第222話 第3段階1

「川奈さん」


 俺はそう言って、最初に川奈さんの意識をこちらに向けさせた。


「え、は、はいっ!?」

「下がって、翔と山井さんを頼みます」


 それが、一番の選択だったからだ。

 ルシフェルに意識を向ければ、先に奴が動き出してしまう。

 それでは、川奈さんに攻撃が向く。

 今はこの状況を有効活用する方がいい。


「は、はい!」


 さて……それじゃあまずは面倒なやつからクリアしていくか。

 ルシフェルに向き合い、俺は足下に転がる石を拾い上げる。


「っ! ――――!?」


 ルシフェルの言葉はやはり俺には届かない。

 天恵が成長すれば何かわかると思ったが、そんなに事は単純ではないようだ。

 ルシフェルは俺の持つ石を指差し、何か聞いているようだ。

 だが、その表情から、何となくその意味はわかってしまった。


「あぁ、これを何に使うのか気になるのか?」


 ルシフェルにも、俺の言葉は届いてないだろう。

 だが、どうやら意図が伝わった事を驚いているようだ。

 まぁ、こんなのはボディランゲージのようなものだ。


「そりゃ、石があって、目の前にモンスターがいれば……――」

「――っ!?」

「投げるに決まってるだろ!」


 一投、二投と石を投げ、ルシフェルに当てる。

 当然、どんなに速度があろうとも、石の強度ではルシフェルの肉体を貫く事など出来ない。

 しかし、俺にとっては重要だ。

 何故なら、俺にとっては、石を投げて、当てる事さえ出来ればいいのだから。当然、相手がルシフェルというSSSトリプルでなければ成り立たない。

 ルシフェルは戯れ言とでも言いたげな様子で、石を払い、俺に怒りの矛先を向けている。

 だが、まだ俺の攻撃は終わっていない。これまでのふざけた俺の態度が、罠となる。

 最後の石を投げた直後、俺はゴールドクラスの投げナイフを放った。


「っ! ガッ!?」


 それが最後の投げナイフだった。


「お前だって、山井さんをハメたんだから、お互い様だろ?」


 しかし、それが最後なのではなく、それを最後としたのだ。

 投石という攻撃はブラフ。効かない投石を受けさせ、最後に投げたナイフをも石だと思い込ませる。それだけでルシフェルの傷が増えるのだ。やらない手はない。

 ルシフェルの腕を掠り、微かな傷を作った実績は、何よりも代えがたい俺の経験となる。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【サジタリウス】を取得しました。


 なるほど、【スナイパー】の後は射手座サジタリウスが出てきたか。


「じゃあ、次はこっちだな」


 俺は刃毀はこぼれの酷い嵐鷲あらわしを納刀し、川奈さんから借りているショートソードを地面に刺した。


「うぇ!? だ、伊達さん……素手ですかっ!?」


 川奈さんの言葉通り、俺はルシフェルと同じく、翔と同じく無手で構えをとったのだ。


「次は【拳聖コレ】……だな」


 そんな俺の試験的な動きが気に障ったのだろう。ルシフェルはこれまで見せた事もないような憤怒の目をし、俺を睨んだ。

 仕方ない。俺だってこんな事されたら怒るだろう。

 しかし、全てを引き出し、このルシフェルと並び立ち、追い抜くためには……必要な事だ。

 襲い掛かるルシフェルの攻撃をかわし、右に左と拳を入れる。当然ルシフェルもかわすが、上体を反らして左拳をかわした視界には、俺の膝蹴りは入っていないだろう。


「ガッ……!? グブ……」


 脇腹を押さえ、口からこぼれ出る血を吐き捨てるルシフェル。

 万全の状態では勝てない相手。

 川奈さん、翔、たっくんがいたからこそ、今の疲れ切ったルシフェルが俺の目の前にいる。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【拳皇】を取得しました。


 成長が早い。

 むしろ、これまでが遅いと感じるくらいには、天恵の解析度が上がっている。


「さぁ、最後は……」


 俺は再び嵐鷲あらわしを抜き、川奈さんのショートソードを取る。


二刀流コレだろうな」


 刀と剣の両立は非常に難しい。

 だが、ルシフェルとの戦闘で、多くの経験を積む事が出来た。


「アァアアアアアッ!!!!」

「受けるなら……剣」


 ルシフェルの大きな右拳を眼前で受ける。


「ガァ! ガァ! ガァアアアアッ!」

「捌くなら……刀」


 続く左拳の側面に回り、刀で押し流す。

 ただ少し、その軌道に合わせなぞるだけ、、、、、


「ガッ!? グゥウウッ!!」


 刀の斬れ味は剣を凌ぐも、無理な力はソレを曇らせるだけ。


「ルァアアアアアアアアアアアッッ!!」

「荒々しい剣……繊細な刀」


 肉厚な刀身を持つ剣が刀を助け、鋭い刃を持つ刀が剣の幅を広げる。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【二天一流】を取得しました。


 大きく肩を上下させるルシフェル。

 刀で斬られれば、当然反射的にその痛みから回避する。

 その反射かいひを狙い、ショートソードを逃げる右手に突き刺す。

 未だ回避の力が働いている腕に、俺の力を加えれば、刺しながら関節をめる事も可能。


「ギィアアアアアッ!?」


 がら空きの背中に嵐鷲あらわしと、引き抜いたショートソードが決まる。


「山井さんの代わりだよ」


 まぁ、あの人は現代アートを刻むとか言ってたが、交叉した切創せっそうは、ルシフェルに大きな痛みを与えるだろう。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【将校】を取得しました。

 ――天恵【体力A】を取得しました。

 ――天恵【威嚇S】を取得しました。


【討究】を持ち、相手がSSSトリプルランクのモンスターだと、ここまで早く成長するのか。

 まぁ、この3つの天恵は、成長も近かったし納得だ。


「アアッ……――――!」


 膝を突くルシフェルに、俺は言った。


「悪いな、俺は応える事が出来ないんだ」


 そう言って、俺は、最後の構えをとった。

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