「ん? 留守電?」


 知らない番号からの留守番電話。

 そのメッセージが残っている事に気付いた俺は、すぐにそれを確認した。

 流れてきた音声。

 その声は、これまで会った誰よりも重く、淡々としていた。


荒神あらがみかおるです。折り返し連絡が欲しいから気付いたら電話ください。できれば【天武会】の前に会っておきたいんだよ、2人っきりでね』


 …………これ、間違い電話だな。

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