第209話 月刊Newbie2

「ふへへへ~……」


 にへらと笑う川奈さんと、


「おい、きゅーめー! こっち見んなっ!」


 やたらと恥ずかしがっている四条さん。


「玖命はなんかアレだな? 地味だな?」


 翔が派手なんだが?

 というか、肩に「喧嘩上等」って書かれてるの気付かなかった。


「スーツが間に合わないからジャケットとパンツをみことに見繕ってもらったんだよ」

「だよな、玖命にしちゃマトモだと思ったぜ」


 翔がまともだとでも?


「月刊Newbieに載るのは初めてでのう。楽しみじゃな」

「え、山井さん載った事ないんですか?」


 俺が聞くと、たっくんは悲しそうに教えてくれた。


「創刊した時、儂もう還暦近かったし……」


 肩を落とすたっくんに、ガハハと翔が笑う。

 そうか、月刊Newbieが創刊した時には、たっくんはもうベテラン勢。ニュービーと言われる時代ではなかったという事か。

 しかし、気になる。

 何故皆はこんなにも着飾っているのだろうか。

 仕方ない。念のため、釘を刺しておくか……。


「あ、でも、前もって言った通りカメラはNGですからね? 先方にもそう伝えてありますからね?」

「全体写真くらい撮られっだろ?」

「撮らないよ、翔」

「バストアップくらい撮られますよね?」

「撮りませんよ、川奈さん」

「でも、向こうも撮りたいじゃろうに?」

「それとこれとは関係ありません、山井さん」

「「ぶーぶー!」」

「つれない事を言うでない、玖命?」


 おかしい、グループトークで確認した時は皆賛成してくれていたのに。

 これは一体……?

 そんな事を考えていると、視界の端に困った様子の四条さんを捉えた。ちらりと四条さんを見ると、彼女は何故か俺から目を逸らした。


「四条さん」

「な、何だよ……?」

「クラン発足早々に統率がとれてないんですが、何か知ってます?」

「えーっと……知ってるような知らないような……」

「彼ら、写真撮影に乗り気ですよね? 事前に確認はとったのに」

「そ、そうだな」

「ん~~~~……?」


 俺は四条さんに視線を合わせ、その目をじ~~~っと見た。


「わ、わかったわかったから!」


 そんな視線に耐え切れなかったんのか、四条さんは俺の腕を引っ張ってレンタルスペースの端に連れて来た。

 そして、現状の説明をしてくれたのだった。


「はぁ? 証明写真だけじゃつまらない?」

「い、いや……HPホームページに載ってる皆の写真、完全に卒業アルバムじゃん? きゅーめーが話をまとめた後、皆HPとにらめっこして、首を傾げたとかなんとか……」

「そこまでならまだ何もないじゃないですか?」

「その後、事務の私に3人から問い合わせがあって、プロに頼みたいとか言ってさ」

「ふむふむ」

「今日の取材、本当に写真NGなのかってららから言われて、玖命の意向だって伝えたら――」

「――伝えたら?」

「当日直談判するって事で着地した……感じ?」

「不時着もいいとこですね…………はぁ」


 俺は深い溜め息を吐き、四条さんを見た。


「あいつら、その内、自分でとんでもないアーティスト写真みたいなの撮ってきそうでさ。今日この場の写真のが、皆納得するだろうしーって事で、とりあえず今日を迎えた……みたいな?」


 いつも以上に四条さんの勢いがない。

 俺に黙ってた事の引け目だろうか。

 まぁ、彼ら全員を四条さんが抑えられるはずがない。

 特に、事務という立場ならば尚更である。


「次からは相談してくださいね?」

「わ、わかったよ……ごめん」


 なるほど、高校一年生って感じがする。


「別に怒ってませんよ。それじゃ、何とか手綱を握ってきます」

「お、おう……ガンバだ、きゅーめー!」


 四条さんに背中を押され、俺は3人の前に立つ。


「それじゃあ、御剣さんがカメラを持って来てたら撮ってもらうって事でどうですか? 流石に取りに帰ってもらう訳にもいかないですし、こちらが一度断ってる事ですから」

「やたー!」

「カカカカッ! 言ってみるもんだな!」

「うむ、それで異論なしじゃ!」


 皆の同意を得られると、四条さんが俺に言った。


「すげーな。こんな一言で収まるもんか?」

「落としどころを提示しただけですよ。こちらの言い分、相手の言い分のちょうど中間点みたいなところでね。3人も無理言ってる自覚はあるようなので、こちらの提案を呑まざるを得ない、そういう訳です」

「ふーん……でも、あいつら、『言ってみたら通った』みたいな顔してるけど?」

「はぁ、今後もこういう事ばかりなんだろうなー」

「飴、いるか?」

「取材の後にもらいます」

「そか、わかった」

「まぁ、撮影断ってるからカメラなんか持って来てないはずだし、すぐに終わるよ」


 そう言った直後、物凄い美人と、優しそうな男性が俺の視界に入った。


「お世話になってます、月刊Newbieニュービーの御剣ですー」

「カメラマンの堀田でーす」

「「よろしくお願いします」」


 おかしい、カメラどころかカメラマンがやって来た。

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