第242話 やって来たお転婆姫1

 ◇◆◇ 20X0年9月30日 7:30 ◆◇◆


戦士せんし】、【上級戦士じょうきゅうせんし】、【凶戦士きょうせんし】、【戦王せんおう】……そして【戦神せんじん】。

 過去、【戦士】系の天恵で、第5段階に達した存在はいない。つまり、【インサニア】の番場ばんばあつしは、世界で初めて【戦士】系のいただきに達したと言える。

 番場のニュースは瞬く間に世界を駆け巡り、最近【命謳】一色だったニュースは鳴りを潜め、世間はきたる【天武会】を心待ちにし、大いに賑わっていた。


 ――【姫天】観た?

 ――観たww樹子姫のテンション低すぎてわろたww

 ――番場が苦手なの目に見えてわかったわww

 ――業務で紹介してる感じだったな。

 ――なら紹介しなきゃいいのに

 ――【ポット】の企業案件には、【インサニア】と繋がりのある会社もあるからな。出さないなら出さないで心証が悪くなるんだよ

 ――姫なのに束縛されてるの草

 ――元来、姫は束縛されるものだ

 ――北海道じゃ女王なのに

 ――そういや、その女王がさっき「飛行機に乗った」ってニュースになってたな

 ――旅行?

 ――東京にな

 ――何しに行くんだよ?

 ――忘れたか?【命謳】との傘下クラン契約

 ――番場のニュースで完全に忘れてた

 ――俺の周りも、【インサニア】と【大いなる鐘】の団体戦の話しか出ない

 ――団体戦なら【大いなる鐘】だろ。【元帥】持ちの越田が第1班の天恵底上げしたら、全員第5段階級になる

 ――【インサニア】にも【将校】持ちが入ったらしいぞ。

 ――マ?

 ――【戦神】の番場を【将校】で底上げしたら【大いなる鐘】でも手が付けられないんじゃね?

 ――【大いなる鐘】終了のお知らせ

 ――【命謳】は?

 ――ない

 ――流石にないわ

 ――そもそも奴らは新人クラン部門だろ

 ――新人涙目過ぎて草

 ――団体戦→1位【インサニア】、2位【大いなる鐘】。新人クラン部門→1位【命謳】……個人戦は?

 ――1位【戦神】番場敦、2位【元帥】越田高幸、3位【考究】伊達玖命でどうでしょう?

 ――それしかないわな

 ――そもそも伊達の【考究】って何なん?

 ――噂だと下級天恵を使えるとか何とか?

 ――更に成長したって噂は?

 ――【命謳】のホームページだと、伊達の天恵紹介【考究】のままだな。成長したら更新するだろ?

 ――【天武会】の前には更新しないんじゃね?出来るだけ情報伏せておきたいだろ

 ――そもそも伊達の天恵自体が謎過ぎて、成長した天恵書いたところで、皆わかんねーだろ

 ――月刊Newbieには伊達がインタビューで「俺もよくわかってないんです」って答えてる

 ――何回更新しても棗ちゃんとららちゃんのスリーサイズが表示されないでござる

 ――↑お前のPCバグってるんだろ。ウチはしっかり表示されてる

 ――↑お前は脳がバグってんな

 ――スリーサイズ公開してる天才なんて、俳優やってる【大いなる鐘】のあかね真紀まきくらいだろ

 ――俳優は普通スリーサイズ公開しねーよw

 ――あれは茜だからやってんだよ

 ――あれはあれでぶっ飛んでるからな

 ――スリーサイズの要望を【命謳】に出したら事務員の四条ちゃんがその要望見るんでしょ?

 ――閃いた!

 ――↑通報しました

 ――ガチでやめとけ。

 ――高ランクのクランに喧嘩売った一般人は基本無事で済んだ試しがない

 ――そんなのニュースになってないだろ

 ――ニュースになってないだけだよ

 ――特に【インサニア】は報復が凄いとか

 ――1:テレビで【インサニア】の悪口を言ったコメンテーターが所属してる事務所が事務所ビルごと崩壊→ニュースにはなったけど、モンスターの仕業って事になってた。勿論コメンテーターは廃業。家族もろとも離散したって噂まであった

 ――2:【インサニア】のアカウントに届いた悪口は、基本情報開示→不審者訪問が鉄板の流れ

 ――3:ライブ配信で【インサニア】の事務所オフィス乗り込んだ動画投稿者は、出入り口で失神してた→当然、動画が証拠になって、【インサニア】が何もしてないって事になった。

 ――↑3のやつって結局何やったんだ?

 ――殺気じゃね?

 ――そんなもの現実にあんのかよ

 ――モンスターを前に気を失う人いるよね。あれと同じ?

 ――恐怖のが強そうだけど、ないとも言えない。どっかの天才がインタビューで言ってた。超一流クラスになると、殺気だけで一般人を精神崩壊寸前まで追い込めるとか

 ――そういえば、【週刊仰天】の公式垢……息してなくね?

 ――ららちゃんとその友人写されて、KWNのシャッチョサンがオコだったらしいから……まぁ仕方ないよね

 ――KWNがこれまで【東隠社】に怒らなかったのは、とるに足らない事ばっかだったしな。愛娘相手じゃ訳が違うだろ

 ――宗頼なら笑顔であの会社踏み潰しそう

 ――じゃあ【命謳】も動いたんかな?

 ――目元隠されてた美少女が【命謳】の身内だったらありえる。

 ――他はメンバーだったしな。メンバーだけで飯つついてる写真撮られたところで何の痛手にもならんだろうけど、もう一人の女の子は一般人だろうしな。あんな事されたら俺もキレるわ

 ――【週刊仰天】の公式垢……消えた?

 ――本当だ、消えてる。

 ――昨日まであったのにwwww

 ――我々の知らないところで……何かが起きてる……!?

 ――あ、いっちゃんが東京着いたって呟いてる


 そんなネットのコメントを見て、俺は身体を起こす。


「そんな時間か……」


 時計を見ると、まもなく午前8時。

 俺は身支度をし、家族と共に朝食をとる。

 まだパジャマ姿のみことが俺に聞く。

 制服に着替えてないという事は、どうやら今日は休みらしい。


「あれ、お兄ちゃん。出かけるの?」


 俺の装備を見て、みことが言う。


折衝せっしょう

殺生せっしょう?」


 何て怖い事を言うんだ、この妹は。


「【ポット】の米原さんが八王子に来るんだよ」

「あー、傘下クランの件か!」


 みことは納得し、俺の前にコーヒーを差し出す。


「うん、それじゃ頑張ってきてね」


 そんなみことの笑顔に見送られ、俺は天才派遣所八王子支部へと向かうのだった。

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