第249話 ◆女狐の真の狙い

「何ですってっ!?」

「何だってぇ!?」


【大いなる鐘】の【頭目】ロベルト・郷田ごうだに詰め寄る川奈かわなららと四条しじょうなつめ


「ど、どうしたでございまするか……?」


 余りの迫力に、ロベルトも引き気味である。

 すると、ロベルトの前に、鳴神なるがみしょうがやってくる。


「ロベルトぉ? ウチのヘッドがあの女狐に連れられて外に行ったってのはホントーかよ?」

「そ、そうでござるよ? 米原殿は伊達殿の腕を掴み……スキップしてたでござるな?」

「なるほどな……センパイ」

「何じゃ後輩?」

ヘッドからの救援要請は?」

「きとる」


 そう言って山井やまい拓人たくとふところからスマホを取り出し、操作する。


 玖命――――すみません!米原さんに案内頼まれちゃって先に出ます!挨拶出来ず申し訳ありません!何かあれば連絡ください!

 玖命――――何か凄いお店に連れて来られちゃった……

 救命――――玖命さんが名前を変更しました。

 救命――――どうしましょう!?メニューに書いてあるスモークサーモンが9000円するんですけど!?ワインが7万円って書いてあります!?

 たっくん――りょ^^


 それを見た翔が言う。


「……確かに救援要請だな。ヘッドはカード持ってたっけか?」

「まだ発行中じゃな。財布はあのバリバリ財布のみ」

「文章から見てフランス料理か? フランス料理屋でバリバリ財布を出すヘッドも見てみたい気ぃするが……」

「うむ、今の玖命は【命謳】の代表。そんな情けない姿を衆人環視の中に晒す訳にはいかん。がしかし、7万円のワインで驚いてる玖命も面白いのう……ほっほっほっほ」


 ケラケラと笑う山井と翔の間に入るのは、【命謳】の乙女たち。


「山じー、貸しな!」


 まず、四条が山井のスマホを奪うように取る。


 たっくん――おいきゅーめー!四条だ。店の名前わかるか?

 救命――――読めません!!


「絶対フランス語じゃな」


 山井の指摘に、四条が額を抱える。

 すると、川奈が四条に言う。


「写真撮ってもらってください」


 たっくん――内装の写真撮って

 救命――――救命さんが写真を添付しました。


 その写真を見て、翔、山井が噴き出し、川奈と四条の目が据わった。

 写真には、嬉しそうにピースする米原よねはらいつきと、困惑し、眉が下がりまくっている救命の顔半分。


「大きさからしてマグナムボトル。あの女狐、酒のこだわりは強そうじゃな」

「わかんのかよ?」

「マグナムの方がフルボトルより液量が多いからの。ゆっくりと熟成される分、味も変わるらしいのう」


 そんな山井のウンチクをよそに、川奈が検索を始める。

 が、しかし――、


「「っ!?」」


 山井のスマホを四条からすっと取り上げたのは……、


「あれ……? 定時上がり?」


 そう、天才派遣所八王子支部の職員――相田あいだよしみがそこにいたのだ。

 四条の言葉しつもんは、相田には届いていなかった。

 じーーーーーっとスマホを見つめ、四条と川奈と同じく目が据わった後、山井にスマホをポイと投げ返す。


「わっ、とととっ!?」


 相田らしからぬ行動に山井が慌ててスマホをキャッチする。


「あ、あの小娘、あんな覇気纏っとったか?」

「カカカカッ、やべー気迫だな、ありゃ」


 その背中に確信を感じ取った川奈と四条が、相田の後を追い始める。


「あのお店、わかったんですかっ?」

「おい、相田!?」


 そんな2人の言葉に、相田がボソッと呟くように言う。


「八王ホテル54階AuSoleilソレイユ……」

「た、確かにKWN系列のホテルですね、これ!」

「相田……何て頼もしいやつなんだ……!」


 相田、川奈、四条は八王子支部の自動ドアを抜け、八王ホテルへと向かう。

 顔を見合わせる翔と山井。

 そして――、


「ははは、おもしろくなってきたねっ!」


 ニカリと現れるお祭り女――、


「【剣皇】水谷みずたに結莉ゆり……何じゃ、玖命のところに行くのか?」

「え、山井殿も行くでしょう? 鳴神くんも」

「まぁの」

「楽しいそうだしな、カカカカッ!」


 後発組の3人もまた、見物のため歩を進める。

 彼らが自動ドアを抜けた後、その背中を見送った男が5人と、女が1人。


「小林殿、行かれないので?」


 越田が聞く。


「うーん、折角のんびり出来そうですしー……八王子ラーメン食べてから行きますかねー」


 言うと、山王、立華、ロベルトが反応する。


「いいなそれ。立華はこう見えてはラーメン通でな、良い店紹介しろよ」

「山王氏、こう見えては余計ですな」

「八王子ラーメン! 楽しみでござるな!」

「それじゃあ行きますかー」


 小林主導の下、4人が自動ドアを抜けて行く。

 残ったのは越田高幸と……茜真紀。


「真紀はどうするんだ?」

「今晩、帰るの面倒くさくて八王ホテルのスイートとってるのよ」

「何だ、真紀もか」

「代表も?」

「ふっ、それじゃあ行こうか……八王ホテルに」

「あら? 代表とスキャンダルなんて御免よ?」

「何を言う。それはこちらの台詞だよ」


 皮肉を言い合い、2人は苦笑する。

 そして、確認するように茜が言うのだ。


「夕食はフランス料理がいいわね」

「あぁ、八王ホテルの54階におすすめのフランス料理店がある。行った事はないがな」

「あら、ならどうしておすすめだってわかるの?」

「どこかの女狐が、下調べもせず意中の男を誘うはずがないからだよ」

「ふふふ、流石は【元帥】越田高幸……何でもお見通しね」


 そう言い合い、最後の2人が自動ドアを抜けるのだった。

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