第220話 ◆【考究】の先へ1

「オォオオオオオオオオオッ!!」


 山井を救った翔が吼えながら駆ける。

 その速度は玖命から見ても、そう速くはなかった。


(やっぱり身体にキてるな。このまま突っ込めば絶命は必至。だが、今の状態で翔を止める術なんて……あ)


 玖命の視線の先には、川奈がいた。


「翔さん、ジャンプッ!」

「ラァアアッ!!」


 川奈の指示に従い、翔が跳ぶ。

 その前方を陣取り、川奈が再び大盾を振る。


「シールドバッシュッ!!」


 そう、川奈は翔を止めるのではなく、加速させたのだ。


「最後ですからね!!」

「まかへほ!!」


 翔は川奈の大盾を足場にし、今日一番の速度でルシフェルに向かって跳んだ。

 これを待ち構えるルシフェルだったが――、


「させるかよっ!」


 玖命がルシフェルの視界に入り、その攻撃を妨害する。


「アイスニードルッ!」


 正面に現れた無数の氷の針。ルシフェルはこれを嫌がるように払い、眼前に迫る玖命と翔を見る。

 翔は満身創痍ながら最後の攻撃。対し、玖命はまだ余力を残している。

 ここで、誰を叩くかなどルシフェルには一目瞭然だった。

 そう、ここは玖命を叩くのが正解。

 川奈のシールドバッシュが加わったとしても、この翔の一撃は玖命に劣る。

 ならば、ルシフェルは一番の脅威である玖命の攻撃を捌くのが正解なのだ。だからこそ、ルシフェルは玖命を狙った。

 しかし、そこには先程山井に見せたようなルシフェルの如き笑みを浮かべた玖命がいたのだ。

 玖命は全ての動きを防御に集中させた。何故なら、その時既に翔への援護は終わっていたのだから。

 翔の拳に宿る雷撃。それが援護であり、それが全てだった。

 玖命は翔の拳に、翔へのダメージ覚悟で魔法を宿した。


 ――玖命なら何かしでかすはず。

 ――翔なら何も言わず受け取ってくれるはず。


 そんな二人の信頼が生んだ、今一番の攻撃。

 ルシフェルの攻撃は玖命に完全に防がれ――


「オォオオオオオオオオオオ――――」


 ――翔の拳は確実にルシフェルの左頬を撃ち抜いた。


「――――ルァアアアアアアッッッ!!!!!!」


 ルシフェルへの確かなダメージ。

 だが、それだけでルシフェルの全てを削り取れる訳ではない。

 怒りに満ちた顔のルシフェルは、全ての威を拳に込めていた翔を蹴り飛ばしたのだ。

 城の瓦礫に埋まった翔は、ぐったりしながら気を失ってしまうも、なか指だけは立てていた。


「ナイスだ、翔。よくやった」


 玖命のねぎらい言葉も、翔には届いていないだろう。


「ナイスです、川奈さん」

「は、はいっ!」


 アタッカーは二人削れ、残る【命謳】のメンバーは玖命と川奈のみ。

 だからこそなのだろう。玖命は吹っ切れた表情で川奈に言った。


「川奈さん、それ、借りていいですか?」


 玖命が指差した先にあったのは、川奈のショートソード。

 たったそれだけで川奈は玖命が言わんとしている事を理解した。


「はい!」


 ショートソードを渡し、川奈は大盾をドンと構える。


「攻撃は俺……防御は川奈さんです……!」

「わ、わっかりましたっ!」


 ふんすと鼻息荒く、川奈は叫ぶように返事をした。

 役割を完全に分ける事だけが、二人が生き残る道。

 玖命はそれを示し、川奈もそれに乗った。


「アァアアアアアッ!!!!」


 ルシフェルが迫る中、玖命と川奈は一瞬だけ視線を交わした。

 それだけが二人の合図だった。


「やぁああああっ!!」


 最初に駆けたのは川奈。

 今まで待ち一辺倒だった川奈が駆けた事で、ルシフェルが目を見開く。

 奇襲のようでそうではない。川奈はルシフェルの突進からだをボコボコの大盾で受けたのだ。

 これにより、ルシフェルは減速。

 大盾を引き、川奈の頭部をルシフェルが狙うも、


「俺を忘れるなよ……!」


 玖命の刀とショートソードがルシフェルを狙う。

 最初の時と同様、上体を反らす事でこれをかわしたものの、ルシフェルに当初のような体力は残っていない。

 反撃すら出来ずにルシフェルは後退を選ぶも、既にそこには川奈が迫っている。


「はぁああああああっ!! むんっ!!」


 まるで、大盾を使った体当たり。

 しかし、それが川奈を生きながらえさせた。

 助走が無ければ勢いはない。ならばと、完全にルシフェルに密着するという川奈の作戦は、玖命も感心する程だった。


(凄いな、川奈さん。完全に【騎士】の立ち回りを理解している。SSSトリプル相手に物怖じしないDランク……ははは、本当に凄い……!)


 川奈がルシフェルに接近出来るのは一瞬のみ。

 ルシフェルが攻勢に回れば、川奈は一瞬にして吹き飛ばされてしまう。

 だから、玖命もまた川奈のすぐ傍で戦う他ない。

 その完全な密着型の戦闘が、経戦を持続させる唯一の方法だった。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【戦王】を取得しました。

 ――【考究】の進捗情報。天恵【考究】の解析度34%。


「よしっ!」


 天恵【凶戦士】が成長し、【戦王】へ。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【二刀流】を取得しました。

 ――【考究】の進捗情報。天恵【考究】の解析度56%。


 天恵【ダブルチョッパー】が成長し、【二刀流】へ。


「まだまだっ!!」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【腕力S】を取得しました。

 ――【考究】の進捗情報。天恵【考究】の解析度70%。


「ハァアアアアアアッ!!」


 ルシフェルの全ての攻撃を川奈が受け、玖命は全ての攻撃を担当。長くはもたないだろうと思っていた川奈だったが、その異変にいち早く気付く。


(ルシフェルの攻撃頻度が……下がってます!?)


 そう、玖命の天恵が成長すればする程、玖命とルシフェルの戦力差は縮まる。実力が拮抗すれば、川奈に向かうはずのルシフェルの攻撃も、玖命の攻撃によって事前に防がれるのは、自明の理と言えた。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【頭目】を取得しました。


 天恵【上忍】が成長し、【頭目】となるも、玖命とルシフェルには未だ開きがあった。


 ――【考究】の進捗情報。天恵【考究】の解析度85%。


「まだ……まだ足りない……!」

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