第234話 ◆【10月号】月刊Newbie

 ◇◆◇ 20X0年9月26日 20:00 ◆◇◆


 ネオン光る新宿の一角。

 知る人ぞ知るバーが存在する。

 一般人でありながら、天才を応援するため天才関連者限定で入店が許される【Bar派遣所】。

 新宿という立地もあり、【大いなる鐘】のメンバーや職員がよく出入りするその店に、一人の女がやって来る。


「お、いらっしゃい」


 ちょびひげの優しそうなマスターが女を出迎える。


「マスター、よしみ来てない?」

「ん~? まだ来てないなぁ? 何、水谷ちゃん、、、、、、待ち合わせ?」

「そう、じゃあシンデレラちょうだい」

「アルコールは?」

「ん~…………なしで」

「かしこまりました。お好きなお席で掛けてお待ちください」


 そうマスターに言われ、【大いなる鐘】第1班アタッカーの【剣皇けんおう水谷みずたに結莉ゆりはカウンターの端の席に座る。

 水谷の目の端に、天才関連の雑誌がいくつか見える。

 そこに目を走らせた事に気付いたマスターが、シェイカーの準備をしながら水谷に言う。


「10月号の月刊Newbieニュービー見たかい?」

「実はまだ見てないんだよね。いつも事務所オフィスに届いたやつ読んでるから。今日は山王さんと立華さんが取り合いしてて読めなかったよ」

「表紙に水谷ちゃんの名前があったよ」

「は? 私?」


 そう言われ、水谷は店内の隅にあるマガジンラックから10月号を手に取る。


「おぉ~……凄いね、この表紙! 玖命クン、完全に帝王って感じじゃない? ……で、この表紙に私の名前?」


 水谷は、自分の名前を探すべく、小首を傾げながら表紙を見る。

 そして、ソレを見つけ、雑誌を持つ手が震え始める。


「【剣皇!水谷『負けちゃった』海老名事件の前日譚!KWNのテスト担当水谷に勝利した伊達の実力に迫る!!】…………ぷっ、あはははははっ! な、何コレ!?」


 大きく笑う水谷に、マスターが言う。


「でも、KWN堂の記者から電話インタビューで確認されたんでしょ?」

「え、そうだね。確かに、負けちゃったって言ったかも。でも、こんなにおかしく書かれるとは思わないじゃない?」

「それが彼らの仕事だからねぇ」

「ふ~ん……ま、そっか」


 そう言って、水谷は自席に戻り、月刊Newbieを読み始める。


「ふふふ、玖命クンたら……背伸びしちゃって。可愛いなぁ」


 そう呟く水谷に、突如声が届く。


「ダメだからね」

「うぇ!?」


 水谷が顔を上げると、そこには天才派遣所の職員――相田あいだよしみが立っていた。


「よ、よしみ……!? い、いつ来たの?」

結莉ゆりが、にへら~って笑ってる時からね」


 むすっとした表情の相田に、水谷が口を覆う。


「そ、そんなにニヤけてた?」

「ダメだからね?」


 確認するような相田の言葉に、水谷が顔を逸らす。


「そ、そういう意味じゃないから、うん」

「ふ~ん……あ、マスター。私もシンデレラください」

「アルコールは?」

「ありで。濃いめでください」


 そんな相田の言葉に、水谷が視線を戻す。


「え、呑むの? ToKWトゥーカウでの話だと、今日は呑まない雰囲気じゃなかった?」

「八王子からここまで来る間に気が変わったの」

「それってどういう……?」

「これよ、これ」


 そう言って、相田は月刊Newbieとは違う雑誌をカウンターに置いたのだ。


「これ【週刊仰天しゅうかんぎょうてん】じゃない? よしみ、こんなゴシップ雑誌買うの?」


週刊仰天しゅうかんぎょうてん】――読者の間では通称【週刊仰天ギョーテン】と呼ばれ、誌名に天を仰ぐと印し、天を天才と意味するよう、天才たちを揶揄した表現を用い発足した、信憑性の低い天才関連のゴシップ雑誌。当然、天才たちからは毛嫌いされている雑誌である。


 天才に寄り添う相田が、そのような雑誌を買う訳がない。

 そう思った水谷が聞く。

 しかし、相田はスマホをカンとカウンターの上に置き、言った。


「見て」


 相田の気迫に圧され、水谷はスマホの中身を見る。


【悲報】我らが純命さん。ハーレムエンジョイ勢だった!


「うわぁ……」


 見るからに見たくない内容。

 水谷は視線を相田に移すも、相田の意思は変わらない様子。

 深い溜め息を吐いた水谷がニュースをスクロールさせる。

 ページ下部には、玖命、川奈、四条が写り、そしてみことが目元に黒い線を引かれて写っている。

 当然これは、昨日、喫茶フォーチュンで撮られたものである。


 ――これ、川奈と四条はいいとして、もう一人の女の子誰?

 ――ギョーテンが目隠ししてるって事は天才じゃない一般人だろ

 ――最初の写真はサングラスとマスクしてるからわかりにくかったけど、食事中だからか途中から外してるな?目元隠れててもわかる。この子超絶美人

 ――なんだよ、伊達ハーレムかよ

 ――純じゃなかったな

 ――鳴神と山井は仲間外れかよw

 ――野郎と爺はいらねーって事か?

 ――流石にそれはない。Newbie見たらわかる。あれは完全にガーディアン

 ――あの表紙はやばかった。ららちゃん超可愛かった。

 ――あのガーターリングはエッチだった

 ――四条もよかったな。俺はサスペンダーになりたい。

 ――それ以上に伊達だろ。越田より悪そうな顔してたぜ?

 ――あれは魔王

 ――同意。魔王

 ――爽やかに『SSS殺して来ます』とか言いそう

 ――結局お前らも鳴神と山井ガン無視かよww

 ――でも、こいつが鳴神と山井の手綱握ってるって未だに信じられないんだけど?

 ――あのニュース観ればわかるだろ。伊達は別格

 ――越田より?

 ――【大いなる鐘】と【命謳】が同盟組んだんだぞ?【ポット】が傘下クランになるって言ってるんだぞ?

 ――越田は伊達を青田買いしたんだろ。クラン創設の間もないこのタイミングなら一番の買い時だしな


 それらのコメントを流し見してから、水谷はホッと息を漏らす。


「……何だ、そこまで悪い事は書かれてないじゃない?」


 そう言うも、相田からの返事はなかった。

 気になった水谷がスマホから相田に視線を戻すと、


「ちょ!?」


 注文したカクテルを一気に飲み干す相田が隣にいた。

 カツンとカウンターにグラスを置き、水谷より早くマスターに一言。


「もう一杯!」

「ちょ、ちょっとよしみ……?」


 心配そうに声を掛ける水谷と、目を潤ませる相田。


「な、何がそんなに悲しいのよ……?」


 聞くと、相田はカウンターに突っ伏しながら言った。


「伊達くん……魔王じゃないもん……!」


 そう言った相田に、乾いた笑いを零す水谷。


「は、ははは…………あっそ……」











 ◇◆◇ 後書き ◆◇◆


 年数が進む事も考慮して、「20XX年」を「20X0年」と表記するようにしました。

 物語が1月を回ったら「20X1年」とします。


 それだけ٩( ᐛ )( ᐖ )۶

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