第214話 ◆神奈川の救援要請3

 海老名市と厚木市を隔てる相模川。

 海老名市の相模川沿いにある公園には、野球場や陸上競技場が置かれ、川の対面の厚木市にあるビル屋上から、そこが一望できる。

 厚木市にあるKWN子会社のビルを利用し、御剣と堀田が公園を見る。


「堀田、角度は!?」

「バッチリです! 魔石コーティングされたレンズ越しなら、1000m級の撮影も最高画質で見られますよ!」

「その映像、私のタブレットにも同期して」

「了解!」


 川を隔て、公園までの距離はおよそ600m。

 堀田がカメラを構え、ズーム機能を使い焦点を合わせる。

 御剣がタブレットの同期を確認すると同時、その光景に息を呑む。

 カメラ越し、画面越しに戦う【命謳】の姿は、先程まで柔らかな空気を出していた玖命の顔つきは、御剣が知るものではなかったのだ。


「シールドバッシュ!」


 川奈の大盾がBランクモンスター、グレーターデーモンを弾く。

 打ちあがったグレーターデーモンを跳び上がった翔が叩き落とし、山井が切り刻む。

 玖命は川奈の上部と背後を守り、迫るモンスターの波を掻き分けるように刀を振るう。


 ――【考究こうきゅう】を開始します。


(グレーターデーモンの天恵は【魔力C】、これなら、長らく止まってた【魔力B】がすぐ成長してくれるはず)


 積み上がるモンスターの死体に堀田、御剣が絶句する。


「こ、これ中継接続出来たわよね……!?」

「で、出来ますけどデスクから許可貰ってないっすよ!?」

「大丈夫よ、始末書なら書いてるから! さっさと映像回して! 向こうも映像コレ見たら流さざるを得ないわよ!」

ほとけさんどうするんですかっ!?」

「そんなの、タイムラグ作って編集モザイク入れてもらうわよ!」

「かぁ~……こりゃ向こうも戦場だな……!」


 すぐに堀田が動き、御剣は映像に映る玖命を凝視する。


「凄い……山井さんにも遅れてないどころか、逆に指示まで飛ばしてる……完全に【命謳】のリーダーじゃない……! それに……誰よ、川奈ららが親のコネ使って周り固めてるだけって言ったのは……【騎士】としての存在感バリバリじゃないっ!」


 玖命の活躍、それに劣らぬ川奈の存在感に、御剣は目をたぎらせる。

 そんな中、映像の中の玖命が何かに気付く。


「前方200! 上空注意っ!」


 その指示に、川奈、翔、山井の意識が移る。


「あ、ありゃ何だっ!?」


 翔が驚きを見せ、川奈が息を呑む。

 数十のグレーターデーモンを引き連れ、その数倍の体躯をした巨大な翼を持ったひと際大きな存在。


「うーむ……あれは……」

「おい、何だってんだよ、センパイッ!?」

「始まりの悪魔――【サタン】じゃないかのう……?」


 少々自信のない山井の発言が、一層玖命を警戒させた。

 そして、すぐに判断を下したのだ。


「川奈さん!」

「は、はいぃ!」

「3人で一般人を死守! 奴は俺がやります! たっくんの話が本当なら、おそらくSSダブル相当のモンスターです!」

「りょ、了解しましたぁ!」

「翔、たっくん!」

「おう!」

「任せるんじゃ!」


 川奈に指揮を、二人にサポートを依頼した玖命が、【命謳】という強固な盾から離れ、一本の槍となる。

 玖命は、過去の事例から理解していた。

 SSダブル相当の実力者と対峙したSSダブルを冠するモンスターは脅威ではない。

 しかし、SSダブルのモンスターが広範囲に渡って攻撃するのであれば、その被害が甚大になるという事を。

 だから玖命は真っ先に駆け、早急な対応を心掛けたのだ。


「ガァアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 大地を揺るがすサタンの咆哮。

 これを受け、避難民たちには失神する者まで現れた。

 そして、それは先に駆けつけていた天才ですらも影響を受けていた。

 ガチガチを歯が鳴り、正面のグレーターデーモンに集中すら出来ない状況。

 そんな状況下、玖命は前方に飛び回るグレーターデーモン3体に向かって、魔法を放つ。


「ファイアランス……!」


 かわす個体、翼に穴が空く個体、不意をかれ撃沈する個体。

 玖命はすぐに跳び上がり、ファイアランスをかわした個体の隙を衝いた。首を刈り、墜落するグレーターデーモンを足場とし、翼に穴が空いた個体にとどめを刺す。

 それをグレーターデーモンたちを束ねるサタンの前で、公開するように実演したのだ。

 サタンの狙いが玖命に定まるのは必然と言えた。

 だが、サタンは気付いていた。

 遠くからベッタリと張り付くような視線がある事に。

 そう、その視線が捉えた先は――、


「うっそ……あの子、大型モンスターの視線釘付けにしちゃったわよっ!?」


 画面に釘付けの御剣みつるぎ麻衣まいと、


「避難民への範囲攻撃を防ぐためっすね! 戦闘経験というか戦闘勘がズバ抜けてますね……っ!?」


 撮影に集中するカメラマン堀田――が、顔を強張らせる。

 それに気付いた御剣が聞く。


「堀田くん、どうしたの!?」

「まずいまずいまずいまずいっ!」


 直後、御剣も気付く。

 画面の中にいるサタンが、カメラのレンズを正確に捉えていた事を。


「くっ、こっちだっ!」


 玖命もそれに気付き、咄嗟に【天騎士】のヘイト集めを発動するも――、


「ガァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」


 SSダブルモンスターであるサタンには完全に届かなかった。

 直後、サタンは巨大な翼を羽ばたかせ、玖命はきびすを返し川奈に向かってかけた。


「川奈さん! シールドバッシュッ!!」


 そう言って玖命は川奈の大盾に跳び乗り、


「はいっ!」


 川奈のシールドバッシュに合わせて跳躍したのだった。


「こ、こっち来るわよ!?」

「んな事わかってますよっ!?」


 眼前に迫るサタンに驚愕する御剣と堀田。

 直後、御剣たちが立っていた足場は消え、一瞬にして厚木のビルが倒壊したのだった。

 目を瞑り、自身の絶命を悟った二人だったが、間一髪でそれは防がれた。

 御剣はいつの間にか玖命の首に手を回し、堀田もまた衣服ごと玖命に掴まれ、近くの建物の屋上までやって来ていた。


「まったく……邪魔はしないって話じゃありませんでした?」


 そんな玖命の悪態も、


「はぃ…………ごめんなさぃ…………」


 ボーっとし、頬を赤らめる御剣には、届かなったのだ。

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