第230話 ◆尾行2
「装備なし」
「人の目を気にする余り……逆に目立ってる。
「今のお兄ちゃんなら電車より速いでしょ?」
「でも駅に向かう……という事は、天才って事もバレたくない訳か。
「勿論!」
抜かりない二人は見合って頷き、玖命の後を追う。
八王子駅に着き、電車に揺られて数駅。
玖命が下りた先は――、
「立川? ららに会いに来たとか?」
「確認してみたけど、今日は会う予定ないって」
「よし、念のため呼んでおこう」
「ららちゃんを?」
「考えたくはないけど、ららが嘘を吐いてないとも限らない」
「なるほど……うん、来るって」
その後も二人は玖命を追い続け、息を潜め続けた。
「……何やってるんですか、二人とも?」
川奈の言葉に振り返る
しかし、その奥に見えた玖命の姿を見、その全てを悟った。
「あれは……何かありますね」
そう言った川奈の目に、いつもの優しさはなく、モンスターを見据えた天才のような目をしていた。
そんな川奈の獲物を狙うような目にも、
川奈は、一旦その場を離れ、流れるように高級ブランドショップに入り、サングラスを購入。四条から受け取ったマスクを装着した。不審者3号誕生の瞬間である。
「状況は?」
「今、何か探してるみたい」
「店じゃないか? あ、喫茶店に入ったっ」
「あの店に、伊達さんが入ったぁ?」
間の抜けた川奈の声に、二人が小首を傾げる。
そんな二人の反応に気付いた川奈が言う。
「あそこは喫茶フォーチュン。内装がオシャレ
「ひっ!?」
「あのきゅーめーがコーヒーに1300円っ!?」
四条の声が裏返る。
「とにかく、入りましょう。支払いは私がもちます」
「らら様……」
「いや、まぁ、ありがとな……」
四条の言葉はなんとも言えないものだった。
(伊達家の収入も増えてるはずだけど、
店に入り、
「いらっしゃいま……せ?」
店員に案内を受けるも、3人は不審者のような風貌。
店員が困惑するのも無理はなかった。
「3人です」
言いながら、川奈は玖命が座っている席をちらりと見る。
(大丈夫、悟られない足運びは翔さんと山じーさんに習いました。でも、相手は伊達さん……なら――)
「そ、それではご案内致します」
「――あ、すみません。出来れば窓側の席がいいんですけど、よろしいでしょうか?」
「え、はい、ご案内致します」
店員に案内され、席に座る
(ここ、ここが限界です。これ以上は気付かれちゃいます……)
川奈は受け取ったメニュー表をテーブルの端にひろげる。
同時に、3人はその陰に頭を落とす。
「背中向きなのが幸いしました」
「お兄ちゃん、ただ恥ずかしいだけだと思うんだけど?」
「それはあるな。この店、女子かカップルばっかだし。てことは、やっぱり待ち合わせか?」
そんな四条の言葉に、二人は頷いて同じ考えを示す。
玖命は水を飲み、メニューを見ては頭を抱えている。
それは川奈と四条の前でも起こっていた。
「た、高い……!
「あはは……あそこは一応大衆向けの値段設定らしいですからね」
「水出しコーヒー1700円!? ケーキセットで3000円……凄い!」
「ま、普通の女子高生にはあまり縁のない値段だよな」
四条の言葉に、川奈がキョトンとした表情を見せる。
「ららも、きゅーめーや
「わ、私だって、スーパーでケーキが200円で売られてるのを見た時、衝撃だったんですからっ」
「200円のケーキは、伊達家の感覚で言うと高いと思うぞ」
「200円より安いケーキがあるとっ!?」
「いや、結構安いと思うぞ。伊達家じゃ手を出さないってだけの話だ」
「む、難しい世界です……!」
四条と
店内に入って来た人間に反応したのだ。
「いらっしゃいませ」
店員の対応に、緊張を走らせる3人。
(20代、女、サングラス、化粧はきつめ、髪はロングと赤い唇と猫のピアス?)
四条の視線が店に入って来た女の全身を走り、違和感に小首を傾げる。
(結構トレンドを入れつつ、自分の強みがわかってる感じの服装。この人がお兄ちゃんと?)
(身長は160cmくらいでしょうか。すらっとして綺麗な脚。わ、私にはない要素ですぅ……! でも……この人どこかで?)
川奈はスタイルの良い女を前に頭を抱えつつも、どこか引っかかる様子。やはり小首を傾げる。
「待たせたわね」
「いや、ほんと……こんなところとか困りますよ」
しかし、次第に四条の傾げていた首が戻って行く。
玖命に声を掛ける女の肉声を聞き、咄嗟に自身の天恵を発動したのだ。
――天恵【天眼】
「あ」
咄嗟に零れた四条の声。
玖命の前に現れた女、それは――、
――
――生年月日:西暦20XX年1月16日
――身長:165cm・体重:53kg
――天恵:【脚力S】の解析度80%
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