第221話 ◆【考究】の先へ2

 玖命は体力が許す限り、刀とショートソードを振り続けた。

 それが自身のためでもあり、川奈を守る唯一の手段だったからだ。

 それでもやはり、ルシフェルとの実力差が埋まるまでには届かない。


「ぐっ!?」

「伊達さんっ!?」


 川奈を庇うあまり、玖命がルシフェルの蹴りを受けてしまう。

 咄嗟に足でガードするも、それは玖命の脛当すねあてを破壊し、追撃によって反対の脛当すねあても吹き飛ぶ。


「くそ、残るはこのプラチナクラスの軽鎧しか――!?」


 肉体的ダメージ以上の心痛の中、玖命は更なる光明を見る。


 ――【考究こうきゅう】の進捗状況。天恵【頑強A】の解析度89%。


 攻撃しながらも気付いてしまう。

 ルシフェルの攻撃が、防具を突き抜け、天恵に経験を積ませている事に。


「やるしか……ないのかっ!?」


 玖命は絶望を表情に宿しながら、自身のプラチナクラスの防具をチラリと見る。


「くそ! なりふり構ってられるか!」

「伊達さんっ!?」


 玖命は気付いていた。

 他の天恵が成長する事で、自分の【探究】が成長し、【考究こうきゅう】が成長していた事に。

 今、一番必要なのは戦闘経験で積み上がる経験よりも、ダメージを受ける事で得られる【頑強A】の成長。

 正に、自分の命を懸けるかの如き決断。

 玖命は、生きるため、川奈を守るため、その決断をする他なかった。

 ルシフェルの連撃を、玖命の意地の気迫で受けつつ、どうしても反応出来ない攻撃を川奈に回す。

 そんな中、玖命は叫んだ。


「それじゃない!」

「えっ!?」

「これでも……ない!」


 川奈は玖命の言葉に疑問を持つも、以降ただ口をつぐみ、ただ正面からやってくる恐怖と対峙した。


(伊達さんがおかしなのはいつもの事です……!)


 そう諦め、信頼し、託す。

 玖命は何度も攻撃を受け、捌き、いなし……ソレが来るのを待った。

 玖命はルシフェルを誘っていた。どんな攻撃が来ようとも、受け切る。そんな中、自身の胸元にだけ、意識を薄れさせた。

 ルシフェルの攻撃は、かすっただけでゴールドクラスの手甲てこう脛当すねあてを塵と化し、川奈の大盾をもボコボコに歪ませた。

 玖命は、ルシフェルの攻撃をまともに受ける事は出来ない。

 何故なら、一歩違えればその命に届き得るからである。

 上手く扱おうとも、既にプラチナクラスの嵐鷲あらわしには大きな刃毀れが見える。

 まともに受けては死んでしまう。


(なら……胸元ココしかないだろっ!)


 玖命はルシフェルに餌を撒いた。

 そのルシフェルが、玖命の薄れた意識に気付き、ニヤリと笑う。

 それこそが、玖命最大の罠であり絶望。


「ルァアアアアッッ!!」


 右拳を川奈が受け、左拳を玖命が受け流す。

 そして、ルシフェル最後の右回し蹴りは……そう、玖命の胸元へ向かう。


「それを待ってたんだよ……!」


 ルシフェルの左拳を払い終えた玖命は、その後の回し蹴りを確認すると同時、ルシフェルの動きに合わせるように身体を捻った。

 プラチナクラスの軽鎧けいがいといえども、直撃すれば玖命も危うい。

 それを悟っていた玖命は、ルシフェルの攻撃に背を向け、尚且つ、迎え入れるように……攻撃したのだ。


鉄山靠てつざんこう……!」


 そう、玖命は背中への一撃を、背中での一撃に変え、ルシフェルの攻撃力を迎え撃ったのだ。

 本来、鉄山靠は相手の懐に入り込む際、肩や胸部など体で相手の体勢を崩す事に有効とされる。しかし、玖命は敢えてそれを攻撃技として使い、ルシフェルの攻撃を背中に迎え入れ、背中で撃った。

 プラチナクラスの軽鎧は破壊され、ルシフェルの苦々しい顔が、その鈍痛を表している。


「くっ!?」


 当然、玖命にもそのダメージが入る。

 だが、玖命はそのダメージが欲しかったのだ。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【頑強S】を取得しました。


「……ったく、難儀な天恵だよ!」


 直後、玖命の身体に変化が起きる。


 ――【考究】の進捗情報。天恵【考究】の解析度100%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【討究とうきゅう】を取得しました。


「ははは……名前からして成長した感じがしないな……」


 呆れ、笑いながらも――、


 ――現在の進捗速度は【探究】の600%が限界です。

 ――開始しますか?


「決まってる……やれ」


 ――了承。


(【探究】の6倍……つまり【考究】の2倍。だが、本当にこれだけか……?)


 そんな玖命の心を見透かしたかのように、メッセージウィンドウは更に流れる。


 ――確認。

 ――現在、他の天恵との同期率が60%です。

 ――最大80%まで出力可能です。

 ――開始しますか?


 その文字が流れた時、玖命の口の端が自然と上がる。


「当然だ……やれ!」


 ――了承。

 ――天恵【討究】を開始します。

 ――【討究】の進捗状況。天恵【剣皇】の解析度35%。天恵【二刀流】の解析度44%。天恵【天騎士】の解析度21%。天恵【将軍】の解析度17%。天恵【戦王】の解析度4%。天恵【士官】の解析度85%。天恵【スナイパー】の解析度89%。天恵【賢者】の解析度8%。天恵【大聖者】の解析度20%。天恵【拳聖】の解析度88%。天恵【頭目】の解析度3%。天恵【腕力S】の解析度2%。天恵【頑強S】の解析度0%。天恵【威嚇A】の解析度87%。天恵【脚力S】の解析度31%。天恵【魔力A】の解析度19%。天恵【体力B】の解析度90%。天恵【再生力B】の解析度26%。天恵【一意専心】の解析度8%。天恵【真眼】の解析度8%。天恵【天眼】の解析度34%。


「…………なるほど、同期率ね」


 そう言いながら、玖命は緩やかに歩を進める。


「道理でしっくりこないはずだよ……」


 ポカンとする川奈を横切り、異質な存在を目にし、震えるルシフェルの前に立つ。


「でも」


 玖命は、全ての痛みを消し去り、全ての不安を消し去り、天使長ルシフェルを前に言い放つ。


「ここからは……俺の番だ……!」

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