第210話 月刊Newbie3
「初めまして、伊達玖命です」
俺はそう言って、急ピッチで四条さんに作ってもらった名刺を
「ご丁寧にありがとうございます。こちら、私の名刺になります」
「ありがとうございます」
黒いパンツルックに、白いシャツ、カーキ色の薄手のレディースジャケット。オフィスカジュアルを手本にしたような様相。
パーマがかった茶色のショートボブ……うーむ、【大いなる鐘】の
「どもー堀田ですー」
「あ、これはどうも」
堀田さんは柔和な雰囲気の優しそうな恰幅のいい男性。
名刺にもしっかりカメラマンって書いてある。何故だ。
「あ、今回堀田は勉強のために同行させているんです。お写真はNGという事で伺ってますのでご安心ください」
なるほど、そういう事か。
でも、カメラマンがいるのであれば、こちらから言うのが筋だろう。
「その件なんですが、全員のバストアップと全体写真くらいはお願いしたいという話になりまして、御剣さんと堀田さんがご都合よろしければ撮って頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
瞬間、御剣さんと堀田さんがアイコンタクトのような視線を交わした。微かに口の端が上がったような……? 気のせい?
「ほ、やはりの」
たっくんの言葉でわかった気がする。
なるほど、彼らも【
「では、先にいくつかお話を伺い、その後撮影という流れでいかがでしょうか。月刊Newbieの10月号は、是非【命謳】を表紙にと言われてますので」
そう言われ、俺は川奈さんたちの方を見る。
うんうんと頷く川奈さんとニヤリと笑う翔。
四条さんは……手鏡で自分の顔を見ている。
そしてたっくんは、自身の髭を揉みながら満足そうな表情を浮かべている。
まぁ、川奈氏には普通の写真まではOKって言われてたしな。
仕方ないか。
「それじゃあその方向でお願いします」
「かしこまりました。それでは、【命謳】についてズバリ聞いてしまいますが、よろしいでしょうか?」
「はははは……お手柔らかに……」
そう言うと、御剣さんはテーブルの中央にボイスレコーダーを置き、俺の対面に腰掛けた。
堀田さんは……ふむ、どうやら川奈さんと四条さんが気になっているようだ。まぁ、あの二人はある意味異質なくらい顔立ちが整ってるからな。
それを言うなら、この御剣さんもそうなのだが――うっ!?
視線が鋭い……完全にプロの目である。
「お答えにくい事があれば、ノーコメントで結構ですので、緊張なさらないでください」
営業スマイルも完璧だ。翔の威圧にも負けてないし、下手な天才より度胸がありそうだ。
さて、どんな質問が飛んでくるのか……。
「ではまず、周囲の疑問から埋めていきたいのですが、よろしいですか?」
「え? はい」
いきなりきたな。
「まず、【命謳】というクランに、KWN株式会社との癒着があるのではないかという疑問が多く挙がっています。これについて教えてください」
初手は【命謳】の生い立ちとか聞かれたかったんだが、まぁ、これは仕方ない事だろう。
「おそらくウチのメンバーである川奈ららさんの事を言ってるのだと思いますが、これについては肯定も否定も出来ません」
「癒着があると?」
「親御さんが子供を心配し、川奈さんに対し高額な装備を買い与えたというのが癒着と呼ばれるのであれば、そうかもしれません」
「なるほど、では、クラン結成時にKWNから受けた恩恵は、川奈ららさんの装備だけという事ですか?」
「いえ、川奈さんの装備が高額なのは元からです。クラン結成時にはある程度の装備は揃ってました。なので、クラン結成後に……という事を考えるとそういった話はないかと」
「そうですか。既にいくつかの企業案件を回されたという噂もありますが、これについてはどうでしょう?」
凄いな、そこまでもう調べがついてるのか。
「これについては、川奈……便宜上ららさんと呼ばせて頂きますが。ららさんから、父君の川奈
「詳しく聞かせてください」
「以前から、ららさんとチームで組む事が多く、互いに助け合って仕事をこなしてきました。クラン結成後、ららさんがそれを宗頼氏に報告したところ、私に会いたいという事でご連絡を頂きました」
「そこで仕事の紹介があったと?」
「テストはありましたけどね」
「……テストというと?」
御剣さんにそう聞かれ、俺はボイスレコーダーを指差した。
「一度それ止めてもらっていいですか?」
「え、えぇ、構いませんが?」
「すみません、一応確認はとったんですが、記事になるというと話が別で、レコーダー無しで説明させてください」
「確認……というと、別の方もその場にいらしたと?」
「えぇ、【大いなる鐘】の水谷
「っ!? あ、あの【剣皇】水谷結莉さんがその場に?」
「偶然だと思ってたら宗頼氏が、テストのために呼ばれていたそうで……ははは」
「そ、それで……テストとは一体?」
「水谷さんとの一騎打ち。まぁ、木剣でですけどね」
「しょ、勝敗はっ!?」
普段ならコメントは控えるところだが、ここは【命謳】を高く売る場。たとえオフレコだとしても、御剣さんに大きな印象を与えるには、これが最適。
「勿論、私が勝ちました。でなければ、お仕事は紹介頂けなかったかと」
俺がそう言うと、御剣さんは顔を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます