第243話 やって来たお転婆姫2

 俺が天才派遣所の八王子支部までやって来ると、そこは異常事態とも言える状況になっていた。

 四条さんが俺に手を振り迎えてくれたはいいが……これは一体どういう事だ?


「やぁ伊達殿」


 まず、爽やかな笑みで俺を迎えたのは【大いなる鐘】の代表――【元帥げんすい越田こしだ高幸たかゆき


「お、来たか伊達!」

「伊達氏、お久しぶりです」


天騎士てんきし山王やまおう十郎じゅうろう、【賢者けんじゃ立華たちばな桜花おうかに続き、


「にんにん! 久しいでござるなぁ、伊達殿!」


頭目とうもく】ロベルト・郷田ごうだ

 それに……、


「や、玖命クン」


剣皇けんおう水谷みずたに結莉ゆりまでいる。

 それ以上に疑問なのが……なぜ翔が【大聖女】あかね真紀まきと睨み合っているのだろうか。

 しかも、皆それを止める様子もない。

 むしろ、面白そうなイベントでも見ているかのようだ。


「えーっと……今、どういう状況ですか?」


 越田さんに聞くと、彼は笑うばかりで教えてくれなかった。


「ククク、見てればわかるさ」


 水谷に目をやるも、彼女はニシシと笑うだけ。

 というか、大体の人がニヤニヤし、二人を見た後、俺を見ている。

 この中で、俺に正解を教えてくれそうな人と言えば……やはり彼女しかいないだろう。


「相田さん……おはようございます」

「伊達くん……えーっと……おはようございます」


 相田さんでさえ、反応が微妙である。


「この状況は?」

「うーん……私の口からはちょっと……」


 そう言った後、相田さんは少しだけ頬を赤らめた。

 何か恥ずかしい事でもあったのだろうか?

 そんな中、俺は翔と目があった。

 すると翔は俺を見た後、茜さんを睨んで言った。


「おうてめぇ! 【命謳ウチ】のヘッドが来ちまったじゃねぇか!? だからさっさとしろって言っただろうがっ!? あぁ!?」


 凄い喧嘩腰である。

 というか、俺が来ちゃいけなかったのだろうか?

 …………それにしても、茜さんの衣装。今日もやたらと凄いな。

 最早もはや、隠してるのか隠してないのかわからない臀部と、背中、胸元なんて露出してる部分の方が多いのではないだろうか? 何とも、目のやり場に困る人だ。


「【命謳ウチ】のヘッドはネットじゃ純命じゅんめいって言われるくらいピュアなんだよ! そんな恰好してくんじゃねぇ! コレ貸してやっから着ろぃ!」

「だから、着るにしても、その特攻服みたいなのは嫌って言ってるの。わかる?」


 何となく、皆が笑ってる理由と、相田さんが恥ずかしがってる理由がわかった気がする。


「俺様の特攻服とっぷくに何の問題があるんだ、ゴラァ!?」

「大ありよ! それに、これは私の服なんだからアンタにとやかく言われる筋合いはないの? 坊やもこのプロポーションを見て、ピュアな部分が成長するんじゃないの? ねぇ?」


 そう言って、茜さんは俺を流し見た。

 色んな部分を強調するようなポーズをとり、周囲の天才を湧き立たせている。

 俺は目を逸らし、隣を見た……が、何故か、隣にはいつの間にか川奈さんが立っていた。


「伊達さん、見ちゃダメです。アレを見て成長する伊達さんとか見たくありません」

「え……あ、はい」


 川奈さんの目が据わっていらっしゃる。

 何となくそれ以上川奈さんを見ている事も出来ず、俺は反対側に視線を流した。

 すると、そこにも何故か、いつの間にか……四条さんが立っていた。


「きゅーめー、ナニとは言わないが、アイツだけは絶対にやめとけよ。わかったな?」

「え……あ、はい」


 四条さんの目は……単純に怖かった。

 アイツだけはやめとけって……どういう意味かわからないけど、それ以上は聞いちゃいけないような気がした。

 仕方ないと思い、俺は完全に目を逸らし、背後を向く。

 すると、そこには何故か、いつの間にか……たっくんがいた。


「玖命……明鏡止水……めいきょうしすいじゃ……ぬぅ!」


 何故たっくんは派遣所で売ってる証拠撮影用のインスタントカメラを構えようとしつつ、止め、構えようとしつつ、震えながら自身を制するかのように止めている。


「くっ、煩悩退散っ!」


 そう言って、ふところにインスタントカメラを戻すも、出て来た手にはインスタントカメラは握られたまま。


「茜真紀……いつかは会ってみたいと思っていたが、まさかこのような魔性の女だったとは……!?」


 会ってみたいと思ってた時点で、かなり茜さんの事を知ってそうなのだが?

 なるほど、たっくんは茜さんのファンという事か。

 まぁ、煩悩とか言ってるから、ファンじゃなくて、ただのスケベ爺さんという可能性も捨てきれないけど。

 …………ま、とりあえず翔を回収しなくちゃ、この場は騒がしいままだ。派遣所に迷惑は掛けられない……という事で、俺は翔の首根っこを掴み、言った。


「すみません茜さん。【命謳ウチ】の翔がご迷惑をお掛けしました。それじゃあ【命謳ウチ】はこの後予定があるので失礼します」


 口早にそう言って、翔を引きる俺。

 予約しているレンタルルームに向かうべく、歩を進めると……何故か後ろから凄い数の足音が聞こえてきた。

 振り返ると、越田さん、水谷、山王さん、立華さん、茜さん、ロベルトさんが止まる。

 ニコニコと笑う彼らと……戸惑いを隠せない俺。

 何故彼らは俺の後をつけて来るのだろうか?

 何故彼らは俺が振り返ると止まるのだろうか?

 そう思い、この場で適切な言葉が出て来なかった俺は……こう言うしかなかった。


「……だるまさんがころんだ……?」

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