第218話 絶大なるSSS2

 天使長ルシフェル? 天使長はミカエルじゃ……いや、ルシフェルはミカエルの兄。

 確か……ルシフェルは咎を背負い、堕天使となり、やがて地獄でサタンと呼ばれるようになったとか聞いた事がある。

 つまりコイツは、サタンが堕ちる前の――真の姿という事か。


「戦闘準備……!」


 そう言って、川奈さんが大盾を構えた瞬間だった。


「ぃっ!?」


 その一撃は、音より早く俺たちに危機を知らせた。

 川奈さんのトレードマーク――ミスリルクラスの大盾が、へこんだ。

 川奈さんはふわりと浮かび、顔を歪ませる。

 だが、目に宿るその意志は挫かれていない。


「オラァアッ!!」


 翔の右拳がルシフェルの腹部に、


「カァアアアッ!!」


 たっくんの双剣が首を狙う。

 ルシフェルは翔の拳を掴んで受け、上体を反らしてたっくんの攻撃をかわした。

 上体を反らしながら、翔の顎先にルシフェルの足が向かう。

 だが――、


「チェリャァアアッ!!」


 翔はそれを額で受ける。

 後方まで跳んだルシフェルを追い、たっくんが仕掛ける。

 俺はそれに合わせ、たっくんに炎の魔法剣を宿す。


「ぬんっ!」


 たっくんの荒々しくも美麗な連撃も、ルシフェルが難なくかわしてしまう。


「こっちですっ!」


 ここで、川奈さんが回復。ヘイト集めこそ届かないが、それに応じた能力低下が見込める。

 それに合わせ、今度は川奈さんにパワーアップの魔法を発動。

 翔が追撃する中、俺は三本の投げナイフを飛ばし、奴の動きを制限した。


「どぅらっ!!」

「カァッ!!」


 再び翔とたっくんの連撃。ルシフェルは攻撃をいなし、かわしながらも、こちらへの警戒は緩めていない。


「ハッ!」


 俺は川奈さんと同じく【天騎士】のヘイト集めを発動するも、やはり届かない。それでも意味がある。

 続き、俺はルシフェルにパワーダウンの魔法を発動した。

【大聖者】が出来るのは、【パワーアップ】と【パワーダウン】――この二つのみ。

 なら、次に俺が出来る事は――!


「ボルトガトリング……!」


 魔法での援護。

 俺の意図を読み取ってか、翔とたっくんはすぐに散開した。

 正面からいかずちの連弾を受けるルシフェルの顔が……ほんの少しだけ歪む。

 いや、歪んだというより嫌がった程度……?

 やはり、この程度の攻撃力では奴の防御力を貫けない。


「カカカカッ! 強ぇな! 流石はSSSトリプル!」

「落ちる木の葉を斬るより厄介じゃな……何とも遠いいただきよ」


 一旦後退したものの、二人は俺の魔法の切れ目を狙い、再び動いた。


「ドラララララッッ!!」

「キィアアアアアッ!!」


 二人のギアが更に上がる。

 俺の天恵【士官】により、3人の実力が底上げされているものの、それでもルシフェルには届かない。

 攻撃こそ最大の防御。こちらの攻撃が止まれば、ルシフェルの攻撃が始まる。ミスリルクラスの大盾をへこませる程の威力……とてもじゃないが、この嵐鷲あらわしで受ける訳にはいかない。


「―――、―――?」


 何だ……今のは? 声?

 いや、誰も声など発していない。

 それに、川奈さんも、翔も、たっくんも……今の音のような声に気付いていない。


「――? ――――――――?」


【命謳】の仲間以外で、こんな事をするとしたら……奴しかいない。

 やはり、ルシフェルが俺を見ている。奴が俺に話しかけている?

 人型とは言え、ポータル内にいるモンスター。

 過去、どんなに人に近い個体であったとしても、コミュニケーションがとれる事はなかった。

 人道的に対話をすべきと訴えた団体は、ことごとくモンスターの餌となった。

 なら……これは一体?


「「っ!?」」


 直後、ルシフェルは翼で身体を守りながら突進を仕掛けた。

 翔とたっくんはこれに弾き飛ばされ、川奈さんもまた巻き込まれてしまった。

 俺の正面にやって来たルシフェルは翼を広げ、俺に右手を差し伸べた。


「――――!」


 その右手が何を意味しているのかはわからなかった。

 しかし、その時その瞬間は、ルシフェルの敵意は感じられなかった。

 だが――、


「――? ――――!」


 不服そうな顔をしたルシフェルは、その手を戻し、同時に左拳を突きだしたのだ。


「クッ!?」


 俺は咄嗟に腕を交叉してそれを受けるも――、


「俺のゴールドクラスの手甲てこうがっ!?」


 左腕の骨折よりも、俺は99万円の損失を嘆き、同時に、そんな無慈悲なルシフェルを睨んだ。

 後方に宙返り、着地と同時に駆け出す。

【再生力B】と回復魔法により、左腕の回復を試みつつ、右手で嵐鷲あらわしを振るう。


「ハッ!」


 右に払うように斬るもルシフェルは後退してこれをかわす。

 だが――、


「川奈さん!」

「はいっ!」


 ルシフェルの背後から川奈さんが大盾を突き出す。


「シールドバッシュッ!!」


 ルシフェルは大盾で背中を弾かれ、後退した身体を押し戻される。

 そこには……俺の上段が待っていた。


「ハァアアアッ!!」


 真っ直ぐ振り落とし、ルシフェルの右腕を斬る。

 しかし、やはり片腕だけでは斬り落とすまでには至らなかった。

 右腕を深く斬りつけたものの、大ダメージとはいかない。


「ゥゥ……アッ!!」


 ルシフェルは目に怒りを宿し、翼を大きく開いた。


「くっ!?」

「きゃっ!?」


 その風圧が俺と川奈さんを吹き飛ばすも、その大きな隙を逃す程、【命謳ウチ】のアタッカーはヤワじゃない。


「オラァアアアアアアッ!!」

「翼一枚……頂きじゃい!!」


 翔の拳がルシフェルの翼を撃ち抜き、たっくんの斬撃が反対の翼を刈り取る。

 12枚が10枚に減り、純白の翼が血に塗れる。


「ウルァアアアアアアアッ!?!?」


 顔を歪ませる程のルシフェルの憤怒も、


「あと……」

「……10枚じゃ」


 ウチのバトルジャンキーたちには届かない。

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