第213話 ◆神奈川の救援要請2
玖命は海老名に向かって駆けながら、四条と通話をしていた。
『――という訳で、相模川沿いのデカイ公園に多くの人が避難してるみたい!』
「わかった! 被害状況は!?」
『駅と、近くにある大型施設が倒壊! 現地の天才じゃ避難が精一杯だって!』
「大型施設が倒壊!?」
『あぁ、気を付けろよきゅーめー!
それを聞いた玖命の額に冷や汗が流れる。
(モンスターパレードではボスが外に出て来る事はない。なのに駅や大型施設が倒壊したとなれば、ランクA……いや、ランクSのモンスターが外に出ている可能性もある。だとすれば、ボスは確実に
隣を駆ける翔と山井がその表情から全てを察する。
「どうやら強敵揃いみてーだな! センパイッ!」
「警戒厳じゃな! ららちん、気を抜くでないぞ!」
「はいっ! あ、見えましたっ! 相模川です!」
川奈が指差す方向にはようやく相模川が見えた。
「よし!
「「おう!」」
玖命の号令により一同の速度が上がる。
海老名まで残り8km程。
【命謳】が急ぐも、被害は刻一刻と広がっている。
◇◆◇ ◆◇◆
海老名の大型商業施設が廃墟となっている。
無数のモンスターの中に大きな翼を持ったモンスターが何体もいた。
Bランクのモンスター【グレーターデーモン】。
かつて、立川で玖命がサハギンを相手していた中、山井拓人含む2人がダンジョンに入り、ダンジョンボスであるグレーターデーモンを倒した事があった。
しかし、今回はそのグレーターデーモンが群れを成している。
遺体は奴らに踏み散らかされ、辺りは血と肉と瓦礫で埋まっていた。
近隣の人間は逃げる事しか出来ず、交通網は成り立たず、乗り捨てられた車と、脱輪した電車。
玖命が海老名に入ると同時、避難先である公園に向かっている中、先程まで玖命たちを取材していた御剣と堀田が海老名の惨状を見下ろす。
「うわぁ……海老名が……」
堀田の言葉に、御剣も言葉に詰まる。
ここは、海老名を遠目に視認出来る場所。
そう、空の上。御剣はヘリコプターから海老名を見下ろし、その動向を探っているのだ。
「でも、よくすぐにヘリなんて用意出来ましたね?」
「そこはKWNの子会社って特権を使っただけよ。このご時世、大抵のKWNのビルにはヘリを用意してるしね。八王子にあるKWN関連の会社を片っ端から当たればすぐよすぐ」
「【命謳】に癒着だどうのって言えないんじゃ……?」
「筋は通してるし正規の手順も踏んでるんだから、細かい事言わないの」
「はいはい……」
「『はい』は一回」
「は、はい! で、でも、翼持ちのモンスターもいるって聞きますし、大丈夫なんでしょうか?」
「飛行モンスターの最高速は200kmがせいぜい。最近のヘリは300kmは余裕で出せるんだし、捕まる訳ないでしょ。こんなの常識だし、それにほら、見てみなさい」
御剣の視線の先には、数機のヘリコプターが見える。
「うわぁ、地元のメディアも動き出してますね……あ、いや?」
堀田の言葉に、御剣も小首を傾げる。
「ヘリがどんどん離れてます!」
「嘘、どうして!?」
慌てる御剣に、ヘリのパイロットが言う。
「派遣所から緊急速報だ! Sランク以上の飛行モンスターの可能性有り! 我々も避難するぞ!」
「ちょっと、嘘でしょ!?」
「み、御剣さん、ど、どういう事っすか!?」
「さ、さっきの時速200kmってのはAランクまでのモンスターの話。Sランクがダンジョンの外にいるとなると話は別よ! 行ってちょうだい!」
「言われなくてもっ!」
ヘリコプターが緊急旋回をする中、遠ざかる海老名に悔しそうな表情を見せる御剣。
しかし、彼女のジャーナリスト魂が、それを許さなかった。
「そ、そうだっ!
「あぁ!? 出来なくはないが、どうするつもりだ!?」
パイロットの質問に、御剣が答える。
「避難先の公園よ! そこに【命謳】も着いてるはず!」
「相模川の奥だぞ! 海老名側には降りられないからな!」
「上等よ!」
そんな御剣の気迫に、堀田が顔を強張らせる。
「ちょ、御剣さん!? 本気ですかぁ!?」
そんな堀田の嘆きは御剣の耳には入るも、反応はしてもらえなかったのだった。
◇◆◇ 9月18日15:20 ◆◇◆
海老名に到着したクラン【命謳】は、その凄惨な場に息を呑んだ。
「…………っ!」
川奈が顔を歪めるのも無理はない。
公園で密集した避難民たちは、野球場の中央で少数の天才に守られながら、家族の肩を抱えていた。
玖命の視線の先には、倒れた天才と、一般人の遺体。
今も尚、グレーターデーモンが一般人を
真っ先に野球場に到着したのは――、
「嬢ちゃん!」
「ららちん、行くぞいっ!」
「はいっ!」
ミスリルクラスの大盾と共に投げられた……川奈らら。
「集合っ!!」
【天騎士】のヘイト集めが発動し、周囲のグレーターデーモンたちが、ギロリと川奈を睨む。
「こっちですっ!」
モンスターの意識を自分に向ける中、川奈の隣には翔、山井が追いつき、その背には【命謳】の代表――伊達玖命の姿があった。
「これ以上、被害を拡げさせるな」
その玖命の言葉に、
「シャアアアッ! 気合い入れっぞ!!」
翔が自身の頬を叩いて呼応し、
「やはり、デカイのがいそうじゃな!」
山井が双剣を抜き、気を張り巡らせ、
「どんと来いですっ!」
川奈が大盾を構え集中した。
「状況……開始……!」
玖命が
「「おうっ!!」」
玖命はまだ知らない。
この日この瞬間をもって、クラン【命謳】が、世界的に認知されるようになる事を。
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