第261話 KWN重工5

「カカカカカッ! ヨユーヨユー!」


 ニカリと笑う翔を前に、川奈さんが控えめな拍手を送り、


「おー! 翔さん凄いですー!」


 工場長はもう興奮MAXといった様子だった。


「ふぅふぅ……ふぎぃ!」


 工場長の目が血走ってるのは気のせいじゃないはずだ。

KW-00TレックスT】の攻撃を全て受け切った翔を前に、自社の製品の限界を知った工場長が怒っていない訳が――、


「素晴らしいっ!」


 怒ってないな。


「お?」


 翔が首を傾げ、俺も「ぇ?」という間の抜けた声が出た。


「まさか【KW-00TレックスT】まで受け切ってしまうとは流石は【命謳】の特攻隊長!!」

「いや、特攻隊長って訳じゃ――」


 俺がそう説明しようとするも、それを止めるように口を開けたのは翔だった。


「――カカカカカッ! だろぉ、こーじょーちょー!?」


 翔がそう言ったや否や、工場長は目を輝かせて俺に言った。


「伊達様!」

「えっと……な、何でしょう?」

「もう1丁だけお願い出来ないでしょうか!?」

「お願いって……テストですか?」

「その通りでございますっ!」


 俺の手を握り、肉薄する工場長。

 俺はちらりと翔に目をやった。翔の確認をとろうと思ったからだ。

 しかし、当の本人は――、


「カカカカッ! 1丁と言わずに戦車でも持って来いやっ!」


 やる気満々である。


「ありがとうございますっ! しょ、少々お待ちくださいっ」


 そう言って、工場長は慌てて別室へと向かった。

 その間、俺は川奈さんと見合う。


「実際、【KW-00TレックスT】? でしたっけ? そのアサルトライフルはどうだったんです?」

「んー、確かにハンドガンの【KW-00AラプトルA】よりかは大きなダメージを狙えると思います。1マガジンで1~2体…といったところでしょうか」

「一般人が……武力を持つ、ですか」


 やはり、川奈さんも俺と同じ心配をしている。

 これが一般人の手に渡れば、確かに世界は平和へ一歩前進する。

 しかしそれは、モンスターに対してのみ言える事。

 この銃たちが天才に向かないとは限らないのだ。心配にならないはずがない。


「私、今日は実家に帰って、お父さんに色々聞いてみます」

「うん、それがいいだろうね」


 俺は川奈さんの決断を否定する事なんて出来なかった。

 川奈氏の真意、荒神所長の真意はわからないが、この銃たちの存在を、彼らはどう思っているのか。

 それは聞いておいた方がいいかもしれない。特に、これから銃を商品として売り出す川奈氏の娘――川奈ららなら聞かない訳にはいかないだろう。


「大変お待たせしましたっ!」


 工場長が持って来たケースは、非常に大きく、長さにしてみれば川奈さんの身長を超えていた。

 もしかして……あれは――、


「これは、今日お見せする予定はなかったのですが、鳴神様の動きを見て考えが変わりました」


 ケースから出て来たのは、150cmはあろうライフル。


「スナイパーライフルですぅ……私、初めて見ましたっ!」

「全長1521mm、重量13283g、銃口初速1419m/s、有効射程1970m。ボルトアクション式アンチモンスターライフル【KW-00K】――【ケツァルコアトルスK】。長いので商品名は【KW-00KコアトルK】に決まりましたが、いやぁ、何度見ても美しいフォルムですねぇ……」


 言いながら、工場長は孫でも抱いているかのようにスナイパーライフルを持っていた。この人もちょっと怖いかもしれない。


「では、それで最後にしましょう。翔、準備は?」

「退屈で欠伸あくびが出ちまうよ、ヘッド。さっさとしてくれや」


 本当に欠伸してる。

 まぁ、一度工場長が離れちゃったら、翔の熱も冷めるというものだ。

 俺はボルトハンドルを引いて弾薬を装填。

 翔に向かってそれを向けた。


「あ、申し訳ありません。今二脚支持装置バイポッドをお持ちします」

「いえ」

「……え?」

「必要ありませんよ」


 そう言って、俺は天恵【一意専心】を発動した。


「す、凄い……全く動かない……?」

「集中……集中ですぅ……」


 工場長の感想はわかるが、川奈さんのは……もしかして俺の口癖が移ってしまった?

 そう考えながら、俺は拳を突き合わせ、腰を落とす翔に銃口を向ける。


「来いや……ヘッド……!」


 1発の銃声が聞こえた直後、翔は目を見開いて銃弾をかわし、俺は目を見開いて翔の行動に驚愕した。

 確かに翔は【KW-00KコアトルK】の銃弾をかわした。相変わらずとんでもない反射神経である。

 しかし、翔の目の驚きは、それだけではなかった事を物語っていた。


「…………はえーな」


 アレは、マジの目である。

 そう、これまでの余裕はなく、翔は真剣な表情で銃弾をかわした。

 それこそが、俺の驚いた理由である。


「どうする、翔? 続けるか?」


 そう聞くも、翔から返ってきた言葉は、予想外の言葉だった。


「……んや、あんま長居すんもんじゃねーべ、警備なんてよ」


 そう言って、いつものハンドポケットスタイルに戻り、射撃スペースから出て来たのだった。

 俺と川奈さんは再び見合い、静かに頷く。

 確かに、【KW-00KコアトルK】の銃弾は翔の脅威にはならないだろう。かわす事も出来たし、はじく事も、受け止める事も出来るだろう。

 ただ、この銃弾の威力を増す事に対して、翔が本能的に協力を嫌っただけである。

 翔は見たんだ。

 これ以上のデータを、研究を、KWN重工に続けさせる事で見える……不穏な未来を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る