第254話 呼び出された玖命2

「これは……!」


 俺の眼前――プロジェクタースクリーンに映ったのは、あの、KWN銀行海老名支店の……資料室。

 映像の左上には20X0年9月18日14:40と記されてる。

 天才派遣所の八王子支部でサイレンが鳴った時刻は15:04。俺たちが海老名に到着した時刻は15:20頃。

 14:40の段階では、資料室が破壊されている様子はない。

 つまりこれは、モンスターパレードの直前の映像という事になる。

 しばらくは映像に動きは見られなかった。


「……この直後だ」


 川奈宗頼氏が、険しい顔で言う。

 時刻が14:47を迎える頃、映像に動きがあった。

 資料室に男とおぼしき人間が入って来たのだ。


目出めだぼうにサングラス……ですか。背中には長物ながもの? それと袋?」

「屋上のハイスピードカメラで捉えた。セキュリティを把握しつつ、上手く警報器を掻い潜ってここまで来てる」

「天才ですか」

「おそらく【下忍】系……【頭目】クラスと思われる」

「ご自分で?」

「天才と関わる事が多い仕事だからね。おのずと目が肥えるものだよ」


 流石はKWNを一代で築いた傑人。

 ……俺も同じ答えだ。この骨格からして男。速度重視の天恵からして【下忍】系。銀行クラスのセキュリティを掻い潜れるのは第3~4段階の天才。先に起こる事を想定した危険な作業ともなれば……【頭目】が正解だろう。


「ここだ」


 映像の時刻が14:48になった直後、男は背中の袋から大きな魔石を……二つ取り出した。


「大きさからしてSランク相当の魔石ですね」

「うむ」


 その後、目出し帽の男は、長い袋から長物を取り出した。

 しかしそれは武器などではなく……杖?


杖頭じょうとうに魔石がありますね」

「うむ、どうやら高濃度に圧縮されているようだ」


 つまり、大きさだけでは杖頭の魔石のランクはわからない。

 大きさだけならBランク程だが、圧縮しているとなると、S以上の魔石?


「部屋の両端に魔石を置きましたね」

「ここからだ」


 目出し帽の男が両端の魔石の中央後方で先の杖を掲げた瞬間、それは起こった。

 魔石と魔石の間に紫電が走り、その紫電を杖……というより杖頭の魔石が吸収しているように見える。

 杖頭の魔石の光度が上がる。なるほど、目出し帽の男がサングラスを掛けていたのは、この光度が原因か。

 カメラ越しでも眩しいとさえ思う光の後、杖頭の魔石がこれまで集めていた紫電を、跳ね返すように発射したのだ。


「っ!?」


 直後、両端の魔石は破壊され、淡い薄紫色の光が資料室を覆う。その瞬間、薄紫色の光が、濃く、深く……闇色へと変わっていったのだ。

 禍々しい闇色は資料室の壁にベッタリ張り付き、やがてそれは姿を変えていく。


「………………ポータル!」


 俺はいつの間にか立ち上がり、映像を食い入るように見ていた。


「人工ポータル……噂には聞いていたが、まさか実在するとはね」

「社長もこの事を?」

「荒神殿と話す上で、情報が回ってきただけに過ぎないよ。でも、この件なら伊達君も詳しいだろう?」

「北海道……Japanジャパン Creativeクリエイティブ Armsアームズ Factoryファクトリー……通称【JCAF】の一件ですね?」


 川奈氏が真剣な面持ちで頷く。


「【姫天】の動画から、【JCAF】では3つのポータルが規則的に発生していた。おそらく、この手法を使ったのだろう。あの杖が何なのかはまだ不明だが、魔石を2個用意するという事はわかった。当然、これは荒神殿にも共有している」

「……何故、これを俺に?」

「海老名を救った英雄……伊達君は当事者だろう? それに、荒神殿にも許可は貰っているからね」


 俺の知らないところで、天才派遣所の日本統括所長【荒神あらがみかおる】さんにどんどん認知されているような気がする。

 人工ポータル……か。こんな事をして、一体に何になるっていうんだろう。


「…………【はぐれ】は何故、こんな事をするんでしょう」

「【はぐれ】の考える事はわからんよ。だが、許してはならない思想である事は間違いない」

「そう、ですね……」


 俺の表情を見てか、川奈氏は部屋を明るくし、プロジェクタースクリーンをしまった。

 そして、足を組んで話題を変えるように明るい口調で言ったのだ。


「そういえば、【天恵てんけい展覧てんらん武闘会ぶとうかい】の件だが、話がまとまったよ」

「【天武会てんぶかい】の……?」

「【姫天】の動画、水谷みずたに結莉ゆり君との一騎打ち動画、そして海老名の映像を見て【天武会】のメインスポンサーの残りの2社も同意してくれたよ。【七海ななうみ建設】と【三日月みかづきコンツェルン】が、クラン【命謳】に対し、【クラン部門】での出場を認めたんだ」

「おぉ! それってつまり、【新設クラン部門】で出場しなくてもいいって事ですかっ!?」

「明日、ニュース等で告知される手はずだ。当日を楽しみにしてるよ」

「あ、ありがとうございます!」


 俺は川奈氏に礼を言い、立ち上がった。


「この後、【私立八王大学】の初警備だったかな?」

「そうですね。頑張ってきます」

「くれぐれも、ららが性質たちの悪い大学生に付きまとわれないようにしてくれ。頼むよ、伊達君」

「性質の悪い大学生って……川奈さんが創った大学ですよね?」

「人となりを一回の面接だけで見抜ける訳じゃないからね」


 肩をすくめる川奈氏に、俺は苦笑する。


「だが、伊達君は信用している」


 そう言って、川奈氏は俺の肩に手を置く。


「あ……どうも、ありがとうございます……?」


 ……が、その力がちょっと強いような気がするんだが?


「月刊Newbieで、水着グラビアこそなかったものの、ヘソ出しと、あのアオリの写真……!? 何でガーターリングなんか着けたんだ、あの子は……!? 病みカワ? 何だ病みカワって!? くっ!! 世界中が娘の可愛さに気付いてしまったじゃないか!? 写真自体をやめさせるべき……ベキ……ベキダッタ……!」


 このまま放っておいたら血の涙でも流しながらモンスターに変身しそうだな、この人。

 その後、川奈氏を落ち着かせてから、俺は南大沢にある【私立八王大学】へ向かうのだった。

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