第207話 ◆その夜2
玖命がクランメンバーと
「お父さん、ちょっといい?」
『
扉の奥にいた一心は
それを知った
パタンとドアを閉め、一心を見る
「えと、何でわかったの?」
「私はお前の父親だぞ? わからないというのが無理な話だ」
「それってやっぱり……」
「あぁ、玖命の事だろ?」
一心の言葉が全てだった。
「そこに」
一心にそう言われ、
一心は正面にあるベッドに腰かけ、
「何だ? 借金生活が終わったっていうのに浮かない顔じゃないか」
「それは……お父さんもでしょ」
「まぁな、それは否定出来んな。はははは」
一心は恥ずかしそうに頭を掻き、苦笑した。
「さっきの夕飯、何だかぎこちなかったなーって」
「そりゃ、祝いたい気持ちと、祝いたくない気持ちがあったからだろうな」
「そ、そんな事……! いや……うん……祝いたくない気持ちがなかったと言ったらウソになるかも……」
そんな
「それが普通だよ」
「でも、それが何でなのか……」
「玖命が……足を止める訳にはいかないからだろうな」
そう言われ、
一心の言葉がスッと頭に入り、また口を結ぶ。
「祝ったら玖命が次のステップに進んでしまう事を理解してたんだろう?」
「……ん…………そうかも」
「天才の仕事は危険ばかり。今まで以上の危険が玖命を襲う。そんな事考えたら……私だって祝える訳がない。ここで終わって欲しいと願うのが普通だよ」
「……うん」
「だけど、玖命は足を止めないよ」
そう言われ、
「……何で?」
「私が育てたから」
「それ……答えになってないよ」
「はははは、まぁ半分は私のせいかもな。玖命は昔からそういう気質だし」
「だから……答えになってないって……」
「じゃあ、
「だってお兄ちゃん……無鉄砲だし、抜けてるところあるし、何より真っ直ぐだし……」
「そういう事だ」
一心が微笑み言う。
「そういう事って……」
「
「……そっか……そうだよね……」
「でも、これからの玖命は違う」
「……え?」
「アイツはこれから、ようやく自分のために走り始める事が出来る。それが、
「……そうかも」
「
「そ、そういうのは今関係ないでしょっ!」
「玖命が手の届かないところに行ってしまうかもしれないという不安はわかる。私もそう思う」
「…………放っておいてやれって言うんでしょ? わかってるよ、それくらい――」
「――いや」
一心の否定に、
「これから、玖命はもっと大変になる」
「な、何で……?」
「有名になる事で付きまとうモノが沢山ある。誹謗中傷、妨害、暗殺、闇社会からの圧力。例を挙げればキリがない。そのどれもを玖命が乗り切れると思うか?」
「お兄ちゃんなら……」
そう言いかけただけで、
「そうだ、玖命がいくら強くなっても、心はたった一つ。それが壊れてしまってたらどうする?」
そんな一心の言葉に、
「そんなの……絶対嫌……!」
「だから、私たちがいる。だろう?」
「っ!」
「これまで私たちは玖命におんぶにだっこだった。まぁ、これからもそうかもしれんが、それを良しとする私でもない」
「…………そうだね。お父さん、大黒柱だもんね」
「だから、これからは伊達家で玖命を助ける。玖命にも友人がいる。相田さん、水谷さん、川奈さん、四条さん、鳴神くん、山井殿……でも、彼らではサポート出来ない事もあるはずだ。玖命が帰る家はここだ。それだけは変わらない。だから、私たちは私たちで出来る事をする。わかるね、
一心の本心とその
「……ぅん」
「玖命のおかげで私の出世も決まった。親としては情けないが、それを息子に返せない程、私も馬鹿じゃない。これからは私たちが玖命に寄り添い、助ける番だ」
「うん……栄養一杯のご飯作る……!」
そう言って、
「ははは、それでいい。でも、何よりも勉強が優先だからな」
「それくらいわかってるよ。この前の期末テストだって学年3位だったんだから」
「やれやれ……ウチの子供は優秀過ぎるなぁ」
そんな一心の言葉を横目に、
「お父さん、ありがとう」
「そう思うなら、明日は国産牛にしてくれ」
「ふふふ、タイムセールで見つけたらね」
そう無邪気に笑い、
部屋の天井を見上げ、一心が呟く。
「タイムセール通いは変わらなさそうだな……」
呆れつつも、顔には笑みが
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