第262話 株式会社TLE

 ◇◆◇ 20X0年10月3日 15:00 ◆◇◆


「いや~、よく来てくれたね。玖命くん!」


 親父――伊達だて一心いっしんが勤める会社【株式会社テクノライクエンジニアリング】。

 KWN重工の警備を昼過ぎに終え、俺たち3人は道中で八王子ラーメンを昼食に摂った後、TLEへやって来た。

 社長の【穂積ほづま賢二けんじ】さんに出迎えられ、俺たちは早速警備を――という訳にもいかず、早々に応接室へと案内された。


「いやー、凄かったね、海老名の一件」

「精一杯でしたけどね……」

「相変わらず謙虚だねぇ。まぁ、犠牲者の方々がいるんだ。大手振ってという訳にもいかないだろうねぇ」

「えぇ、先日、クランを代表して献花を」

「うん、それがいいだろうね」


 だが違和感がある。

 TLEは親父が勤める会社。

 応接室に顔くらい出しそうなものだが?


「伊達部長をお探しかな?」

「あ、いえ……親父なら顔くらい出しそうなものだなーと」

「ははは、だろうね。でも今、伊達部長は、本部長になった人と一緒に引き継ぎに奔走してるからね。過去一番忙しいはずだよ」

「あー、そういう事でしたか」

「本当なら伊達部長は玖命くんに会社を案内して回りたいだろうけど、時期が悪かったね」

「いえ、大丈夫です」

「でも、海老名ではSSダブルSSSトリプルの魔石。それにグレーターデーモンのBランクの魔石が大量にあったんだって?」

「あー、そうですね」

「惜しかったなぁ~、後1ヶ月早く契約してれば、SSSトリプルは難しくてもSSダブルあたりは欲しかったんだけど……!」


 穂積社長、本当に悔しそうだ。

 しかし、会社とはいえSSダブルの魔石を買う資産があるというのは凄い事である。

 川奈社長がTLEの事を褒めてたし、業績以上に目を見張るものがあるのだろう。


「それじゃあ工場まで案内するね」

「あ、はい! ありがとうございます!」


 まさか、穂積社長自ら案内してくれるとは思ってなかった。

 とはいえ、ラーメンを食べてる時は笑顔だったが、川奈さんと翔の表情がどこか暗いような気がする。

 まぁ、KWN重工の銃器を見ちゃったら、こんな表情になるのも無理はないが……大丈夫だろうか。

 四条さんは、それに気付いてか、ずーっと無言を貫いてるし。

 会社の裏手にある大倉庫。その中にTLEの工場も併設されている。しかし、先程のKWN重工と比べ、大きな機材はなく、あっても町工場の域を出ないようなものばかり。

 ライン生産というよりかは、クオリティ重視の職人たちの作品……そんなイメージがTLEにはある。

 まぁ、イメージだけで、実際には当然のようにラインはあるんだけどな。

 そんな中、四条さんの目が留まる。


「へぇ、これってTLEで作ってたんだ」


 四条さんの言葉に、皆足を止める。


「『防虫NEOスプレー』ですね! 実家でお母さんが使ってました!」

「へぇ、川奈家でも使うんだ?」


 四条さんが聞く。


「ウチ、お庭が広いので結構虫が入って来ちゃうらしいんですよ。でも、これを窓に吹きかけてるだけで、家に虫が入らなくなったって、お母さんも喜んでました!」


 そう川奈さんが言うと、穂積社長が嬉しそうにうんうんと頷いてくれていた。


「これには魔石の力も使ってるからね。薬品との融合が難しかったけど、頑張った甲斐があってヒット商品になったんだよ。川奈夫人も使って下さっていたとは光栄だねぇ」

「あっ、これもTLEさんなんですね!?」

「日用品を多く販売してるからねぇ。トイレットペーパーや洗剤なんかも扱ってるよ」


 そこまで穂積社長が説明すると、横からニュっと顔を出す翔が言う。


「でも、魔石が必要なんだろ? さっきみたいな防虫剤だけって訳じゃねーんじゃねーの?」

「お、流石だね鳴神くん。ウチの新商品……見て行くかい?」


 翔がちらりと俺を見る。

 まぁ、一応俺が代表だしな。確認をとるのも翔の仕事だ。


「それは楽しみですね、是非お願いします」


 俺が穂積社長にそう言うと、彼は上機嫌で大倉庫の奥へと連れてってくれた。

 やがて見えて来た筒状の物体に、翔の顔が曇っていく。


「あ、あれ……銃ですか……?」


 川奈さんも警戒の色を見せている。

 だが、四条さんは小首を傾げながら穂積社長にピタリと付いて、その筒状のナニカをじっと見ている。


「へぇ……これ、商品化するんですか?」

「うん、一般家庭向けにね」


 そう聞いた直後、翔がくわっと顔を強張らせた。

 先程の銃器にコレじゃあ、仕方ないのかもしれないが、今の翔には、何を言っても伝わらないだろう。

 だが、次の穂積社長の言葉が、翔に冷や水、、、を掛けたのだ。


「この『捕獲ネットバズーカ』があれば、Cランク相当のモンスターまで壁や地面にピターーーーって、くっつける事が可能なんだよ」

「「捕獲……ネット……?」」


 川奈さんと翔の言葉に、穂積社長は首を傾げる。


「他社製品の捕獲ネットはゴブリンくらいしか捕えられなかったでしょう? 今回、ウチがしっかり魔石コーティングしたら、ここまで性能を上げられたんだよ」


 と、鼻高々な穂積社長。

 なるほど、倒す、ではなく捕まえるか。

 どこの企業も、しっかり努力しているという事か。

 さて、顔を強張らせていた翔といえば……?


「ま、紛らわしいフォルムしてっから、か、勘違いしちまったじゃねーかっ!! ボケ、、!」


 翔にしては、尻すぼみな一言だったな。

 ふむ、とりあえずメンバーの非礼を穂積社長に詫びる事から始めようか。

 警備の後は……皆で反省会でもしようと思う俺だった。

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