第260話 KWN重工4

「ちょちょ、ちょっと伊達様っ!?」


 声が裏返っている工場長。

 まぁ、その気持ちはわからないでもない。

 俺は、確認したい事を工場長に聞く。


「……この銃器申請の許可は?」

「も、勿論しております」

「これだけの設備、試射場の許可もありますよね?」

「あ、ありますとも」

「では、テストのチェック項目に余白はありますか?」

「…………よ、余白?」


 そればかりは工場長は答えられなかったが、俺は注文する事でそれを解決する。


「じゃあ余白があったらそこに『鳴神翔』って加えておいてください。多分、それで上の人たちは納得すると思うので」

「思うので……って、だ、伊達様……っ!?」


 震える工場長を前に、俺……ではなく、川奈さんが言った。


「『試射』は、お父さんからの許可があるんですよね?」

「し……試射……! 試射? 試射……!?」


 先程、自分が言った言葉を思い出したかのような工場長の表情。

 試射という言葉の意味を脳内から探し、思い出し、掘り起こし、それでもターゲットの前にいる翔の存在が、『試射』という単語とはかけ離れていて、理解するのに時間がかかっているようだ。


「試射……そうですか……試射……ですか……」


 俺はプルプルと震え、眉間をおさえる工場長に微笑み、先程手渡し交換した【KW-00AラプトルA】を戻してもらった。

 工場長の目に少なからず興味の色が見えたのを、俺は見逃さなかったのだ。


「ぁんだよヘッド? そんな豆鉄砲からか?」

「これをクリアしないと、本命を出せないだろう?」

「マガジンありましたー!」


 爽やかな笑顔で川奈さんが数個のマガジンを抱え、持って来る。

 俺はそれをブースの台に置き、翔を見据える。


「まずは回避から」

「ぁ? 眉間ここでいーだろが?」

眉間そこは最後。何だ? かわせないのか?」


 俺が言うと、ピクリと反応を見せた翔。

 わなわなを震える翔に、川奈さんが後ろで苦笑する。


「上等だヘッドぉ……!」

「頭は最後だって」


 そう言って、俺はマガジンを装填した【KW-00AラプトルA】のセーフティーレバーを解除した。

 工場長のゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。


「Range is going hot?」


 射撃前の合図を問いかけると、翔が頬に平手打ち気合いを込め、叫ぶように言った。


「Going Hotだゴラァアアッ!!」


 俺はその返しにくすりと笑い、翔に向かって銃弾を放った。

 直後、翔は左右に顔を移動させ、その銃弾をあっさり避けて見せた。


「おぉ……おぉ……!?」


 工場長の驚きと共に、俺は続けて翔に言う。


「残り26発、まだまだいくぞ」

「どんどん来やがれっ!!」


 翔に狙いを定め、銃弾が尽きるまで撃つ。

 対して翔も、軽やかにこれをかわす。


欠伸あくびが出ちまうぞ、ヘッドぉ!?」

「次、掴んでみろ」

「ラクショーだぜ、カカカカッ!」


 マガジンを外し、自重で落としてから再装填。

 リロードをすると共に、翔への再射撃。


「おら! おらおらおらぁ!」


 翔は銃弾を掴み、掴み……ついには摘まんだ。


「うっそ……」


 パラパラと翔の掌、指から落ちる傷のない銃弾に、目玉が落ちそうな程驚く工場長。そんな工場長を見て、川奈さんが興味を示す。


「こんなに出るものですかぁー……」


 そんな感心をよそに、俺は最後のマガジンを装填。


「翔、お待ちかねだ。しっかりはじいてみろ」

「上等じゃゴラァッ!!」


 響く銃声。

 しかし、それ以上の鈍い音が翔の拳から届く。


「銃弾を……拳ではじいた……?」

「ヨユーだヨユー」


 確かに翔の表情には余裕が見える。

 まぁ、掴めたのだからはじくくらいは問題ないだろう。

 残弾数が残り少なくなると、俺は翔に言った。


「残り3発!」

「カカカカカッ!」


 1発目、翔は銃弾をアッパーで上部へ弾いた。残り2発。

 2発目、翔はニヤリと笑ってから、ガキンと銃弾をくわえた。残り1発。

 3発目、翔は気合いの入ったかおで、ニヤリと笑みを浮かべ……銃弾を頭突きして、地面に叩きつけた。


「おぅら……1丁上がりだボケェ……!」


 見た所、傷もなく、翔には甘い武器と言える。

 やはりこの【KW-00AラプトルA】は、通じてCランクモンスターといったところだろうか。


「じゃあ2丁目ですね」


 銃の単位など気にしてなかったであろう翔に対し、川奈さんは珍しく洒落た言葉で返し、俺に【KW-00TレックスT】を掲げた。


「嬢ちゃん……そうそう、それを待ってたんだよ……!」


 俺は【KW-00AラプトルA】の安全性を確認した後、それを台に置いてから、川奈さんの持つ【KW-00TレックスT】を受け取った。

 最早もはや、工場長は目が血走りながらも、その結果を知りたいようでうずうずしているように見える。

 マガジンの装弾数は70発。川奈さんはそれを台にコトリと3個置いた。


「お、多くねぇか……?」


 稀に、川奈さんの前だと、翔の弱気が聞こえる事もある。

 これはきっと、川奈さんの器が、ある意味翔以上にぶっ飛んでいるからだろう。


「210発。しっかり捌いてみせろ、翔」

「お、おぉ! 上等だゴラァ!!」


 まぁ、この【KW-00TレックスT】、聞いた感じのスペックでは、あの腕白小僧は倒せないだろう。


「Range is going hot」

「「Going Hot!!」」


 遂に、川奈さんがノリ始めた。

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