第258話 KWN重工2

 ――やっぱり特別枠用意してきたか

 ――メインスポンサーにKWNが入ってたのがでかかったな

 ――遅かれ早かれこうなってただろ

 ――いや、天武会は10月10日だぞ?一週間前に発表って事は、かなりギリギリだよ

 ――逆にKWNがメインスポンサーじゃなかったら、命謳は新人クラン部門で無双して、全新人の心をへし折ってたと思う

 ――越田が【ツイスタX】でニュース引用してるぞ

 ――『相手にとって不足なし。正々堂々やりましょう!』だと

 ――ユキくんがこんなに熱くなってるの珍しくない?

 ――高幸、普段はクールだしな。確かに珍しい。

 ――水谷も『リベンジマッチ』とか言ってるわ。ガチで負けてたんだな

 ――月刊Newbieの記者は裏どりしっかりするからな

 ――でも、クランせんって6人まで出場できるだろ?命謳5人で出るの?

 ――いや、四条は事務員枠だから最小参加人数の4人で出て来るしかないだろ

 ――【大いなる鐘】は水谷、山王、茜、立華、ロベルト、越田のフルメンバーだろ?勝てる訳ないじゃん

 ――6人いればいいってものじゃない。しっかり役割分担が出来れば4人でも戦えるはず。

 ――アタッカーが鳴神と山井、壁役シールダーがららちゃん……伊達は?

 ――遊撃・援護魔法・支援魔法・その他諸々……伊達

 ――改めて伊達の負担がやべえww

 ――でも、伊達にはそれが出来てしまう不思議。

 ――伊達がぶっ壊れ性能だから、案外成り立つかもしれないな

 ――今見てきたけど、ニュースの影響か、【ツイスタX】の命謳メンバーのフォロワー数かなり増えてるわ

 ――山井8万、鳴神26万、川奈129万、四条125万……伊達270万wwww

 ――伊達に何が起きたww今朝まで70万だったろw

 ――わかったわ。越田含む【大いなる鐘】のメンバーが、【命謳】に向けて意気込み引用祭り。おそらくそこから流れてる

 ――米原と小林も、わざわざ伊達の名前入れて書いてるからな。そりゃそうなるわ


「だってさ」


 そんな四条さんの言葉に、翔は大きく笑い、川奈さんもくすりと笑った。


「ど、どどどどどうしましょう……! 4対6とか考えてませんでした……!」


 俺が慌てて言うと、翔はキョトンとした顔で言った。


「ぁに言ってんだよ。俺様たちがいりゃ、2人分の穴くらいヨユーだぜ! カカカカッ!」

「私だって頑張りますから、伊達さんも頑張りましょうっ!」


 そんな意気込みを前に、俺は目を丸くする。

 そんな俺に、四条さんがポンと背中を叩く。


「ま、頑張れよ、きゅーめー。それじゃ私は警備室にいるからー」


 そう言って、四条さんは昨日と同じく警備室に向かって行った。

 しかし、その足取りは、いつもより軽そうに見えたのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「へぇ、【KW-ZXMズィクシム】の制作工程なんて見られると思いませんでした……!」


 大学とは違い、今回はKWN重工の巡回警備。

 工場長の案内を受け、俺たちは工場見学をしながら歩いていた。


「【KW-ZXMズィクシム】は7層の魔石コーティングを施し、Cランクまでのモンスターの攻撃を防ぎます。前部、後部、天板ルーフ、タイヤ、シャーシに至るまで死角がなく、衝撃にも強い。フロントガラス、ウィンドウガラス、リヤガラスは戦車の弾も防ぎます」


 先導する工場長の案内に、何故か川奈さんが「あー……戦車の弾……」と苦笑いを浮かべていた。

 戦車の弾に何か因縁があるのだろうか?

 そんな事を考えながら工場長の後ろを歩いていると、無線式のイヤホンから四条さんの声が聞こえた。


『次のセクション、とんでもないぞ……!』


 事前にカメラで確認していたのか、四条さんの言葉は、俺は勿論、川奈さんと翔も首を傾げた。

 厳重なドアロックを……1、2、3ヵ所抜け、やって来た場所に、俺たちは大きく口を開けた。


「川奈社長からこのセクションはしっかり説明するように言われております」

「アサルトライフル……ですか?」

「ここではアサルトライフルを製造しています。勿論、ハンドガン、スナイパーライフルなど、様々な銃を製造していますよ」


 俺の説明に、丁寧に説明してくれる工場長。


「……軍用ではなく、対モンスター用って事ですよね?」

「えぇ、高濃度の魔石を使用し、銃をアーティファクト化する事に成功しました。来月から運用が始まり、天才派遣所の指導の下、KWN重工の目玉商品となる予定です」


 なるほど、これが川奈社長が行っていた事。

 翔は目を細めながら、じーっと製造ラインを眺めている。

 川奈さんも近代兵器のアーティファクト化が気になるようで、興味を隠せないようだ。


「対象ランクは、どこまでです?」

「Aランクですよ」

「っ!?」


 とんでもない威力を有している事が、その一言で理解出来た。


「既にいくつかの試験運用テストをクリアし、一般人でもBランクモンスターの討伐を可能な段階にあります。銃撃の集中砲火によってはAランクモンスターに致命傷を与える事も可能です」

「凄いですね……確かにそれが可能なら……」

「えぇ、これまで天才におんぶにだっこだった世界情勢が大きく変わる事になるでしょう」


 そんな工場長の言葉に、俺は期待と……それ以上の不安を胸に過らせるのだった。

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