第212話 ◆神奈川の救援要請1

 スピーカーから鳴り響くサイレン。


「おわっとっ!?」


 余りの異音にカメラマンの堀田がカメラを落としてしまう。

 そんな中、表情を崩さず玖命が言った。


「静かに!」


 その指示に従うように、御剣と堀田が口を噤む。

 やがて、スピーカーから聞こえてくる相田の声。


『緊急出動依頼です。神奈川県の海老名えびなにてモンスターパレードが発生。Dランク以上の天才は救援に向かってください。詳細ポイントは追って連絡致します』


 相田が連絡を繰り返す中、翔が立ち上がる。


「海老名ぁ!? 神奈川県のど真ん中じゃねーか?」


 そんな疑問に山井が返す。


「神奈川県の派遣所支部は川崎と横浜、それと箱根じゃ。横浜の方が近いが、八王子にも声がかかったという事は、人手が足らんという事じゃな」


 山井の説明に頷く玖命と、溜め息を吐く翔。


「ったく。神奈川の中央にも支部があるべきじゃねーのか?」


 そんな翔の疑問に対し、玖命が言う。


「カバー出来る部分はカバー出来る支部が行う。東京寄りの問題が多いから、神奈川も横浜と川崎に支部を置いてるんだ。お互い様だよ」

「まぁ、しょうがねーか。天才にも限りがあるしな」


 頭を掻きながら、翔が言う。


「Dランクって事は……私も出動ですね!」


 そう言った川奈の表情は、いきいきとしていた。

 これを見た御剣は、真っ先に立ち上がった。


「堀田! 準備!」


 御剣の剣幕けんまくに堀田が驚きを見せる。


「うぇ!? 僕らも行くんですかぁ!?」


 当然の堀田の疑問。しかし御剣もまた当然のように返す。


「【命謳】の戦闘メンバー全員の出陣よ!? 行かない方が馬鹿でしょ! すみません、伊達さん。先に出ます!」

「あ、え? はい」


 ポカンとする玖命。


「ご安心を! 邪魔するような事は致しませんので! 堀田くん、行くよ!」

「は、はいぃ!」


 そそくさとレンタルルームを出ていく御剣と堀田に、伊達は呆気にとられてしまった。


「ほら、きゅーめー! ここはいいから皆で行って来い!」

「あ、うん! それじゃあ行って来ます! あ、それと四条さん」


 ジャケットを脱ぎ、装備を着用し始める玖命。

 そんな玖命の指示を、四条は聞かずとも理解していた。


「わかってる! 越田には私から連絡しておく!」

「よろしくお願いします! 翔!」


 玖命が次に指示を飛ばすのは鳴神翔。


「おうよ!」

「橋本から南下して相模原を突っ切る! 俺が先導するから川奈さんを連れて来い!」


 川奈の天恵は【天騎士】。

 他の天恵と比べると、どうしても速度に難が出る。

 玖命はそれを理解し、翔に指示を出したのだ。


「カカカカッ! 鳴神拓なるがみタクシーの出動だな!」

「やれやれ、儂が後ろか……」


 肩を落とす山井に翔が言う。


「センパイのが速ぇんだから仕方ねーだろが! しっかりブーストかけな!」

「言われなくともやるわい!」


 そんな言い合いの中、川奈の準備が整う。


「準備万端ですっ!」

「よし! 戦闘員出動!」

「「おうっ!」」


 玖命の掛け声と同時、レンタルスペースの扉が開かれ、四人が駆け出す。

 受付を通る際、相田が玖命に叫ぶ。


「伊達くん! 詳細ポイントをメールしました! 海老名をお願いします!」

「了解しました!」


 心配そうな相田に見送られ、クラン【命謳】は受付を駆け抜け、八王子支部を出る。

 直後、川奈が大盾を正面に投げる。

 それに追いつくように翔と山井が駆け出す。


「おっしゃ!」

「掴んだぞ、ららちん!」


 大盾の先端を翔が持ち、末端を山井が持つ。


「はい!」


 その大盾に川奈が跳び乗る。


「鳴神拓シー! ゴーゴーゴーですっ!!」


 先を駆ける玖命の背中を指差し、川奈が言う。

 それに同調するのは、【命謳】最強のガーディアンたち。


「シャアアアアッ! 振り落とされんなよ、嬢ちゃん!!」

「鳴神拓シーへのご乗車、ありがとうございます! シートベルトはございませんので、気合いと忍耐でしがみつきくださいっ!! じゃ!!」


 直後、派遣所前の大地が爆ぜ、鳴神拓シーが発車……否、発射した。

 風を裂くような速度も、川奈は平気な顔で正面にいる玖命の背中を見つめている。それどころか、片手でスマホすら操作しているのだ。


「嬢ちゃん、時間は!?」

「直線距離およそ30km! 車で50分の距離です!」

「センパイ!」

「おうよ!」

「「15分っ!!」」


 翔と山井の二人がそう言うも、


「13分でお願いします!」


 更に要望を伝える川奈だった。

 玖命の速度に付いて行きながらも、翔と山井は乗客に対しクレームを言い放つ。

 そんな四人の背中を見送った四条は、スマホ片手に小さく手を振り、皆を見送る。

 やがて、スマホが相手に繋がる。


「あ、お世話になっております。私、【命謳】の四条ですが、越田さんのお電話でよろしいでしょうか? はい、海老名のモンスターパレードの件で。はい、海老名付近に【大いなる鐘】の傘下クランがいればと思いお電話しました。……ありがとうございます。では、状況を伊達に伝え、こちらで連携を図ってみます。はい、ありがとうございます。ご連絡お待ちしております。それでは、失礼致します」


 電話を切り、スマホを操作し始める四条。


「ま、今のところはこれで限界だな。後は……あいつらの衣装の片付けか……あー、めんどくさ」


 そう言いながら、四条は衣装が脱ぎ散らかされたレンタルルームに戻るのだった。

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