第192話 一方その頃
『やったやった! 伊達さんの勝ちですぅー!』
【剣皇】
その隣で目を丸くしている川奈氏の声がスピーカーから届く。
『な、何という事だ……! まさかこれ程とは……!?』
どうやら、及第点……いや、合格点以上の結果は出せたようだ。
『お父さん!? 【
川奈さんが言い張るも、
『いや、出来たばかりのクランだし……伊達君はCランクだし……』
俺も川奈氏の感想に同感である。
出来たばかりのCランクが代表のクランなんて、ほとんど見向きされない。
まぁ、
『いつもお父さんが「物事は本質で見、判断するように」って言ってるじゃない!』
『そ、その通りです……』
あぁ、川奈さんは川奈家でも最強なんだな。
そう思ってしまうくらいには、川奈氏の威厳なんてなかった。
勿論、それは川奈さんの前でだけなんだろう。
「あー……負けた負けた」
「おっと、大丈夫ですか? 今、回復しますね」
「女の子を痛めつけてから回復するなんて、玖命クンは中々猟奇的だね」
「……どうやら回復魔法はいらないようですね」
「あ、いるいる! 欲しい! 欲しいですっ!」
そう言って正座する水谷は、どこか嬉しそうだった。
回復魔法をかけはじめると、水谷は再び口を開いた。
「ふふふふ……」
「何ですか気持ち悪い……?」
「いや~、【
【
「一応出るつもりですけど、そんなものですか?」
「だってだって、何事もなければ決勝は【
「何事もなければ決勝は【大いなる鐘】と【インサニア】ですよ」
言うと、水谷が目を見開いて俺に言った。
「え、何でっ!? 昨年のレベルを考えると、絶対に【
「だってウチ、【新設クラン部門】ですから」
俺の言葉に、水谷は更に肉薄してきた。
「何おかしな事言ってるのっ!? 【拳聖】に【二天一流】に【天騎士】! 下位クランが相手出来る訳ないじゃない! そんなの交通事故みたいなもの……ううん、空から衛星でも降って来るレベルよ!」
「いや、翔は【拳皇】ですよ」
「そういえばそうだった! じゃあもっと大変じゃない! ウチの傘下クランも出場するんだから自信喪失しちゃうじゃない!」
「でも、出場規定にクラン結成1年未満は新設クラン部門って書いてありますし、変更は出来ませんよ」
俺がそう言うと、水谷は頭を抱えた。
「何てふざけた規定なの……!?」
当たり前の規定だと思うんだけどな。
だが、水谷は諦めを知らなかった。
「そうだ! 社長っ!」
視線の先には、娘にホールドアップしてる川奈社長。
『へ?』
「確か【天武会】のメインスポンサーでしたよねっ!?」
『え? 確かにその通りだが……』
「【
「あの、それはちょっと――」
と、俺が言いかけるも、
『おぉ! その手がありましたねっ! 伊達さん! 本戦出ましょうよー!?』
我がクランメンバーが大賛成である。
スポンサー様は何やら考えているようだが、まさかこの案が通る訳がない。
『確かに水谷君の言葉は
そんなに甘くないだろうに。
「余裕で勝っちゃいますよ!」
「なら新人全員と伊達さんで勝負って事にしたらどうかな、お父さん?」
水谷の言葉に頷き、娘の言葉には困る川奈氏。
『うーむ……特別枠……か、現段階では難しいと言わざるを得ない』
『「そんな!? どうしてっ!?」』
水谷と川奈さんの言葉が揃う。
『メインスポンサーは一社だけじゃないからだよ』
そういえば、今年のメインスポンサーは――、
『【
なるほど、それで川奈氏は「現段階では」と言ったのか。
『伊達君、水谷君、今の訓練動画……両社に見せても?』
俺と水谷は見合い、川奈氏に向き直って頷く。
【天武会】に出場すれば、俺たちの実力や顔は全世界に公表される事になる。
今更それを拒む理由はない。
『では、それは別件として確認するとして……二人共、応接室まで戻ろうか』
そう言われ、俺たちは再び、先程の応接室という名の応接フロアへと戻って行った。
【天武会】まで残り1ヶ月近い。
それまでの間、俺たちは訓練と依頼を並行してこなし、備えなければならない。
…………そういえば、新しい軽鎧も新調しなくちゃなぁ。
「そうだ伊達さん!」
エレベーターの中、川奈さんが俺に言った。
「何です?」
「クランのユニフォームを作りましょう! まずはTシャツから! 【天武会】に出場して好成績を出せば、グッズ化して売れますよ!」
330円のTシャツ何枚売るつもりなんだろ、この子。
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