第196話 一心の会社1

 ◇◆◇ 20XX年9月11日 10:00 ◆◇◆


 玖命――――玖命さんが写真を2枚添付しました。

 Rala――あ、伊達さんのスーツ姿初めて見ました!かっこいいですー!

 四条棗―――いいんじゃね?

 血みどろ――あんだよ?葬式でもあんのか?

 たっくん――似合ってるー!^^

 玖命――――今後代表として人前に出る可能性があるって事で、スーツを買うんですが、どっちがいいかなと意見を窺いたくて。

 Rala――濃紺か黒ですか。どちらも汎用性はありそうですね。うーん……黒ですかね?

 四条棗―――黒

 血みどろ――黒だな

 たっくん――黒がいいね


「……何故こんなにも黒しなのか……」


 玖命――――何で濃紺が駄目なんですかね?

 Rala――えー、だって命謳のTシャツ、ワインレッドですよ?

 四条棗―――インナーにTシャツ着るなら黒のが映えるじゃん

 血みどろ――そゆこった

 たっくん――でも、濃紺も似合うから買っておけばー?


「なるほど……そういうものか。ラフな場ではTシャツ、フォーマルな場では、シャツにネクタイ……か」

「玖命、そろそろ時間だぞ。決まったか?」

「あぁ、悪いな親父」


 紳士服店にやって来た俺と親父――伊達だて一心いっしん

 クラン創立から一日しか経っていないのに、もう三日か四日は経っているんじゃなかろうかと思う程あわただしい。

 採寸を終え、会計を済ませる。

 その金額に俺は目玉が飛び出そうになった。

 俺が財布を出そうとすると、親父が前に出て会計を済ませてしまった。


「え、親父……いいの?」

「何言ってんだ、玖命の成人式用のスーツ代だよ、これは」


 そういえば、天才になったおかげで、成人式なんてものとは縁がなかったな。行くには行けただろうが、俺自身がそんな気持ちじゃなかったし。


「あ、ありがとう」

「どうだ、一心の威厳」


 言わなきゃカッコイイんだけどな。


「あ、でももう一着買うんだよね」


 直後、親父の威厳は崩れ去った。

 サラサラになって換気扇に呑み込まれたかと思うくらい、存在感が消えていた。


「親父、大丈夫か……?」

「一心……お小遣い……また……貯める」


 言葉を覚えたての宇宙人みたいになってしまった。

 仕方ない、みことに親父の財布の中身を交渉するか。


 玖命―――――悪いみこと

 命王の妹―――何?

 玖命―――――凄い名前だな

 命王の妹―――もうすぐ授業だから早目にお願い

 玖命―――――帰ったら親父の財布に10万足しといて

 命王の妹―――どうして?

 玖命―――――一心の威厳のため

 命王の妹―――ならしょうがないわね。わかった

 玖命―――――よろしく


「……ったく、命王案はなくなったと思ってたんだけどなぁ」

「玖命、行くぞ。完成は二週間後だと」

「わかった、それじゃあ俺が取りに来るよ。【天武会】には間に合うならよかった」

「ん」


 親父から引換証を貰い、ポケットにしまう。


「にしても、イージーオーダーとはいえ、よかったの?  吊るしのスーツでもよかったんだけど……」

「いいんだよ、しっかりとしたスーツの1着や2着、クランの代表が持ってないのは問題だぞ」


 むぅ、確かに見栄えは重要か……越田さんもマスコミの前では戦闘用の武具を装備している時以外はスーツだし、そんなものか。

 公式オフィシャルな場か……それを考えるだけで憂鬱だなぁ。


「よし、それじゃあ会社に行こう」

「重役出勤ってやつだな」

「息子を連れて行くってなったら、社長が融通してくれたんだ。私の命がかかってる、頼むぞ玖命」


 なら何で話を通したのか……いや、親父なりの営業か。

 川奈さんを通してKWNの川奈氏に会えなかったら、【命謳めいおう】はただの寄せ集めクラン。一社でも企業依頼があれば、箔が付くと思ったのだろう。これも愛情というやつだろうか。


「よし、行くぞ出世街道!」


 愛情以外によこしまなものもありそうだけどな。

 まぁ、親父の会社――テクノライクエンジニアリング……【TLE】の社長【穂積ほづま賢二けんじ】さんには、家の事でお世話になっている。

 今回は恩を返す意味でも、良い話し合いが出来ればいいところだ。


「豊田……か」

「そう、豊田。私のホームグラウンド。日野市の事なら一心になんでもござれだ」


 八王子市に隣接している日野市豊田。

 最近では大きな商業施設が増え、人口も増加中という話だ。


「そういえばTLEってどういう会社なんだっけ? 日用品を造ってるって話は聞いた事があるんだけど……?」

「あぁ、TLEウチは魔石工学を利用した日用品製造・販売業だな」

「あれ、魔石事業なんてやってたんだ」

「最近な」

「え、もしかして親父がちょっと前にストレス溜めてたのって……」

「何だ、みことに聞いたのか? あれはデカい契約の商談が直前に控えててな。玖命が戦ってる間、私も商談相手と交渉合戦してたんだよ」

「親父、営業じゃないだろ」

「企画・開発だな。でも、営業先に付き添う事はあるぞ。専門的な話になる場合もあるからな」


 それは知らなかった。


「え、じゃあもしかして【命謳ウチ】と結びたい契約って――」

「――そう、派遣所を通して、【命謳めいおう】が稼いだ魔石を納品して欲しいんだよ」


 なるほど、思わぬところで親父と接点が出来たものだ。

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