第257話 KWN重工1

 ◇◆◇ 20X0年10月3日 10:00 ◆◇◆


 昨日、一つの仮説に行き着いた俺たち。

【私立八王大学】での企業巡回は、特に何の問題もなく終わった。昨日の内に、早速たっくんは荒神所長に連絡を取ると言っていた。

 そして今朝、俺はたっくんから、本日の企業警備を休むとの連絡を受けたのだった。


「――という訳で、本日は山井さんがお休みです」

「山じーさん、すぐに荒神さんに会えるなんて、本当に凄いですねー」


 川奈さんの言葉に四条さんが反応を見せる。


「やっぱり最初期の天才って事もあって、信頼されてるんだろうな」

「日本だと、センパイとあのフサフサ爺……」

「山井意織さんね」


 俺が翔の言葉に補足する。


「そう、あのセンパイとフサフサ爺の他ってなると、やっぱ荒神のバーさんが日本の天才をしっかり保護したってのはゆーめーな話だかんな」

「中でも、今もまだ最前線で戦ってるのは山井さんだけだからね。生ける伝説って言われるだけあるよね」

「カカカカッ! ネットの中でもちょっとした伝説作ってっけどな!」


 いや、ほんと。

 たっくんのネット人格は、ある意味伝説だよな。


「それで四条さん」

「ん?」

「山井さんのファンクラブの架空計上って何人だったんです?」

「70人ってとこだな」

「70個もフリーメールアドレス持ってた事に驚きですね」


 言うと、四条さんがからかうように言ってきた。


「きゅーめーは70万人分のフォローはしてないだろ?」

「うっ……」


 俺が言葉に詰まると、川奈さんと翔が言った。


「凄かったですよね、伊達さんの【ツイスタX】!」

「登録1日で70万人超え。ヘッドの威厳が世界に伝わったショーコだぜ! カカカカッ!」


 そう、大学の警備中も、家に帰ってからも、今日来るまでも通知が鳴りっぱなしで大変だった……。


「何か変なメールとかきて、今日も凄くて……もう充電がほとんどないんですよ……」


 言いながらスマホを見せると、川奈さんがくすりと笑って言った。


「ちょっとお借りしてもいいですか?」

「え? いいですけど?」


 俺が川奈さんにスマホを渡すと、彼女はアカウントの設定をいじり始めた。相変わらず目を疑う程の素早いタップ……スマホのスペックが追いつけないレベルである。


「……はい、これで面倒なメールはきませんし、通知も入りませんから安心してください…………あっ」


 川奈さんが言うと、スマホの画面がフッと暗くなってしまった。


「カカカカッ! バッテリー切れだな!」


 翔に笑われ、俺はガクリと肩を落とす。

 川奈さんが持つスマホを四条さんが受け取り、俺に言う。


「それじゃきゅーめーのスマホは私が警備室で充電しておくから、帰りに渡すよ」

「ありがとうございます、助かります」

「べ、別にこんなの普通だろ、普通っ」


 四条さんがそっぽを向き、俺は苦笑を零す。

 すると、川奈さんが俺に耳打ちしてきた。


「伊達さん、お父さんから今日の警備について何か言われました?」

「え? 特に何か言われては……あー、そういえば『工場内見学は自由にしていい』とか言ってましたね。それくらい……かな?」


 そう言うと、川奈さんが俺にスマホを見せてきた。

 そこには川奈さんと川奈宗頼氏のやり取りがあったのだ。


 ららパパ――KWN重工の警備って今日だっけ?

 Rala――そうだよー!午後には株式会社TLEの警備もやっちゃうんだー!

 ららパパ――月初にまとめて警備をやるのは悪くない。月末にまとめて警備をやっていたクランが間に合わず、違約金が発生したケースもあるからね

 Rala――伊達さんもそう言ってた!それに今月は天武会もあるから

 ららパパ――お昼前にはニュースになるはずだよ。命謳がクラン部門に特別枠で参加するって事がね

 Rala――伊達さんに伝えておくー

 ららパパ――しっかり見て回るといい。おそらく今日の警備巡回は、伊達くんも驚くだろうからね


「……という事なんですけど」

「俺が驚く……?」

「やっぱり聞いてないですよね」

「KWN重工は色んな武器や兵器を作って、世界に認知されてるし……社長も何か見せたいのかも?」


 俺がそこまで言うと、翔が思い出したように言った。


「そういや、あのリザードマンの管理区域」

「「え?」」


 俺と川奈さんが翔を見る。


「Sランクの魔石集めてっだろ? 社長は」


 そういえばそうだった。


「何か、あの魔石は北八王子に流れてるって聞いた事があんぜ?」


 そこまで言われると、俺も川奈さんもある程度予測はついてしまう。


「北八王子って……」

「KWN重工に流れてるって事なんでしょうね」


 つまり、川奈氏は俺たちにSランク相当の魔石を何に使っていたのかを見せるつもりだという事だ。

 口頭で伝えず、見せる意味……おそらく、たとえ川奈氏でも、言えない事があるのだろう。

 しかし、警備として、巡回として工場内を見るのであれば、その限りではない。なるほど、流石は川奈氏である。

 そんな事を考えていると、四条さんが目の端でくすりと笑ってスマホを見ていた。


「きゅーめー、【天武会】の事、ニュースで話題になってるぞ」


 そう言って、四条さんはクラン【命謳】の、【天武会】についてのニュースを見せてくれたのだった。

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