第201話 ◆【命謳】始動3
「おうら! そっち行ったぞ、嬢ちゃん!」
「は、はいぃい!!」
リザードマン上位種――リザードナイト。
ランクはBで、天恵【剣豪】を保有する強者。
翔がリザードナイトを蹴り飛ばし、川奈さんの正面に転がす。
「ほれ、ららちん。もう1体」
「うぇえ?! 2体ですかぁ!?」
これまで川奈が大盾で支えたのは、最高Dランクのサハギンまで。
過去ゴブリンキングの攻撃を耐えた事もあるが、あれは数には入れられないというのが玖命の判断である。
だから、翔と山井は丁寧に川奈の前にリザードナイトを転がし、対峙させてみたのだ。
「ギィアッ! シャアアアッ!!」
リザードナイトが立ち上がり、川奈を睨む。
慌てる川奈を前に、2体のリザードナイトの顔がニヤつく。
「ふぐぅ!?」
川奈の慌てふためく姿を捉え、「こいつならどうにかなる」と判断したのか、リザードナイトたちは嬉々として川奈に襲い掛かった。
「よ、よーし……シールド……バッシュです!」
直後、川奈ららのトレードマーク――ミスリルクラスの大盾が、1体のリザードナイトの顔を潰す。
と同時、そのリザードナイトが、奥に迫っていたもう1体を巻き込み、吹き飛んでいく。
10メートル以上吹き飛ぶリザードナイトを見送り、玖命は乾いた笑い声を出す。
「はははは……ナイスアタック……」
「お~……いいですね、いけそうな気がしてきました!」
そんな川奈の台詞を横目に、玖命は、川奈の身体をじっと見る。
(ミスリルクラスの
そう思いながら、玖命が買ったばかりの軽鎧に触れる。
「カカカカッ! やるじゃねぇか嬢ちゃん! 罰則金なんて何のそのだぁ!」
「ららちんの実力は儂らの折り紙付きじゃ!
「任せろセンパイ! カカカカカッ!」
「ほぉおおおおっほっほっほっほ!」
翔、山井の二人が散り散りになり、ダンジョンの闇に消えていく。
「あーあ……モンスター集めに行っちゃったよ……」
玖命の言葉に苦笑する川奈。
「えーっと……それじゃあ、解体だけ先にしておきますか?」
「そうですね……とも言えないのがダンジョン内なんですよね」
「え、そうなんですか?」
「素早いモンスターがいないとも限らないので、解体は出来るだけダンジョンボスを倒した後が賢明ですね」
「なるほど、勉強になります」
「いや、それはこちらの方だよ」
「え、私、伊達さんに何か教えましたっけ?」
キョトンと小首を傾げる川奈。
「いや、お父さんとの交渉……改めて考えてみたら凄かったなーと思いまして」
「あー、あれですか? お父さんったら酷いですよね!」
「そ、そんなに酷かったですか……?」
「あれじゃ相場レベルですよ」
「……それの何が問題で?」
「私に対する愛情ですね!」
そう言い切った川奈に、玖命の目が点になる。
「本社の月額契約5億、KWN重工3億、私立八王大学2億の計10億の月額報酬。これじゃ【大いなる鐘】と同じレベルですよ!」
「そこ、怒るところなんですね」
「そりゃそうですよ! 私たちは【大いなる鐘】を超えるんですから!」
ぷんぷんと怒る川奈に、アホ毛を跳ねさせる玖命。
「それに契約金が20億円では納得がいかないというものです!」
「結局30億で決まったやつですね……」
「もう少しいけたと思うんですけど……やっぱりまだカードが少ないかと……むぅ」
「カードですか」
「伊達さんが
「0がもう一個増えるんですか!?」
「父も最初はそう考えたようですが、やはり手が止まったそうです」
「は!?」
「
「あー、そういうしがらみもあるんですね」
「お父さんがどんな明確に理由を提示しても、何にでもいちゃもんをつけてくる企業はいるんですよ。そうなれば、KWNの株価にも影響が出てしまうので、結果として会社の損失は大きくなりってしまいます。なので、段階ごとに契約金が更新されるよう、私とお父さんは考えました」
「なるほど、そういう事でしたか…………ん? そ、それって俺のランクが上がったら、また上乗せされるって事ですか?」
「お父さんと話し合ってそういう契約にしましたから」
「おぉ……!?」
「まぁCランクのクランとしては異例中の異例の契約金ですけどね」
玖命があんぐりと口を開けていると、それを見た川奈がくすりと笑う。
「これくらいで驚いてたら、クランの代表は務まりませんよ、伊達さんっ!」
活を入れるように玖命の背中をぽんと叩く川奈。
代表という言葉に、
しばらくして、聞こえてくる二人の男の声。
「カカカカカッ! こっちだトカゲ野郎共っ!」
「ほっほっほ! 三下如きがららちんを落とせると思うな!」
そんな声に、二人はまた苦笑するのだった。
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