第245話 やって来たお転婆姫4

 それだけじゃないってどういう事だ?

 えーっと…………あ。

 ……そう言えば、米原さんは、俺のファンクラブ会員の4番目。

 四条さんの話によると、会員0番が川奈さん、1番がみことで、2番が親父。3番が相田さんなのは嬉しいのだが、米原さんは4番。

 ホームページが出来た事を知らせた相田さんはともかく、知る術がなかった米原さんが何故4番目なのか、はなはだだ疑問である。

【命謳】と良好な関係を結ぶため、米原さんが選んだパフォーマンスの一つとして、俺のファンを公言していると思っていたのだが、越田さんの口ぶりではそうでもないようだ。


「好かれていますね、伊達殿」


 ニヤリともニコリとも表現出来ないような越田さんの笑みが……とても恐ろしい。

 すると、越田さんの視線がレンタルルームの奥へと動いた。

 そこでは、訓練スペースで大盾の構え方を見せる川奈さんと、それに頷き、自身の構えも見せる【天騎士】山王やまおう十郎じゅうろう

 反対に剣を構える【剣皇】水谷みずたに結莉ゆりと、指導するように水谷の足下を指差し何やら指摘しているたっくん。

 そして、特攻服を手に持ち、目を輝かせている【頭目】ロベルト・郷田と、カカカと満更でもなさそうな翔。

 訓練スペースの外では、四条さんが自前のパソコンで【大いなる鐘】のホームページを覗き、左右に座る【賢者】立華たちばな桜花おうかと【大聖女】あかね真紀まきに何やらレクチャーを受けている。


「意外も意外……自由にしていいとは言ったものの、交流を深めるとは」

「かしこまった話ばかりだと大変ですからね」

「山王も川奈殿の立ち回りは褒めていました。今回は気になる部分を伝えているのでしょう。対し、山井殿の剣技には、結莉ゆりも見習う事も多く、聞きたい事があったのでしょうね……鳴神殿とロベルトは……置いといて――」


 あ、やっぱり置いとくんだ。


「【大いなる鐘】の収益に関与している茜と立華には、四条殿も話があった……何とも同盟してて微笑ましいものです」

「ありがとうございます」

「本当であれば、私と伊達殿も矛と盾を交える機会もあればと思っていたのですが……どうやらそうもいかないようで」

「ですね」


 そう言って、俺たち二人はレンタルームの扉に視線を向けた。

 開く扉、微笑み立つ、米原よねはらいつき小林こばやし涼平りょうへい


「お転婆姫のご登場だ……」


 そうボソっと言って立ち上がる越田さんを、俺は見逃さなかった。凄いな、聞こえないとはいえ本人を前にして言ってのけるとは。


「お久しぶりです、伊達き……さん」


 今、伊達きゅんって言おうとしなかったか?

 以前、動画配信の時にも言い間違えてたが、リアルにまで浸食しているとは……うーむ、恐ろしい。

 それに、以前米原さんと話した時は、俺の事は越田さんと同じく「伊達殿」と言ってたはずだ。

 傘下クランとなる決意をした事で距離が縮まったのだろうか。

 米原さんは立ち上がって目礼する越田さんに頭を下げると、真っ直ぐ俺の前まで歩き、胸元からネックストラップを取り出し、俺に向けた。

 そして大きく息を吸い――、


「サインくださいっ!」


 瞬間、越田さんの眼鏡が傾くようにズレ、俺も首を傾げた。

 見れば、ネックストラップの先にはゴテゴテのラメシールで囲われた…………、


「伊達玖命ファンクラブ会員証……? …………え、ナニコレ?」


 俺がそう呟くように言うと、パソコンを操作していた四条さんが「ん?」と、あどけない表情を見せた。

 席を立ち、棒付きキャンディロリポップを小さな口元から放し、米原さんの持つ会員証を覗き込む。


「あぁ、これな」


 思い出したように言う四条さん。


「ファンクラブ会員になると、希望者に有料で会員カードが発行出来るんだよ。10000枚で発注かけると原価は10万円。1枚10円だぞ」


 嬉しそうに原価を語る四条さん。


「発行料金は500円、送料会員持ち。発送作業は業者に委託してるけど、既にプラスになってるぞ」

「あ、うん。この右側の俺の写真は? 寝顔なんだけど?」

「前にみことが『ファンクラブ用の写真撮る』って言ってただろ?」

「そ、そういえば……」


 ――お兄ちゃん、今日ファンクラブ用の写真撮っていい?

 ――え……まぁ、別に構わないけど

 ――それじゃあ後で撮らせてもらうねー

 ――後で?


「いや、結局撮らなかったような?」

「だから玖命が寝た後で撮ったんだよ」


 そう言って、四条さんはスマホを俺に向けた。

 そして、そこから流れる音声に、俺は驚愕したのだ。


『お兄ちゃん、今日ファンクラブ用の写真撮っていい?』

『え……まぁ、別に構わないけど』

『それじゃあ後で撮らせてもらうねー』

『後で?』


 そんな録音音源に、俺は口をパクパクとさせる。


「な?」


 小悪魔的微笑を浮かべる四条さんの持つスマホに、俺は指を差す事しか出来ず……ただポカンと口を開けていた。


「いつ撮るかは言わなかっただろ、みこと

「……あ、いや……た、確かにそうだけど……」

言質げんちはとってるぞ」


 いつぞやの仕返しとばかりに四条さんが言う。

 まさか、みことを味方につけているとは思わなかった。


「やっぱ録音は大事だよな!」


 ニコリと笑う四条さんと、それを聞き噴き出し笑う越田さん。

「サインください」とサインペンを向ける米原さんに、俺は何も言う事が出来ず、ただ自分の寝顔写真付きの会員カードに。自分のサインを書くのだった。

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