第236話 ◆命謳会議2

「で、ヘッドのところには来たのか? かんゆー」

「え、俺のところには来てない……かな?」


 翔の言葉に答える玖命。

 それを聞き、【命謳】のメンバーが笑みを見せる。


「ど、どうしたんですか……?」

「そりゃそうだろうなと思っただけだよ、カカカカッ!」


 翔に続き、四条が補足する。


「きゅーめーは全国的にSSダブルランクのモンスターを倒せるって認知されてるんだから、【インサニア】も手を出しにくいんだよ」

「米原さんに言われたじゃないですか。『【インサニア】のクラン潰しは性質たちが悪い』って」


 川奈が北海道での話を持ち出すと、玖命は思い出すように「あー」と呟いた。


「これまでの皆さんへのアプローチに、性質たちの悪さってありました?」


 続ける川奈に、玖命を首を傾げる。


(……いや? こちらの方が煽ってるような? たっくんへの嫌がらせ以外は普通? むしろまともなんじゃ?)


 そんな玖命の疑問に、山井が答える。


「今や玖命は時の人。下手な刺激は危うい。だからこそ、後輩となっつん、、、、に勧誘を仕掛けた」

「なっつんて四条さんの事ですかね……?」

「左様だが?」

(そんな目を丸くして驚かなくてもいいのでは? 四条さんも気にしてる素振りもないし、そういう事なのだろうか?)


 山井の四条への呼称を気にするも、玖命は考える事を放棄した。


「それじゃあ、【インサニア】が動いたっていうのは……」


 山井が一つ頷く。


「うむ、方針が決まったようだのう。今、【命謳】を叩くのは得策ではない。ならば取り込むべき。番場ばんばは勿論、【インサニア】の人事部もそういう判断なのじゃろ」

「なるほど……」

「とはいえ、油断は出来ぬ。儂のところに来たガキんちょ共はどうやら独断だったようだしの。中には知らぬ顔もあった」

「もしかして……元【はぐれ】?」

「そうでない事を願いたいがのう」


 山井はそう言いながら肩をすくめた。

 しんと静まり返ったリビングの中、翔が話題を変える。


「そういや、ヘッドは、明日、特注の武器が完成すんだろ? 受け取ったら、明日は何すんだ?」

「え? あぁ……実はね、その事で相談があって」


 玖命の『相談』という言葉に、皆耳を傾ける。


ヘッドが相談? 穏やかじゃねーな。こういう時ゃ、やっぱラーメンだろ。難しい相談なら豚骨か? 油そばで気を紛らわせてやるべきか? いやいや、ここは王道の醤油……もしくは塩? チャーシューは必須、味玉も必須、海苔とメンマでごきげんなスペシャルラーメンの完成だぜ、カカカカッ!! ま、ラーメンの後は、夕日をバックにタイマンよ。これでヘッドの悩みもイッパツだぜ!)


(金の相談か? いや、今のきゅーめーはかなりの金持ち。なら何だ? 恋愛か? 恋愛相談なのかっ!? い、一体誰を? まさか私っ? いや、やっぱららか? それとも相田? 水谷って線はないだろう? 月見里やまなし……ない。それじゃあの御剣って女記者? 米原は……遠距離? はっ!? もしかして遠距離恋愛の相談っ!?)


(も、もしかしてこの後、伊達さんが『川奈さんと二人きりにして欲しい』とか言っちゃうんでしょうかっ!? たたた確かに今日は伊達さんの家に行くからオシャレして来ましたけど、心の準備が……で、でも、それはそれで望むところですっ! ど、どうしましょうっ? 緊張して動悸が……! こ、ここは深呼吸ですかね。うん、大丈夫……集中、集中ですっ!)


(う~む、玖命の表情が険しい……これはかなり難しい相談なのでは? ネットの知識なら、造詣ぞうけいが深いのは儂。もしそうならばしっかり指導してやらねば……! 待てよ? 最近、儂のファンが増えた事に対する嫉妬やもしれんぞ? ともなれば、儂の株だだ下がり……? ここは親近感をもって「きゅーちゃん」と呼んで仲を深めるべきか。しかし、儂の威厳が……! くっ、だが……やはり「きゅーちゃん」かっ!?)


 玖命の『相談』という言葉に、皆、食い入るように耳を傾ける。

 直後、皆は目を丸くする。

 これまで感じた事のないような玖命の気迫に、一瞬で呑まれたのだ。


週刊仰天しゅうかんぎょうてんって……本社どこですかね?」

「「っ!?!?」」


 息を呑み、言葉を詰まらせ、額に汗する。


ヘッド……目がマジだぜ。ちぃ…………ありゃ、ラーメンじゃ無理だな)

(きゅ、きゅーめーが……闇堕やみおちしたっ!? 凄い……背中に闇のオーラ背負ってる……!)

(あ、あの記事にはみことさんが写ってました……今日、話題には出るとは思ってましたけど、まさかこんなに怒ってたなんてっ!?)

(きゅーちゃんかっこいいのう。この気迫、あの番場に勝るとも劣らぬ……!)


 皆、玖命のただならぬ気迫に呑まれ、ゴクリと喉を鳴らす。


((怖い……!))


 先程、玖命が皆に向けた感情は、今、皆が玖命に向けている。


「えっとですね……」

「「っ!!」」


 皆、一様いちよう背筋せすじを伸ばす。


「やっぱり皆の迷惑になるような事はダメだと思うんです」

「そ、そうだなヘッド! めーわくはいけねぇな!」


 迷惑と血で繋がっているであろう翔が言い、


「カメラマンに見つかったのは俺の責任なので、そのかたは俺が探し出します」

「きゅーめー! 週刊仰天ギョーテンは【東隠社とういんしゃ】だ! 渋谷に本社があるぞ!」


 かつて、ゴミ箱を破壊した四条は、全てを破壊しそうな玖命に情報を渡し、


「川奈さん、合法的に【東隠社】を追い詰める方法とかないですかね?」

「お、おおお父さんに聞いてみましゅっ!」


 大手キャリア社長の愛娘、川奈は、自身の最高出力を即時提供し、


「山井さん、さっきの隣の部屋にいる人を……何か……落とすやつ、、、、、、、、、、俺にも教えてもらえますか?」

「お、教える……うん、何か……落とすやつ」


 生ける伝説山井拓人に、秘技の提供をあっさり認めさせる。

 皆は改めて理解する。

 クラン【命謳】の代表が、魔王よりも恐ろしい存在だという事に。

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