第201話 ◆【命謳】始動3

「おうら! そっち行ったぞ、嬢ちゃん!」

「は、はいぃい!!」


 リザードマン上位種――リザードナイト。

 ランクはBで、天恵【剣豪】を保有する強者。

 翔がリザードナイトを蹴り飛ばし、川奈さんの正面に転がす。


「ほれ、ららちん。もう1体」

「うぇえ?! 2体ですかぁ!?」


 これまで川奈が大盾で支えたのは、最高Dランクのサハギンまで。

 過去ゴブリンキングの攻撃を耐えた事もあるが、あれは数には入れられないというのが玖命の判断である。

 だから、翔と山井は丁寧に川奈の前にリザードナイトを転がし、対峙させてみたのだ。


「ギィアッ! シャアアアッ!!」


 リザードナイトが立ち上がり、川奈を睨む。

 慌てる川奈を前に、2体のリザードナイトの顔がニヤつく。


「ふぐぅ!?」


 川奈の慌てふためく姿を捉え、「こいつならどうにかなる」と判断したのか、リザードナイトたちは嬉々として川奈に襲い掛かった。


「よ、よーし……シールド……バッシュです!」


 直後、川奈ららのトレードマーク――ミスリルクラスの大盾が、1体のリザードナイトの顔を潰す。

 と同時、そのリザードナイトが、奥に迫っていたもう1体を巻き込み、吹き飛んでいく。

 10メートル以上吹き飛ぶリザードナイトを見送り、玖命は乾いた笑い声を出す。


「はははは……ナイスアタック……」

「お~……いいですね、いけそうな気がしてきました!」


 そんな川奈の台詞を横目に、玖命は、川奈の身体をじっと見る。


(ミスリルクラスの脛当すねあてに、手甲てこう、軽鎧、あのショートソードも新調されてる。流石にレジェンドクラスはないみたいだが、KWN社長の本気が川奈さんの全身に表れている気がする。俺なんて……このプラチナクラスの軽鎧を三日三晩悩んで買ったのに……)


 そう思いながら、玖命が買ったばかりの軽鎧に触れる。


「カカカカッ! やるじゃねぇか嬢ちゃん! 罰則金なんて何のそのだぁ!」

「ららちんの実力は儂らの折り紙付きじゃ! 最早もはやBランクなぞただの雑兵に過ぎぬ! 後輩、やるぞい!」

「任せろセンパイ! カカカカカッ!」

「ほぉおおおおっほっほっほっほ!」


 翔、山井の二人が散り散りになり、ダンジョンの闇に消えていく。


「あーあ……モンスター集めに行っちゃったよ……」


 玖命の言葉に苦笑する川奈。


「えーっと……それじゃあ、解体だけ先にしておきますか?」

「そうですね……とも言えないのがダンジョン内なんですよね」

「え、そうなんですか?」

「素早いモンスターがいないとも限らないので、解体は出来るだけダンジョンボスを倒した後が賢明ですね」

「なるほど、勉強になります」

「いや、それはこちらの方だよ」

「え、私、伊達さんに何か教えましたっけ?」


 キョトンと小首を傾げる川奈。


「いや、お父さんとの交渉……改めて考えてみたら凄かったなーと思いまして」

「あー、あれですか? お父さんったら酷いですよね!」

「そ、そんなに酷かったですか……?」

「あれじゃ相場レベルですよ」

「……それの何が問題で?」

「私に対する愛情ですね!」


 そう言い切った川奈に、玖命の目が点になる。


「本社の月額契約5億、KWN重工3億、私立八王大学2億の計10億の月額報酬。これじゃ【大いなる鐘】と同じレベルですよ!」

「そこ、怒るところなんですね」

「そりゃそうですよ! 私たちは【大いなる鐘】を超えるんですから!」


 ぷんぷんと怒る川奈に、アホ毛を跳ねさせる玖命。


「それに契約金が20億円では納得がいかないというものです!」

「結局30億で決まったやつですね……」

「もう少しいけたと思うんですけど……やっぱりまだカードが少ないかと……むぅ」

「カードですか」

「伊達さんがシングル、私がAランクにでもなれば、おそらく契約金は100憶を超すはずです」

「0がもう一個増えるんですか!?」

「父も最初はそう考えたようですが、やはり手が止まったそうです」

「は!?」

シングルの翔さん、SSダブルの山じーさんを擁したところで、【命謳】の代表はCランクの伊達さん。ともなれば、他の企業……中小、大企業問わず、KWNに異を唱えるところも出て来るんですよ。「そんな弱小クランに大金を使うんじゃない」ってね」

「あー、そういうしがらみもあるんですね」

「お父さんがどんな明確に理由を提示しても、何にでもいちゃもんをつけてくる企業はいるんですよ。そうなれば、KWNの株価にも影響が出てしまうので、結果として会社の損失は大きくなりってしまいます。なので、段階ごとに契約金が更新されるよう、私とお父さんは考えました」

「なるほど、そういう事でしたか…………ん? そ、それって俺のランクが上がったら、また上乗せされるって事ですか?」

「お父さんと話し合ってそういう契約にしましたから」

「おぉ……!?」

「まぁCランクのクランとしては異例中の異例の契約金ですけどね」


 玖命があんぐりと口を開けていると、それを見た川奈がくすりと笑う。


「これくらいで驚いてたら、クランの代表は務まりませんよ、伊達さんっ!」


 活を入れるように玖命の背中をぽんと叩く川奈。

 代表という言葉に、背筋せすじをピンと伸ばす玖命。

 しばらくして、聞こえてくる二人の男の声。


「カカカカカッ! こっちだトカゲ野郎共っ!」

「ほっほっほ! 三下如きがららちんを落とせると思うな!」


 そんな声に、二人はまた苦笑するのだった。

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