第259話 KWN重工3

「よろしければ試射場へ行ってみますか?」


 そんな工場長の言葉に、俺たちは頷きを見せる他なかった。

 一般人が持つ対モンスターの銃器。

 その威力、性能に、興味がない訳がないからだ。


「旧時代の一般的なハンドガンやアサルトライフル、ショットガンで、ようやくゴブリンとかを倒せてましたよね?」


 試射場への道中、川奈さんが俺に聞いてきた。


「えぇ、戦車の砲台や対戦車ライフルでも使えば、ホブゴブリン、いや、上手く当たればゴブリンジェネラルくらいまでなら倒せたり足止め出来たりしますが……現実的じゃありませんね」

「戦車……」


 先程から戦車というワードに引っかかっているのか、川奈さんは苦い顔をする。


「お待たせしました。こちらが試射場です」


 工場長に案内された部屋という名のホールには、無数の銃器が置かれ、仕切りディヴァイダーがいくつも置かれ、その間にある広めの射撃スペースブース

 ターゲットのシルエットも人間ではなくモンスターになっている。貫通した銃弾を受ける最奥のバックストップには、ミスリルクラスに匹敵するであろう輝く壁面。


「跳弾の事もしっかり考えられてますね」

「安全第一でやらせて頂いてます」


 ニコニコと言う工場長の顔がとても怖いのは内緒だ。

 壁面に掛けられたハンドガンを見ていると、工場長がプレゼンするように言ったのだ。


「いかがです、試し撃ちなど?」

「え、よろしいんですか?」

「伊達様は銃器の扱いが得意だと伺っております。川奈社長からの許可もありますし、是非ご感想をお伺い出来ればと……」


 微笑む工場長に若干引き気味の俺だが、川奈さんと翔の興味溢れる視線。そして何より俺の好奇心が勝ち、その銃を手に取った。


「【KW-00A】――商品名【ラプトルA】。いち早く商品化が決まったハンドガンです。シングルアクションオート、全長202mm、重量756g、銃口初速686m/s、有効射程100m。管理区域でのホブゴブリン討伐をクリア。少々重いですが、訓練した兵であれば、Cランクモンスターへの対応も可能でした」

「ははは……恐竜から名前とってるんですね……」


 旧時代のハンドガンと比べると確かに重い……が、大型自動拳銃に比べるとかなり軽い。これが魔石コーティングで強度を上げたメリット。

 ブースには、まるで俺が試射するのを知っていたかのように、弾倉マガジンが置かれている。なるほど、川奈氏もこの存在を知って欲しかったのか。そしておそらく、その感想をも求めている。

 イヤーマフを着用し、音の遮断を確認。【KW-00AラプトルA】にマガジンを装填し。安全装置セーフティーレバーを解除。最後にスライドを引き、現代の主流となっているアイソサリーズスタンスで放った銃弾は、いくつかの轟音と共に、ターゲットに着弾する。


「おー……伊達さんカッコイイですー……!」


 そう言いながら、川奈さんはパチパチと拍手を送ってくれる。


「ふーん、けっこーはえーな」


 弾速をしっかり見極めているあたり、翔の反応も流石である。


「いかがですか?」

「確かに、ホブゴブリンあたりなら、致命傷を与える事が出来そうですね。ゴブリンジェネラル……までとなると、難しいでしょうね」

「ではこちらを」


 言いながら、工場長がアサルトライフルを手渡す。

 俺は【KW-00AラプトルA】のセーフティーレバーを戻し、マガジンを外してからそれを受け取る。


「【KW-00T】――商品名【レックスT】」

「ははは……Tレックス……」


 ヴェロキラプトルに続き、まさかティラノサウルスが出て来るとは思わなかった。


「全長873mm、重量4987g、銃口初速1080m/s、有効射程210m。発射速度は分間550発。伊達様が先程仰ったゴブリンジェネラルの討伐実績もあるアサルトライフルです」


 凄い、Tレックス程度なら簡単に倒しそうだ。

 しかしゴブリンジェネラルを倒す程のスペックが本当にあるのか。

 マガジンを装填し、チャージングハンドルを引き、セーフティーレバーを解除。肩関節の付け根付近に銃床ストックを押し付けて頬付け。ライフルスコープ越しにあるターゲットに向けて、試射。

 薬莢がカラカラと落ち、ターゲットは一瞬にして塵と化した。


「一発一発が重いのに……よくここまで反動リコイルを抑えられましたね? ほとんど衝撃がきませんでしたよ」


 俺の言葉に、満足気な様子の工場長。


「そうでしょうそうでしょう。あらゆるパーツに魔石コーティングが成され、従来の銃器よりも反動を少なくする事に成功しました。いかがでしたか?」

「確かにこれならゴブリンジェネラルを足止め……いえ、数人でかかれば倒す事も可能でしょう」


 言うと、工場長はほっこり顔となった。


「お父さん……私に黙ってこんなモノ造ってたんだ……」


 むすっとする川奈さん。

 いや、娘といえども流石に言えないだろう。

 しかし、ようやく川奈氏と荒神所長が一緒にいた理由がわかった。これがあれば、世界的な天才不足も解消されるだろう。

 勿論……それには危険がつきものだが……。

 おそらく、川奈氏も荒神所長も……それを理解しているはず。

 だからこそ、川奈氏は俺にこのKWN重工を見せたのだ。


「ほーほーほー……おもしれーなぁ……カカカカッ!」


 翔が言いながら、ハンドポケットスタイルで歩いて行く。


「わぁ……」


 引き気味の川奈さんの声と、


「えぇ……」


 引いてる俺の声。

 そして――、


「え?」


 困惑の工場長。

 射撃場のターゲットの前に立つ鳴神翔。

 親指で自身の眉間を指差し、翔が俺に言う。


「おう、ヘッドぉ? ここんとこ、撃ってみろや? ぉ?」


 ……あれは、ゴブリンジェネラルより硬そうだ。

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