第247話 お転婆姫の狙い1

「えーっと、因みにそれはどういった意図があって?」

「ふふふ、何もおかしい事はないでしょう?」

「というと?」

「傘下クランともなれば、【ポット】は【命謳】の庇護下に置かれます。当然、双方合意の下、あらゆる利害関係を考慮した上での話になります」


 確かにその通りだ。


「今回の契約……【ポット】は【命謳】に対して、『【ポット】に危機が迫った際、及び名誉を著しく損なう可能性を含んだ依頼があった際、協力を要請する事が可能』という条項がありますね?」

「そうですね。『【命謳】は、可能な限りこれに対処しなければならない。しかし、【命謳】に危機が迫っている、または自身の家族、財産を損なう可能性がある場合に限り、これを拒否できる』ですね」

「【ポット】の余剰戦力を【命謳】に提供する見返りとも言える。今の世の中ではありふれた傘下クラン契約条項の一つですね」


 米原さんが微笑みながら言う。

 まるで、確認するかのように。


「元々八王子支部で活動してらっしゃる【命謳】が、八王子に事務所オフィスを構えたところで、波風も立たないでしょう。しかし、【ポット】は東京でも新参者。ならば、傘下クランである事を周知する意味も込め、近くに事務所オフィスを構えた方が我々の心的負担も少ない……そう考えるのは自然な事でしょう?」


 確かにその通り。そう言おうとした瞬間、俺と四条さんの目が合う。彼女は自分に発言させて欲しいとアイコンタクトを投げて来たので、俺は一つ頷き、四条さんに発言を委ねた。


「元々【ポット】は日本的、世界的にも有名ですよね? なら、東京のどこに事務所オフィスを構えようが【ポット】の看板に口出すような人たちはいないんじゃないですか?」


 四条さんの意見ももっともだ。

 そもそもこの傘下契約自体が驚きなのに、元々大手のクランの【ポット】に文句言う人なんて探しても中々見つからないだろう。


「四条殿」

「何でしょうか」

「口に出す人間がいる事、いない事が問題ではありません。私たちが心的負担を負う可能性、これこそが重要であると私は考えます」

「むぅ……」


 これには流石の四条さんも文句は言えないだろう。

 何も起こらないから対策をしない……というのは天才としては配慮に欠けた行為。これは、米原さんの正当な主張。

 それがわかるからこそ、四条さんは何も言えない。

 勿論、それは俺も同じだ。

 四条さんは俺を見据え、静かに頷く。


「……問題ないと思います。では、この場で今の条項を加え、サインをもって締結、という事でよろしいですか?」

「結構です」


 その後、四条さんが2つの条項を加えた契約書を2通作成し、レンタルルーム内で【命謳】と【ポット】の傘下クラン契約は成った。

 俺と米原さんとの握手が済んだ後、これまで微笑ましい表情をしていた越田さんが口を開いた。


「さて、ここからは別件、という事でよろしいかな、米原殿?」


 …………急に空気が変わった。

 越田さんの圧力に、四条さんがビクリと肩を動かす程である。


「えぇ、結構です」

「して、何故ここへ私を?」


 鋭い目つきに、小林さんが言う。


「僕、お茶淹れてきますねー」

「あ、私も逃げ――手伝います!」


 ちょっとだけ四条さんの本音が聞こえたが、確かにこの空間から逃げ出したい気持ちはわかる。

 しかし、流石は米原さん。越田さんの圧力を前に微笑み涼し気な表情である。


「ふふふ、越田殿の事です。【命謳】との契約の証人として越田さんを呼んだ事で、ある程度の想像は出来たのではありませんか?」

番場、、の件、でしょう?」


 どうしてそうなった?


「流石は音に聞く【大いなる鐘】代表。その慧眼けいがん恐るべしといったところでしょうか」

「ククク、褒めるじゃありませんか。この程度、伊達殿も気付いていたでしょう」


 全く気付いてませんが?


「まぁ、流石は伊達さん」


 手を合わせ、顔を綻ばせる米原さんに越田さんが言う。


「北の女王は伊達殿にご執心という訳ですか。聞きましたよ? 【NBH、、、】の【ロジャース、、、、、】から声がかかったそうですね?」

「ふふふふ、一体どんな噂を耳にされたのでしょうか。身に覚えがなく、反応に困ってしまいます」


 今、とんでもない名前が出て来たが、気のせいだろうか?

【NBH】――【Naturalナチュラル Bornボーン Huntersハンターズ】……【生まれながらの狩人かりうど】と称したアメリカの巨大クラン。

 SSSトリプルを3人擁し、その代表ドン・ロジャースは【弓士】の第5段階目――【神弓しんきゅう】を持つと言われてる。

 そのロジャースから……米原さんに声がかかった?

 それに、さっき番場がどうとかって……?


「クククク」

「ふふふふ」


 まぁ、今触れられる状況じゃないのは確かだ。

 そんな俺の感情を読み取ったかのように、越田さんは言った。


「まぁ、女王をからかったところで、情報が出てこないのはわかっています。それで、番場をどうしようとなさるおつもりですか?」


 越田さんが聞くと、米原さんが今回越田さんをこの場に呼んだ狙い教えてくれた。


「…………これまでの【インサニア】の行動、目に余るという言葉すら生ぬるい。ついに北海道にまで手を伸ばしてきました」

「北海道にも勧誘や嫌がらせを?」

「これを許しては【ポット】の名に傷がつきます。けれど、【戦神せんじん】となった番場殿に、【ポット】が噛みつくのも愚策。なので――」


 俺は米原さんの話を集中して聞いていた。

 いたが故に……今まで起こらなかった事が起こってしまった。


 ――【討究とうきゅう】を開始します。対象の天恵を得ます。


 ……どうした、お前。

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