第235話 命謳会議1

 ◇◆◇ 20X0年9月27日 11:00 ◆◇◆


「えー、忙しい中お集り頂きありがとうございます」


 伊達家のリビングには、川奈さん、四条さん、翔、たっくん、そして俺の五人が集まっている。

 親父は会社、みことは学校に行ってる時間に皆を呼んだのは他でもない。


「命謳会議ですねっ!」


 そんな川奈さんの言葉に、四条さんが便乗する。


「ようやく、まともな話し合いが出来るんじゃね?」


 そもそも命謳会議って川奈さんがToKWトゥーカウで適当に付けた名前だと思ってたんだが、翔もたっくんも――、


「んま、今や注目のマトだかんな、【命謳ウチ】は! カカカカッ!」

「グッズもバカ売れ、ファンクラブの会員もどんどん増えとるぞ? ほっほっほっほ!」


 めちゃくちゃノリノリである。


「えーっとまぁ……じゃあ、もう命謳会議でいいです。それを始めましょう」

「はーい!」

「いえーい」


 まぁ、それは川奈さんと四条さんもなんだけどな。


「まず、翔……」

「ぁん?」

「【インサニア】から、接触があったって言ってただろ? 詳しく教えてくれないか?」

「おー、そうだったそうだった。でも、普通に勧誘だったぜ? 【インサニア】の名刺ちらつかされて、『ウチに来ないか?』ってな具合よ」

「それで、翔はどうしたの?」

「名刺貰って、拳でちりにした――」

「お、おう……」

「――後、『悪ぃ、手が滑っちまった。もう一枚あるか?』って聞いて」

「まだ続きがあるのか……?」

「もう一枚よこしたから」

「よこしたから」

「もっかい手が滑った」


 もう少し上手い言い訳はないものか。

 そう考えるも、いにしえから使われてきた「手が滑った」に勝るワードは、俺の頭からは出て来なかった。


「それを10回くらい繰り返した後」

「10回……」

「『薄いから手が滑んだよ』って言ってな?」


 最早もはや、武勇伝のように語るな、こいつ。


「束で貰って……」

「手が滑ったと?」

「おいおいヘッド! そこは俺様の台詞じゃねーのか!?」

「あ、うん……ごめん」

「どうせ【命謳ウチ】の連中全員に名刺配るつもりだったろうから、出来るだけ消しといてやったぜ」


 そう言ってニカリと笑う翔は、やはりどこかぶっ飛んでるんだなと実感した。やっぱり怖いな、こいつ。


「んま、最後の方は震えてたから、連中には良い薬だろ! カカカカッ!」


 翔がそう締めたところで、四条さんが手を挙げる。


「どうしたの、四条さん?」

「私にもメールきたぞ」

「え、事務員にも!?」


 俺は驚きの余り、大きな声を出してしまった。


「どうせ【魔眼】目当てだろ。ま、今は【天眼てんがん】だけどさ」

「あー、確かに。何てきたの?」

「まぁ丁寧な文で……後は鳴神と一緒だな」

「…………何て返したの?」

「『15歳だからよくわかりません』って返した後、そいつのメールアドレスで色んなサイト登録しといたかな」


 何それ怖い。


「どんなサイトに登録したんです?」


 わくわくしながら聞かないで欲しい、川奈さん。


「消費者金融とか、出会い系とか、色んなメルマガ系? メール頻度高いところばっか選んだから、今頃結構なメールが届いてるんじゃないかな」

「お~……勉強になります!」


 義務教育じゃ教わらない範囲だろうしな。

 がしかし、これではこちらがあおっているともとられかねない。


「あ、あんまり刺激しないようにしてくださいね」

「ん、任せろきゅーめー」


 Vサインを送る四条さんの顔は……やはりどこかしたり顔だった。怖いな……この子。


わしのところにも来たぞい」

「山井さんのところに?」

「まぁ、儂の場合は勧誘じゃなく嫌がらせだったがのう」

「……い、一体どんな……?」

「ホテルのピンポンダッシュ」

「は?」

「今、ビジネスホテルに泊まってるからのう。すぐバレてしまったわ」


 確かに、高いホテル程、セキュリティしっかりしてるイメージだ。

 すると、翔がたっくんに聞いた。


「んで? センパイはどう追っ払ったんだ?」

「基本皆顔見知りだからの。首根っこ捕まえて招いてやったわ」

「カカカカカッ! センパイの剣気と殺気を浴び続けたってか!」

「張り切り過ぎて隣の部屋で体調不良者が出たそうだのう」


 一般の方にまで被害が及んでる……!?


「そ、それは流石にまずいんじゃ……?」

「案ずるな。両隣の客はどちらも【インサニア】のガキんちょだったからのう」


 壁を隔てて天才を追い詰めたのか。

 え、この人も怖い。


「うぅ……私のところには来ませんでした」


 何故ショックを受けているんだ、川奈さん。


「カカカカッ! 行きたくても嬢ちゃんのところまで辿りつけねぇだけだよ」

「ほっほっほっほ、その通り!」


 そんな2人の言葉に、俺は首を傾げた。


「どういう事です?」

「既にKWNの社長に立川の嬢ちゃんの家は知られてっからな。嬢ちゃんが知らない内に、護衛が付いてんだよ」

左様さよう、中々優秀な人材を選んどるからのう」


 どうも2人は川奈さんの護衛について何か知ってるようだ。

 川奈さんもそれが気になるようで、2人をじとっとした目で見ている。


「どうして2人がそんな事まで知ってるんですかぁ?」

「そりゃロンモチ――」

「――儂らが社長に頼まれて護衛を選別したからのう」


 なるほど、そういうカラクリか。


「なーんだ、お父さんが絡んでるなら大丈夫かー」


 ある意味、父親への絶大な信頼なのだが、どうも川奈さんの口ぶりがそうでないように聞こえてしまうのは気のせいだろうか。

 やはり、KWN株式会社という権力はおそろしい。

 でも待てよ?

 ……もしかして【命謳ウチ】って、怖い人しかいないのでは?

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