第255話 私立八王大学1

 二十年程前に創立してから順調に学力を高め、世界大学ランキングで100位以内に入った、超マンモス大学――それが八王子の南大沢にある【私立八王大学】である。

 今日はその初警備。

 しかし、警備という事は、我々クラン【命謳めいおう】はフル装備で来なければならない。

 当然、警備にやって来れば、天才という存在……特に大盾を持っている川奈さんや、特攻服とっぷくを着ている翔、だんだら羽織を着ているたっくん……刀や軽鎧を装備している俺は目立って然るべき。

 待ち合わせ場所の正門に着いた時、既に川奈さんは写真を撮られていた。


「も、も~、こ、困っちゃいますね~……」


 全然困ってない顔してる。

 翔……には誰も目を合わせていない。

 たっくん……は、写真を撮られる川奈さんを羨ましそうに見ている。

 そして四条さんは……、


「そこの人、今撮った写真、許可していないので削除してください。削除しなかった場合、法的手段も視野に入れて動きますので予めご了承ください」


 と、某付きキャンディロリポップを指示棒のように使い、早速、川奈氏が意図しない警備を始めている。

 というか、この段階で一番仕事をしているのが四条さんだ。


「四条さん、警備だから別に来なくても大丈夫だったんですよ?」

「オペレーターはいた方がいいだろ。それじゃ、私は警備室にいるから、ポイントAから巡回宜しく~」


 ……四条さんがいなかったら、【命謳ウチ】、絶対上手くいかないと思う。


「センパイ、ぁーにピコピコしてんだよ?」


 四条さんの背中を見送った後、俺の後ろでは翔がたっくんに絡んでいた。


「何、そんなに気にする程の事ではないぞぃ」


 当然、たっくんがスマホを弄っていて何もない訳がない。

 翔はすぐに俺の横に立ち、スマホで自分の【ツイスタX】のアカウントを見始めた。


ヘッド、これ」


 ぷるぷるした指で、スマホを示す翔。

 俺はその呟きを横から覗き込む。

 するとそこには【たっくん(山井拓人)】というアカウントの呟きが見えた。


 たっくん(山井拓人)――今日はあの有名な大学までやって来ました!お仕事頑張りまーす^^


「……もう学生たちにバレて、拡散されてっからこうして呟いてんだろうが、自分で自分を売り込む欲求がやべーな、センパイは」


 珍しく翔が引き気味である。

 俺もここに来る途中で作ったアカウントを使い、自分で「命謳」を検索する。

 やはり、既に俺たちが【私立八王大学ここ】にいる事は周知の事実のようだ。

 情報化社会の弊害ってところだろうか。

 まぁ、俺たちが本気になれば、大学生を撒く事は可能だし、尾行を気にする必要もない。四条さんも警備室にいるなら、ひとまずは安心だ。

 それに、【大いなる鐘】のメンバーは、このレベルであれば日常茶飯事だろうしなぁ。

 そう思いながら中空を見ていると、翔が言った。


「お、何だよヘッド? 【ツイスタX】のアカウント作ったのかよっ? フォローしとくぜ!」


 おぉ、初フォロワーだ。ちょっと嬉しい。


「ちょっと待ったぁ!」


 そう叫んだのは、先程からもじもじしながらも、嬉しそうに写真を撮られていた川奈さんだった。

 川奈氏から「大学生から守って欲しい」と言われてたけど、自分から写真を撮られにいってる以上、そこは守りようがない。

 という訳で、川奈さんの物理的障壁になる事だけに徹しようと思っていた訳だが、その川奈さんが、俺と翔の間に割って入って来た。


「伊達さんの最初のフォロワーは私ですっ!」

「ぁあ? いーじゃねーか、別に俺様で」

「いーえ、これだけは譲れません!」

「それじゃ儂がフォローしようかの」

「センパイは最後だろうがっ!」

「山じーさんは最後ですっ!」


 とか何とか3人が言い合ってる内に、俺の【ツイスタX】に反応があった。


 ――【公式】命謳さんがあなたをフォローしました。

 ――四条棗さんがあなたをフォローしました。

 ――強心臓さんあなたをフォローしました。

 ――米原樹さんがあなたをフォローしました。

 ――ヘラクレスさんがあなたをフォローしました。

 ――アイーダさんがあなたをフォローしました。

 ――水谷結莉さんがあなたをフォローしました。

 ――越田高幸さんがあなたをフォローしました。

 ――茜真紀さんがあなたをフォローしました。

 ――【公式】ポ狩ットさんがあなたをフォローしました。

 ――【公式】大いなる鐘さんがあなたをフォローしました。

 ――伊達玖命愛好会会長さんがあなたをフォローしました。

 ――山王十郎さんがあなたをフォローしました。

 ――立華桜花さんがあなたをフォローしました。

 ――ロベルト・郷田さんがあなたをフォローしました。

 ――小林涼平さんがあなたをフォローしました。

 ――天音渚さんがあなたをフォローしました。

 ――一色圭さんがあなたをフォローしました。

 ――前園彩香さんがあなたをフォローしました。

 ――【KWN】川奈宗頼さんがあなたをフォローしました。

 ――0玲0さんがあなたをフォローしました。

 ――明日丸さんがあなたをフォローしました。

 ――馬淵さんがあなたをフォローしました。

 ――ヨッシー(八南)さんがあなたをフォローしました。

 ――御剣麻衣(記者)さんがあなたをフォローしました。

 ――ホッタちゃん(カメラマン)さんがあなたをフォローしました。

 ――KWN株式会社さんがあなたをフォローしました。

 ――KWN重工さんがあなたをフォローしました。

 ――私立八王大学さんがあなたをフォローしました。

 ――【TLE】穂積賢二さんがあなたをフォローしました。

 ――株式会社TLEさんがあなたをフォローしました。


「おぉ……凄い通知だ……!」


 そう呟くと同時――、


「「あぁああああああああああああっ!?!?」」


 とんでもない声を出す、川奈さん、翔、たっくん。

 膝から崩れ落ちる川奈さんは、「うぅ……お父さんに負けましたぁ……」と嘆きながらスマホを操作している。


 ――川奈ららさんがあなたをフォローしました。


「馬鹿な!? この俺様が出遅れるなんて……!?」


 ――【命謳】鳴神翔【夜露死苦】さんがあなたをフォローしました。


「何故じゃ……何故なんじゃあ……!? 馬淵とかヨッシーって誰なんじゃぁああああ!?」


 ――たっくん(山井拓人)さんがあなたをフォローしました。


 俺は「まぁ、こんな事もあるよな……」と、思いながら、スマホをしまおうとする。

 しかし、最後のフォロワー2人が俺の手を止めた。


 ――番場敦さんがあなたをフォローしました。

 ――【公式】インサニアさんがあなたをフォローしました。


 ……これはきっとアレだ。

 仲良くしたいのかもしれない。

 そう願わざるを得ない俺だった。

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